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第二部 ムーンダガーの冒険者たち
2-8 学校開放日
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「これだっ!これが食いたかった!」
ケイが二つも三つも口に放り込んでもっちもっちと食感を楽しんでいるのは、昔フィエストプエムでレシピを買っていたチーズパンだった。
「リュリュん家は味にうるせーから食材も良いもんが揃っててさ、オレん家で作るよりうまいのが出来るんだよな」
誰が使っても同じ式であれば完成品も同じ物になる。その完成品の品質は魔法の使用者ではなく元素材に依存するため、材料が良いものである程完成品の質も上がっていく。首都に住んでいれば良い素材がたくさん流通しているだろうから、食に限らず単純な式でも良いものが出来るんだろうな。
「褒めて貰って嬉しいところだけど、さすがにうちでも手作りが出来る料理人はいないよ~」
リュリュが食事の手を止めて、僕の頭をぐりぐり撫でてくる。何故か隣に座っているナナンが誇らしげな顔をしている。
高品質の素材と料理の式がいくらでも揃っているなら、一層手料理である必要がない。「手作り=美味しい」と何故か信じ切っているグルメトリオは正直言ってヘンテコだと思う。
「明日のことだけど、僕たちはいつも通り授業があるから一緒にいられないんだよねえ。でも学校案内には可愛いのがくっ付いてくるから、期待してて」
「帰りは皆で一緒に帰ろう、プエムにも会わせてやりたい」
-----------
「チチッ」
白くてもふもふした小鳥がナナンの肩に留まった。シマエナガっぽい顔つきとフォルムだけど、全体が真っ白だ。
よく見ると首元にネックレスのようなものを着けている。もふもふに埋まっていてわかりにくかったので、その小さいプレート部分を摘んでみると「ユン」と書いてあった。
「自分のお名前下げてるのかな?」
「…かわいいね」
くるくると首を傾げている。いつかの幼きヒポグリフを思い出す。顔周りを指で軽く撫でるとその小鳥は気持ちよさそうに顔を上げた。
まだ学校の敷地に入ったばかりだが、周りの見学者を見てみるとそれぞれに白い小鳥がついて来ている。昨日リュリュが言っていた”可愛い学校案内人”はこの子のことらしい。
学校の門をくぐった瞬間、小鳥たちが一斉に飛び立つ。見上げるような高さと特徴的な尖頭型アーチ。これが学校?城とか聖堂に近い荘厳な佇まいだ。
ぐるりと回って小鳥たちが戻って来たので腕を伸ばすとその手に止まってくれた。ネームプレートを見ると、ちゃんと”ユン”だった。
「好きに見ていいって言ってたね」
「小鳥が怒る方向は…立ち入り禁止だなんてユニークだね…」
「怒っても、きっとかわいい」
受付を済ませると、導くようにユンが飛び回る。
「やっぱりここは冒険科のみんなが出てる授業が見たいな」
「チチッ」
”冒険科”の案内表示に留まったと思ったら「チチチ…」とさえずりながら向こうに飛んで行ってしまった。
「ついてこいってことかな」
「そうかも…」
「置いて行かれないようにしないと」
-----------
僕にはどうやら迷子の才能があるらしい。
異世界転生、迷子のチート能力。そんなのあってたまるか。
こんな時のために、はぐれた時に集合する建物を決めておいてよかった。もう以前の僕とは違う。なんと言ってもナナンと夜更かししながら対策を練ったもんね。
集合場所の大きな鐘がついた塔を見つけた。この中庭を突っ切ると近そうだ。
塔のてっぺんにぶら下がっている黄金色の鐘をまっすぐに見つめながら歩いて行く。中庭を歩いてる途中で、ここの制服を着ている男女数人に囲まれた。
え?何事?
