28 / 34
第二部 ムーンダガーの冒険者たち
2-8 学校開放日
しおりを挟む
「これだっ!これが食いたかった!」
ケイが二つも三つも口に放り込んでもっちもっちと食感を楽しんでいるのは、昔フィエストプエムでレシピを買っていたチーズパンだった。
「リュリュん家は味にうるせーから食材も良いもんが揃っててさ、オレん家で作るよりうまいのが出来るんだよな」
誰が使っても同じ式であれば完成品も同じ物になる。その完成品の品質は魔法の使用者ではなく元素材に依存するため、材料が良いものである程完成品の質も上がっていく。首都に住んでいれば良い素材がたくさん流通しているだろうから、食に限らず単純な式でも良いものが出来るんだろうな。
「褒めて貰って嬉しいところだけど、さすがにうちでも手作りが出来る料理人はいないよ~」
リュリュが食事の手を止めて、僕の頭をぐりぐり撫でてくる。何故か隣に座っているナナンが誇らしげな顔をしている。
高品質の素材と料理の式がいくらでも揃っているなら、一層手料理である必要がない。「手作り=美味しい」と何故か信じ切っているグルメトリオは正直言ってヘンテコだと思う。
「明日のことだけど、僕たちはいつも通り授業があるから一緒にいられないんだよねえ。でも学校案内には可愛いのがくっ付いてくるから、期待してて」
「帰りは皆で一緒に帰ろう、プエムにも会わせてやりたい」
-----------
「チチッ」
白くてもふもふした小鳥がナナンの肩に留まった。シマエナガっぽい顔つきとフォルムだけど、全体が真っ白だ。
よく見ると首元にネックレスのようなものを着けている。もふもふに埋まっていてわかりにくかったので、その小さいプレート部分を摘んでみると「ユン」と書いてあった。
「自分のお名前下げてるのかな?」
「…かわいいね」
くるくると首を傾げている。いつかの幼きヒポグリフを思い出す。顔周りを指で軽く撫でるとその小鳥は気持ちよさそうに顔を上げた。
まだ学校の敷地に入ったばかりだが、周りの見学者を見てみるとそれぞれに白い小鳥がついて来ている。昨日リュリュが言っていた”可愛い学校案内人”はこの子のことらしい。
学校の門をくぐった瞬間、小鳥たちが一斉に飛び立つ。見上げるような高さと特徴的な尖頭型アーチ。これが学校?城とか聖堂に近い荘厳な佇まいだ。
ぐるりと回って小鳥たちが戻って来たので腕を伸ばすとその手に止まってくれた。ネームプレートを見ると、ちゃんと”ユン”だった。
「好きに見ていいって言ってたね」
「小鳥が怒る方向は…立ち入り禁止だなんてユニークだね…」
「怒っても、きっとかわいい」
受付を済ませると、導くようにユンが飛び回る。
「やっぱりここは冒険科のみんなが出てる授業が見たいな」
「チチッ」
”冒険科”の案内表示に留まったと思ったら「チチチ…」とさえずりながら向こうに飛んで行ってしまった。
「ついてこいってことかな」
「そうかも…」
「置いて行かれないようにしないと」
-----------
僕にはどうやら迷子の才能があるらしい。
異世界転生、迷子のチート能力。そんなのあってたまるか。
こんな時のために、はぐれた時に集合する建物を決めておいてよかった。もう以前の僕とは違う。なんと言ってもナナンと夜更かししながら対策を練ったもんね。
集合場所の大きな鐘がついた塔を見つけた。この中庭を突っ切ると近そうだ。
塔のてっぺんにぶら下がっている黄金色の鐘をまっすぐに見つめながら歩いて行く。中庭を歩いてる途中で、ここの制服を着ている男女数人に囲まれた。
え?何事?
「この間駅でリュリュくん達と一緒にいた子でしょ!」
「知り合いなの?」
「ジュノー先輩とどういう関係??」
「今日も一緒に行動してるってことだよね?」
「はい?」
質問攻め。話の内容的におそらく駅で遠巻きにキャーキャー言っていた子達だと思う。学校で名が知れて困っているという話は本当に本当に本当らしい。というか実際は学校外でも有名っぽい。
「噂で聞いたけど、あなたがリュリュ先輩のパーティのステラだって本当?」
「えっそうなの?!」
「まだ探してる途中って聞いてたのに!ショック…」
ファンの中にとんでもなく考察の鋭い人がいる…僕のことを駅で見ただけだろうに、その高い情報処理能力はぜひ別のことに活かして欲しい。
「こんなちんちくりんにステラが務まるなら俺でもいいはずだろ!」
「学校のヤツに取られたならまだしもなんでお前?」
「事の重要さがわからないようなチビくんは辞退した方がいいと思うな」
わあ。若い…若いってこういうことだよなあ。
一応普段は年相応に見えるような振る舞いをしようと気をつけているが、体だけが子供の僕にはない、まだ青い心に触れてしみじみ思う。
とりあえず、ステラは憧れの対象ということを今初めて知った。彼らの気持ちもわからなくはない。でも3人はその想いがこういったトラブルに繋がると知っていたから、無関係な僕に頼んだのだ。今回はその意図を汲みたい。
お金持ちの若者諸君、なんでも思い通りになるとは考えないことだ。
.
