Fitter / 異世界の神は細部に宿るか

あける

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第二部 ムーンダガーの冒険者たち

2-7 機関車に乗って

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魔素を動力源にした機関車にみんなで乗り込む。

僕とナナンはもちろん初めての機関車。
シモンちゃんは近くの街へ行くのに何度か乗ったことがあるらしいが、首都まで行くのは今回が初めてと言っていた。

キョロキョロと忙しなく辺りを見回してしまう。

内装に木が使われているが魔法で製作された物なので古めかしい印象はないし、歩いても軋む音はしない。深い木のブラウンに合わせて、同じような色味の布地が座席に張ってあって、手触りも中々良い。壁や座席、カーテンには所々キャラメル色の蔦模様が広がっていて、それが列車全体の落ち着いた雰囲気に合っている。

見送りに来てくれた先生に、この町から首都のムーンダガーまでは大体7時間くらい掛かると聞いていた。本当に粗末な作りの列車だった場合に長時間耐えられるだろうかと震えていたが、その心配は不要だったようだ。

このクオリティの高さ、異世界人が作ってるんじゃないだろうか。

乗り込んでから初めて知ったが今回僕たちには個室が用意されていた。そもそもこの列車自体が相当に良い物ということだ。

そんなお金が一体どこからやってきたのかというと、それは例の魔法学校であった。なんと学校が金持ちすぎて開放日に見学に来る者全ての交通費を負担してくれる。それだけ才能ある者の好機を逃さないということなのか、ただ本当にものすごくお金があって交通費など些末な事に過ぎないのか、僕には全くわからなかった。

食事も付いているという事で、食堂車に移動してお昼ご飯を頂いた。

「あんまり、美味しくない」
「コラッ!そういうのは部屋に戻ってから!」

確かに味気ないというか、旨味が薄い。ちらっとシモンちゃんの方を見ると、半分ほど残してフォークを置いていた。しょぼん、眉とお耳が垂れている。食欲の薄いシモンちゃんだが、こんなに立派な列車ならご飯もさぞ美味しかろうと期待していたのかもしれない。

僕は今回シモンちゃんのご飯とお風呂の面倒を任されている。あって欲しくはなかったが、こんな事もあろうかと思いお弁当を持ってきていた。

「あー…実はお弁当作って持」
「「食べる」」


 -----------


お弁当を食べた後は、車窓から見える景色を楽しんだ。

全体的に植物がピンク色を帯びた大きな湿地帯を通ると、巨大な首長竜の群れが木の葉を食んでいるのが見えた。色味はファンタジーだけど、恐竜がいた頃の地球ってこういう風景だったのかな。

今、何よりも異世界を満喫しているという感じがしてくる。

しばらく走ると草木の一切がなくなり、荒い岩肌が見えてくる。車内がふっと暗くなると、流れる景色の一部がキラキラと輝いていることに気がついた。剥き出しになった鉱石に列車から放たれた明かりが反射して、まるで流星群に包まれたような心地だった。

ペンが紙の上をなめらかに走る音が聞こえてきて、意識が浮上する。景色を見ていたはずがいつの間にか眠ってしまっていた。

膝にずっしりとした重さを感じる。見るとナナンの頭があった。

僕もナナンも今日が楽しみ過ぎて、忘れ物はないかとか迷子になってしまったらどういう動きをした方が良いかとか話し込み、昨日はすっかり夜更かしをしてしまった。

行きで見られなかった分はまた帰りに楽しめばいいかと寝ているナナンはそのままにする。窓辺の肘掛に寄り掛かった体勢を正そうとするとシモンちゃんから声が掛かった。

「もうちょっと…そのままでいて…」

どうやら僕たちのスケッチを描いているらしい。彼の仕事に貢献出来るなら喜んで協力しようと体勢をそのままにしていたら、結局到着まで眠り込んでしまった。

ナナンに体を揺り起こされた後、慌てて荷物をまとめる。

ムーンダガー駅に着くと、首都ということもあって激流のようにどんどんと人が流れていく。

一応3人が駅まで迎えに来てくれると聞いているが、こんな中で上手いこと待ち合わせなんて出来るのか?不安を抱きつつも、なんとなく周りの流れに合わせて移動する。やたら開けた場所に出て、その中心に例の3人が立っていた。

「おつかれー!」
「宿は取らずに来た?」
「うん、リュリュが取らないでって言ったから」

ものすごい遠巻きにいろんな人が見ている。

学校じゃ有名人的なことを先日言っていた気がするが、この人達もしかして学校外でも有名なの?うちの町くらい辺鄙な場所じゃないとゆっくり羽を伸ばすことも出来ないということだったのかと、なんだか合点がいった。

「ぜひうちに泊まっていってよ、学校からも近いし」
「リュリュん家はそんじょそこらの店よりもメシがうめーぞ!よかったな!」

ご飯が美味しいと聞いて、ナナンとシモンちゃんの表情が明るくなる。よかったね。

「俺達も一緒に泊まる予定だ。よろしく頼む」

ジュノーが軽く微笑みながら、軽く僕の肩の辺りを叩いた。

遠くを囲む女性陣がそのご尊顔を目の当たりにしたらしく「ヒェッ」と黄色い悲鳴が場に響いていた。

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