「この間駅でリュリュくん達と一緒にいた子でしょ!」
「知り合いなの?」
「ジュノー先輩とどういう関係??」
「今日も一緒に行動してるってことだよね?」
「はい?」
質問攻め。話の内容的におそらく駅で遠巻きにキャーキャー言っていた子達だと思う。学校で名が知れて困っているという話は本当に本当に本当らしい。というか実際は学校外でも有名っぽい。
「噂で聞いたけど、あなたがリュリュ先輩のパーティのステラだって本当?」
「えっそうなの?!」
「まだ探してる途中って聞いてたのに!ショック…」
ファンの中にとんでもなく考察の鋭い人がいる…僕のことを駅で見ただけだろうに、その高い情報処理能力はぜひ別のことに活かして欲しい。
「こんなちんちくりんにステラが務まるなら俺でもいいはずだろ!」
「学校のヤツに取られたならまだしもなんでお前?」
「事の重要さがわからないようなチビくんは辞退した方がいいと思うな」
わあ。若い…若いってこういうことだよなあ。
一応普段は年相応に見えるような振る舞いをしようと気をつけているが、体だけが子供の僕にはない、まだ青い心に触れてしみじみ思う。
とりあえず、ステラは憧れの対象ということを今初めて知った。彼らの気持ちもわからなくはない。でも3人はその想いがこういったトラブルに繋がると知っていたから、無関係な僕に頼んだのだ。今回はその意図を汲みたい。
お金持ちの若者諸君、なんでも思い通りになるとは考えないことだ。
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ケイが二つも三つも口に放り込んでもっちもっちと食感を楽しんでいるのは、昔フィエストプエムでレシピを買っていたチーズパンだった。
「リュリュん家は味にうるせーから食材も良いもんが揃っててさ、オレん家で作るよりうまいのが出来るんだよな」
誰が使っても同じ式であれば完成品も同じ物になる。その完成品の品質は魔法の使用者ではなく元素材に依存するため、材料が良いものである程完成品の質も上がっていく。首都に住んでいれば良い素材がたくさん流通しているだろうから、食に限らず単純な式でも良いものが出来るんだろうな。
「褒めて貰って嬉しいところだけど、さすがにうちでも手作りが出来る料理人はいないよ~」
リュリュが食事の手を止めて、僕の頭をぐりぐり撫でてくる。何故か隣に座っているナナンが誇らしげな顔をしている。
高品質の素材と料理の式がいくらでも揃っているなら、一層手料理である必要がない。「手作り=美味しい」と何故か信じ切っているグルメトリオは正直言ってヘンテコだと思う。
「明日のことだけど、僕たちはいつも通り授業があるから一緒にいられないんだよねえ。でも学校案内には可愛いのがくっ付いてくるから、期待してて」
「帰りは皆で一緒に帰ろう、プエムにも会わせてやりたい」
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「チチッ」
白くてもふもふした小鳥がナナンの肩に留まった。シマエナガっぽい顔つきとフォルムだけど、全体が真っ白だ。
よく見ると首元にネックレスのようなものを着けている。もふもふに埋まっていてわかりにくかったので、その小さいプレート部分を摘んでみると「ユン」と書いてあった。
「自分のお名前下げてるのかな?」
「…かわいいね」
くるくると首を傾げている。いつかの幼きヒポグリフを思い出す。顔周りを指で軽く撫でるとその小鳥は気持ちよさそうに顔を上げた。
まだ学校の敷地に入ったばかりだが、周りの見学者を見てみるとそれぞれに白い小鳥がついて来ている。昨日リュリュが言っていた”可愛い学校案内人”はこの子のことらしい。
学校の門をくぐった瞬間、小鳥たちが一斉に飛び立つ。見上げるような高さと特徴的な尖頭型アーチ。これが学校?城とか聖堂に近い荘厳な佇まいだ。
ぐるりと回って小鳥たちが戻って来たので腕を伸ばすとその手に止まってくれた。ネームプレートを見ると、ちゃんと”ユン”だった。
「好きに見ていいって言ってたね」
「小鳥が怒る方向は…立ち入り禁止だなんてユニークだね…」
「怒っても、きっとかわいい」
受付を済ませると、導くようにユンが飛び回る。
「やっぱりここは冒険科のみんなが出てる授業が見たいな」
「チチッ」
”冒険科”の案内表示に留まったと思ったら「チチチ…」とさえずりながら向こうに飛んで行ってしまった。
「ついてこいってことかな」
「そうかも…」
「置いて行かれないようにしないと」
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僕にはどうやら迷子の才能があるらしい。
異世界転生、迷子のチート能力。そんなのあってたまるか。
こんな時のために、はぐれた時に集合する建物を決めておいてよかった。もう以前の僕とは違う。なんと言ってもナナンと夜更かししながら対策を練ったもんね。
集合場所の大きな鐘がついた塔を見つけた。この中庭を突っ切ると近そうだ。
塔のてっぺんにぶら下がっている黄金色の鐘をまっすぐに見つめながら歩いて行く。中庭を歩いてる途中で、ここの制服を着ている男女数人に囲まれた。
え?何事?
「この間駅でリュリュくん達と一緒にいた子でしょ!」
「知り合いなの?」
「ジュノー先輩とどういう関係??」
「今日も一緒に行動してるってことだよね?」
「はい?」
質問攻め。話の内容的におそらく駅で遠巻きにキャーキャー言っていた子達だと思う。学校で名が知れて困っているという話は本当に本当に本当らしい。というか実際は学校外でも有名っぽい。
「噂で聞いたけど、あなたがリュリュ先輩のパーティのステラだって本当?」
「えっそうなの?!」
「まだ探してる途中って聞いてたのに!ショック…」
ファンの中にとんでもなく考察の鋭い人がいる…僕のことを駅で見ただけだろうに、その高い情報処理能力はぜひ別のことに活かして欲しい。
「こんなちんちくりんにステラが務まるなら俺でもいいはずだろ!」
「学校のヤツに取られたならまだしもなんでお前?」
「事の重要さがわからないようなチビくんは辞退した方がいいと思うな」
わあ。若い…若いってこういうことだよなあ。
一応普段は年相応に見えるような振る舞いをしようと気をつけているが、体だけが子供の僕にはない、まだ青い心に触れてしみじみ思う。
とりあえず、ステラは憧れの対象ということを今初めて知った。彼らの気持ちもわからなくはない。でも3人はその想いがこういったトラブルに繋がると知っていたから、無関係な僕に頼んだのだ。今回はその意図を汲みたい。
お金持ちの若者諸君、なんでも思い通りになるとは考えないことだ。
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