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第二部 ムーンダガーの冒険者たち
2-4 星にお願いを
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「チビすけっ!オレらと一緒に来ねーか?」
「はい?」
「ケイ、それじゃなんにも伝わらないよ」
走って戻ってきたケイから突然何かのお誘いがあった。後から追いかけてきたリュリュが大きく溜息をついて肩を落とした。
「ステラの件か?」
「うん、おチビならぴったりかなぁと思って」
「ふむ…」
ジュノーが僕の全身を舐めるように眺める。
「良い」
「うん」
何が?
「ど、どなたか説明を…」
飲みかけの紅茶のカップをくるくると器用に傾けながら、リュリュが口火を切った。
「俺たちが冒険科の生徒って話は前にしたよねえ」
「ムーンダガー魔法学校ですよね」
「そ」
-----------
この国では教育は義務付けられていない。お金があれば子供を学校に行かせるし、それが無い者は働かせる。
学校では参加したい授業を自分で決める。授業ごとに参加出来る最低年齢は決められているが、年齢の上限はない。小学校・中学校といった区切りはなく、全年齢版の大学みたいなところだ。そのため、自分の稼ぎがあるようになってから学校に通う人も多い。
僕自身基本的なことは孤児院で教わっているし、前世の知識もある。自分でお金が用意出来る年齢になったらいずれ行ってみようかなくらいの気持ちでいた。
しかし、この場合の僕の"学校"と彼らの通う"学校"は全くの別物と考えて欲しい。
3年前、彼らと知り合った後に首都ムーンダガーにある魔法学校に興味が出たので、その学校についていろんな人に聞いて回った。その時初めて知ったのだが、この魔法学校は相当の金持ちしか通うことを許されない。なぜなら、学校で扱う高等な式はどれも高価なため、揃えるだけで家一軒分くらいのお金がすっ飛ぶ。その上彼らが属する冒険科は、装備一式がほぼ使い捨て状態。しかも戦闘ダメージではなく、成長によってサイズが合わなくなることが大半の理由だそうだ。成長期、恐ろしい…
というかよくそんなところの生徒とご縁が出来たよな、僕。
「今度学校名物の長期演習があって、その演習では『ステラ』って役割の人が必要なんだよねえ。ちょっとしたサポートをやって貰ったりもするけど、メインは指定地域を往復する間、護衛対象役になるってところかな」
「サポートと護衛対象役…僕が?」突飛な話すぎてぴんとこない。
「他学年に頼むのが通例なんだよ。でも稀にこうやって学校外の人にステラを頼むパーティもいる」
「オレら学校じゃちょっぴり有名人でさ…いろいろ困ってんだよぉ」ケイが学校でのことを思い出したらしくガクリと項垂れる。
有名人?問題児の間違いじゃなくて…?問題児として有名すぎて誰も引き受けてくれないから、そのことを知られていない僕に頼んでいるとかじゃないだろうな?
「どうして僕が"ぴったり"だと思うんですか?」
何か困っているらしいが、今のところ僕がぴったりだという要素はまるでない。サポートって治療が出来る訳でもないし。
「良い子だよねえ」
「ジュノーとコミュニケーションが取れてる!」
「直感」
「「「何より料理(メシ)がうまそう」」」
ああ、サポート=ご飯のことなのね。ようやくしっくり来た。2回会っただけの子供にこんなこと頼んでいるくらいなんだ。基本的に自分たちのことはすべて自分で面倒見れるのだろう。そして余裕で僕の面倒も見てくれるに違いない。
「孤児院の職員に聞いてみないことにはわからないですけど、僕は材料費とか出してくれるならいいですよ。なんか面白そうだし」
「わ、本当?良かったねえ~」
「いよーーーし!!」
ケイとリュリュが目の前でハイタッチをした。
-----------
自分たちの屋台に戻ると女性客でものすごい行列になっていた。純粋にクレープの評判だけではなく、先生とトウジにいちゃんが店に立っているからだと思う。イケメンありがたや、と拝んでから急いで作業に戻る。
カスタードクリームを生地に塗り付けながら、ステラの話を簡単に2人にしたところ「社会勉強と思って行ってみれば?」と言われた。あまりにあっさりだったので驚いたが、忙しすぎて適当にあしらうような人たちではない。更に、関係者が揃っているのだからこのまま話をつけてきた方が良いとアドバイスをくれた。
祭りが終わる頃に待ち合わせをして、急ぎこの件をレーネさん相談することになった。前世だったら「危ないからダメ」と即却下されそうなものだが、この世界は危ないもので溢れている。危ないことがわからないことの方がかえって危険、ということなのだろう。
結局レーネさんにも「この子達の身元もしっかりしているしこんな機会はめったにない。社会勉強と思って行ってみれば?」と言われた。ふむふむ、意外にも順調に事が運ぶものだ。彼らにとっても予定調和といったところだろうか。
「聞いてなかったですけど、長期演習ってどのくらいの日数なんですか?」
目的地がどこか知らないけど、長めの臨海学校、4泊5日くらいのテンションで話を聞いていた。
「とりあえず3ヶ月ちょーだい」
「は?」
そんな、クレープ買う感じで言われても。
.
「はい?」
「ケイ、それじゃなんにも伝わらないよ」
走って戻ってきたケイから突然何かのお誘いがあった。後から追いかけてきたリュリュが大きく溜息をついて肩を落とした。
「ステラの件か?」
「うん、おチビならぴったりかなぁと思って」
「ふむ…」
ジュノーが僕の全身を舐めるように眺める。
「良い」
「うん」
何が?
「ど、どなたか説明を…」
飲みかけの紅茶のカップをくるくると器用に傾けながら、リュリュが口火を切った。
「俺たちが冒険科の生徒って話は前にしたよねえ」
「ムーンダガー魔法学校ですよね」
「そ」
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この国では教育は義務付けられていない。お金があれば子供を学校に行かせるし、それが無い者は働かせる。
学校では参加したい授業を自分で決める。授業ごとに参加出来る最低年齢は決められているが、年齢の上限はない。小学校・中学校といった区切りはなく、全年齢版の大学みたいなところだ。そのため、自分の稼ぎがあるようになってから学校に通う人も多い。
僕自身基本的なことは孤児院で教わっているし、前世の知識もある。自分でお金が用意出来る年齢になったらいずれ行ってみようかなくらいの気持ちでいた。
しかし、この場合の僕の"学校"と彼らの通う"学校"は全くの別物と考えて欲しい。
3年前、彼らと知り合った後に首都ムーンダガーにある魔法学校に興味が出たので、その学校についていろんな人に聞いて回った。その時初めて知ったのだが、この魔法学校は相当の金持ちしか通うことを許されない。なぜなら、学校で扱う高等な式はどれも高価なため、揃えるだけで家一軒分くらいのお金がすっ飛ぶ。その上彼らが属する冒険科は、装備一式がほぼ使い捨て状態。しかも戦闘ダメージではなく、成長によってサイズが合わなくなることが大半の理由だそうだ。成長期、恐ろしい…
というかよくそんなところの生徒とご縁が出来たよな、僕。
「今度学校名物の長期演習があって、その演習では『ステラ』って役割の人が必要なんだよねえ。ちょっとしたサポートをやって貰ったりもするけど、メインは指定地域を往復する間、護衛対象役になるってところかな」
「サポートと護衛対象役…僕が?」突飛な話すぎてぴんとこない。
「他学年に頼むのが通例なんだよ。でも稀にこうやって学校外の人にステラを頼むパーティもいる」
「オレら学校じゃちょっぴり有名人でさ…いろいろ困ってんだよぉ」ケイが学校でのことを思い出したらしくガクリと項垂れる。
有名人?問題児の間違いじゃなくて…?問題児として有名すぎて誰も引き受けてくれないから、そのことを知られていない僕に頼んでいるとかじゃないだろうな?
「どうして僕が"ぴったり"だと思うんですか?」
何か困っているらしいが、今のところ僕がぴったりだという要素はまるでない。サポートって治療が出来る訳でもないし。
「良い子だよねえ」
「ジュノーとコミュニケーションが取れてる!」
「直感」
「「「何より料理(メシ)がうまそう」」」
ああ、サポート=ご飯のことなのね。ようやくしっくり来た。2回会っただけの子供にこんなこと頼んでいるくらいなんだ。基本的に自分たちのことはすべて自分で面倒見れるのだろう。そして余裕で僕の面倒も見てくれるに違いない。
「孤児院の職員に聞いてみないことにはわからないですけど、僕は材料費とか出してくれるならいいですよ。なんか面白そうだし」
「わ、本当?良かったねえ~」
「いよーーーし!!」
ケイとリュリュが目の前でハイタッチをした。
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自分たちの屋台に戻ると女性客でものすごい行列になっていた。純粋にクレープの評判だけではなく、先生とトウジにいちゃんが店に立っているからだと思う。イケメンありがたや、と拝んでから急いで作業に戻る。
カスタードクリームを生地に塗り付けながら、ステラの話を簡単に2人にしたところ「社会勉強と思って行ってみれば?」と言われた。あまりにあっさりだったので驚いたが、忙しすぎて適当にあしらうような人たちではない。更に、関係者が揃っているのだからこのまま話をつけてきた方が良いとアドバイスをくれた。
祭りが終わる頃に待ち合わせをして、急ぎこの件をレーネさん相談することになった。前世だったら「危ないからダメ」と即却下されそうなものだが、この世界は危ないもので溢れている。危ないことがわからないことの方がかえって危険、ということなのだろう。
結局レーネさんにも「この子達の身元もしっかりしているしこんな機会はめったにない。社会勉強と思って行ってみれば?」と言われた。ふむふむ、意外にも順調に事が運ぶものだ。彼らにとっても予定調和といったところだろうか。
「聞いてなかったですけど、長期演習ってどのくらいの日数なんですか?」
目的地がどこか知らないけど、長めの臨海学校、4泊5日くらいのテンションで話を聞いていた。
「とりあえず3ヶ月ちょーだい」
「は?」
そんな、クレープ買う感じで言われても。
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