ケイが二つも三つも口に放り込んでもっちもっちと食感を楽しんでいるのは、昔フィエストプエムでレシピを買っていたチーズパンだった。
「リュリュん家は味にうるせーから食材も良いもんが揃っててさ、オレん家で作るよりうまいのが出来るんだよな」
誰が使っても同じ式であれば完成品も同じ物になる。その完成品の品質は魔法の使用者ではなく元素材に依存するため、材料が良いものである程完成品の質も上がっていく。首都に住んでいれば良い素材がたくさん流通しているだろうから、食に限らず単純な式でも良いものが出来るんだろうな。
「褒めて貰って嬉しいところだけど、さすがにうちでも手作りが出来る料理人はいないよ~」
リュリュが食事の手を止めて、僕の頭をぐりぐり撫でてくる。何故か隣に座っているナナンが誇らしげな顔をしている。
高品質の素材と料理の式がいくらでも揃っているなら、一層手料理である必要がない。「手作り=美味しい」と何故か信じ切っているグルメトリオは正直言ってヘンテコだと思う。
「明日のことだけど、僕たちはいつも通り授業があるから一緒にいられないんだよねえ。でも学校案内には可愛いのがくっ付いてくるから、期待してて」
「帰りは皆で一緒に帰ろう、プエムにも会わせてやりたい」
-----------
「チチッ」
白くてもふもふした小鳥がナナンの肩に留まった。シマエナガっぽい顔つきとフォルムだけど、全体が真っ白だ。
よく見ると首元にネックレスのようなものを着けている。もふもふに埋まっていてわかりにくかったので、その小さいプレート部分を摘んでみると「ユン」と書いてあった。
「自分のお名前下げてるのかな?」
「…かわいいね」
くるくると首を傾げている。いつかの幼きヒポグリフを思い出す。顔周りを指で軽く撫でるとその小鳥は気持ちよさそうに顔を上げた。
まだ学校の敷地に入ったばかりだが、周りの見学者を見てみるとそれぞれに白い小鳥がついて来ている。昨日リュリュが言っていた”可愛い学校案内人”はこの子のことらしい。
学校の門をくぐった瞬間、小鳥たちが一斉に飛び立つ。見上げるような高さと特徴的な尖頭型アーチ。これが学校?城とか聖堂に近い荘厳な佇まいだ。
ぐるりと回って小鳥たちが戻って来たので腕を伸ばすとその手に止まってくれた。ネームプレートを見ると、ちゃんと”ユン”だった。
「好きに見ていいって言ってたね」
「小鳥が怒る方向は…立ち入り禁止だなんてユニークだね…」
「怒っても、きっとかわいい」
受付を済ませると、導くようにユンが飛び回る。
「やっぱりここは冒険科のみんなが出てる授業が見たいな」
「チチッ」
”冒険科”の案内表示に留まったと思ったら「チチチ…」とさえずりながら向こうに飛んで行ってしまった。
「ついてこいってことかな」
「そうかも…」
「置いて行かれないようにしないと」
-----------
僕にはどうやら迷子の才能があるらしい。
異世界転生、迷子のチート能力。そんなのあってたまるか。
こんな時のために、はぐれた時に集合する建物を決めておいてよかった。もう以前の僕とは違う。なんと言ってもナナンと夜更かししながら対策を練ったもんね。
集合場所の大きな鐘がついた塔を見つけた。この中庭を突っ切ると近そうだ。
塔のてっぺんにぶら下がっている黄金色の鐘をまっすぐに見つめながら歩いて行く。中庭を歩いてる途中で、ここの制服を着ている男女数人に囲まれた。
え?何事?
「この間駅でリュリュくん達と一緒にいた子でしょ!」
「知り合いなの?」
「ジュノー先輩とどういう関係??」
「今日も一緒に行動してるってことだよね?」
「はい?」
質問攻め。話の内容的におそらく駅で遠巻きにキャーキャー言っていた子達だと思う。学校で名が知れて困っているという話は本当に本当に本当らしい。というか実際は学校外でも有名っぽい。
「噂で聞いたけど、あなたがリュリュ先輩のパーティのステラだって本当?」
「えっそうなの?!」
「まだ探してる途中って聞いてたのに!ショック…」
ファンの中にとんでもなく考察の鋭い人がいる…僕のことを駅で見ただけだろうに、その高い情報処理能力はぜひ別のことに活かして欲しい。
「こんなちんちくりんにステラが務まるなら俺でもいいはずだろ!」
「学校のヤツに取られたならまだしもなんでお前?」
「事の重要さがわからないようなチビくんは辞退した方がいいと思うな」
わあ。若い…若いってこういうことだよなあ。
一応普段は年相応に見えるような振る舞いをしようと気をつけているが、体だけが子供の僕にはない、まだ青い心に触れてしみじみ思う。
とりあえず、ステラは憧れの対象ということを今初めて知った。彼らの気持ちもわからなくはない。でも3人はその想いがこういったトラブルに繋がると知っていたから、無関係な僕に頼んだのだ。今回はその意図を汲みたい。
お金持ちの若者諸君、なんでも思い通りになるとは考えないことだ。
.
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。

失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった
無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。
そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。
チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる