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第二部 ムーンダガーの冒険者たち

2-3 再び会えること

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「もうダメ」

じりじりと伸ばされた手を掴んで止めた。僕とナナン、お互いがむっとした顔で見つめ合っている。

「売り物がなくなっちゃうでしょ!」
「でも、おいしい」
「ナナンの分、別で作ってあげたよね?」
「食べた」
「もう食べちゃったの?!」

明日はフィエストプエムの日。

うっかり迷子になってしまったあの日から3年が経ち、今年はなんと自分たちでお店を出すことになったのだ。毎年ナナンが屋台のものを食べて「リッカが作った方が、おいしい」と定型文食レポしてくるので、僕の方が段々とその気になってしまった。

先生と僕でお菓子の準備、トウジにいちゃんとナナンには屋台の準備を頼んだ。

今回はクレープを作ることにした。食べ歩きスイーツの定番なイメージがあったからだ。初めは安直かなとも思ったけど、この辺りでクレープを見たことがなかったし、フィエストプエムで甘いものはあまり売っていなかったので結構目を引くと思う。お祭り気分なら目新しいものも売れるだろう。

クレープの中身はカスタードクリーム、酸味のあるベリーに飴をかけて作ったプレートをトッピングに挟む。合わせて紅茶は魔法で出来立てのものを出す予定。

作業が大体終わったので、後に取っておいた自分の分のクレープを用意する。あーんと口を開いたその瞬間。はも、と死角から現れたトウジにいちゃんに一口奪われてしまった。

「んまい」
「そりゃよかったね!!!!!」

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「あー!リッカにいちゃん達のお店あったよ!」
「いらっしゃいませ、よく来たね!」

うちの孤児院の子供たちが遊びに来た。お兄ちゃんはお前たちと同じ年の時に迷子やってたけど、迷わず来られて本当にすごいと思う。

「今日は君たちに特別なミッションをお願いしたいんだ」

真面目なトーンで子供たちにクレープを渡す。これ、歩きながら食べておいでと伝えると「そんだけ?」と皆呆気に取られていた。

「さっきの子たちが食べてたのこれじゃない?」
「2つ頂戴ね」

子供たちを送り出してしばらくするとお客が増え始めた。やはり思った通り宣伝効果は抜群。人が食べてるものってすごく気になるよね。

「こんな美味しいもの初めて食べたわ!この式も売っているの?」
「ありがとうございます!クレープは手作りなので、式は使ってないんです」
「そうなの…それにしても、屋台で手作りのものを出すなんてすごいわね」

"手作り"と聞きつけて更に人が集まってくる。式の見本市なのに手作りなんて珍しくて浮いてしまっているのかな。

「本当に一個一個包んでる~」と見ている人が驚いている。自分でやろうと思わないだけで、手作りに価値を感じる人って実は結構多いのかもしれない。次々に注文が入ってトウジにいちゃんに手伝って貰いながら包む作業をしていると、懐かしい声が聞こえてきた。

「よ、チビすけ」
「不思議なもの売ってるんだねえ」
「!」

顔を上げると、そこにケイとリュリュが立っていた。

「ジュノーは???」

それよりも先に言うべきことがあるように思ったけれど、今は一人欠けていることの方がどうにも気になってしまった。

「今年は迷子じゃねーよ!」ケイがぎゃははと腹を抱えて笑っている。

「向こうにいるよ」

彼らが指差した方からジュノーがゆっくり歩いてきた。元から体格の良い人だったけど、更に背が伸びたような気がする。

「久しぶりだな」
「はい!プエムくんも元気ですか?」
「ああ。今日は連れていないが、他に仲間も出来て元気に過ごしている」

プエムくんもおっきくなったんだろうな。もうお母さんくらい大きくなったかな?他の仲間…気になる。一体他にどんなもふもふが集まったっていうんだ…?

「おい、手ェ止まってんぞ」
「あ、ごめん」

3人が興味深そうに僕らの手元を見つめている。

「オレらにも一個ずつくれ!」
「はい!すぐ作るね」

彼らに出来たものを手渡すと、奥に置いてある立ち飲みテーブル用の大きな樽の方へ移動していった。

「後やっとく」

トウジにいちゃんが気を利かせてくれたので、ちょっと休憩しに行く。今作ったばかりの紅茶を4つトレーに載せて、彼らの元へ向かう。

「巻いてあるやつがもちもちしてうまい」
「ケイは本当にいつもそればっかりだよねえ、でもこれ美味しいね」

お褒めの言葉を頂けて嬉しい。正直もちもちマニアにハマって貰えると思って作ってはなかったけど。

「ありがとうございます!よかったらこれもどうぞ」とお茶を配っていると、つんつんと横から肩をつつかれる。

「俺はこのパリパリが気に入った」ジュノーが耳元でこしょこしょと内緒話のように囁いた。かわいいけど、なんでこっそり?その流れを見ていたケイが興奮し始めた。

「えええええ!ジュノーがメシに感想を述べてんだけど!!レアだレア!」
「騒ぐな」

メシャア、とケイがジュノーに顔面を掴まれていた。ご飯食べる度にいちいち騒がれちゃあ言いたいことも言えなくなるよな。ケイには申し訳ないが、ここはジュノーの肩を持たせて欲しい。

「いやあ、それにしても驚いた!チビすけは料理人だったんだな」
「え、違うよ?」
「手作りで、店まで出してるのに違うの?」
「うん、趣味だよ」

それを聞いたリュリュが、閃いたような悪戯げな笑みを浮かべてケイを引っ張っていってしまった。

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