Fitter / 異世界の神は細部に宿るか

あける

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第一部 ヴェスピエットにある小さな町で

1-14 もふもふ孤児院

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僕たちは今、隣町に来ている。隣町と言っても子供の足で歩いて30分くらいの近所だ。

うちの孤児院は町の端っこにあって繁華街からは少し離れているけれど、裏手は丘になっていたり森が近かったりと静かで遊び場に困らない場所に建っている。

その丘を越えて森を抜けていくと猫獣人さんが暮らす孤児院がある。今回は7歳の子供たち同士で交流会が開かれるということで、僕とナナンが参加することになった。引率はロイさんだ。

「もふもふ…天国じゃ…」

初めての猫獣人さんにいろいろと想像して思わずおくちがゆるゆるになってしまう。

「楽しみだね!」とナナンに声を掛けたが「ん…」と彼は少し困ったような顔をしていた。ナナンはかなり人見知りする方だから緊張しているのかもしれない。

孤児院に着くと、向こうの職員の方が出てきた。茶トラのお兄さんだ。

道中ロイさんに教わったのだが、獣人には獣度(マージ)というものがあり、耳・しっぽ・目の『ドゥオ』や二足歩行などの基本骨格以外は獣要素の『クインクト』など様々な容姿があるそうだ。

こちらのお兄さんは『ドゥオ』
失礼は承知の上だが、めっちゃかわいい。ちょっとやんちゃな感じなのに猫耳ついててかわいい。

部屋に通されると自分と同じくらいの年の子供が5人いて、確かに教わった通りいろいろな容姿の子がいた。

みんながおみみをぴこぴこさせていてかわいい。
僕、今日、かわいいしか言ってない。

茶トラお兄さんに「獣人はお互いの匂いを軽く嗅ぎ合って挨拶をするんですよ」と教わった。首元の匂いを左右から1秒くらいずつ嗅ぎ合う感じで、前世で言うところのチークキスみたいな感じだった。今日は獣人さんに習って学ぶ日、ということで僕たちも挨拶の練習からやってみることに。向こうの子供たちも人族と交流するのは初めてのようで、お互い結構緊張している。

まずは真っ黒猫のテアンくんからご挨拶。
 
ふんふんと僕の首元の匂いを嗅いでいる。
僕もテアンくんの首元の匂いをくんくん、焼きたてのパンみたいな匂いがする。

テアンくんは興味深そうにまだふんふんしている。どうかな、仲良くなれるかなと緊張しながら審査を待つ。

まだ嗅いでいる。

え、なんか長くない?1秒くらいって聞いてたけど…たぶん人族の匂いを嗅いだことがないからなのかな。
「あ、あの…」と困って茶トラ兄さんを見やると「この子匂いフェチですんません…こら!テアンいい加減にしろ!」と注意された。

彼はしぶしぶといった様子で離れていく。出る前に食べてきたサンドイッチの匂いでもしたのかな。雰囲気がちょっとナナンに似ているかも。

次はベージュ猫くん『クインクト』のアスティン。

「こんにちは」
「こん、ちあ…」

しっぽが足の間に入っていて、怖がっているのがわかる。離れ気味で挨拶をしたら少し土の匂いがした。

向こうはまだ嗅いでいる。僕変わった匂いでもしてる?

「お外で遊ぶのが好きなの?」
「…うん!穴掘りが好きだよ」

おお、これ挨拶っぽい~と挨拶成功に安堵しているとアスティンがゴロゴロいいだした。そのままぴとっと僕に体をくっつけたので、そっと顎下をなでなでする。

「後で穴掘り教えてね」
「うん、一緒にしよ。あとね、秘密基地があるんだよ!」

「こら!」今度は僕がロイさんに怒られる番だった。
「な、なんですか」

「お前はどこでそんなの覚えたんだ!」
「…僕何か失礼を働いてしまっているんですね?」
「トウジだな?トウジに騙されて変な入れ知恵されたんだろう」

されてませんけど。

聞けば、初対面でいきなり顔周りに触れるというのは相手を口説きたい時にすることらしい。その上顎下などの急所は、家族や恋人など近い関係の相手にしか触らせない場所だった。

人同士のコミュニケーションで考えたらわかる。完全にやりすぎていた…でも今日はそういうのを勉強しに来たんだから失敗を知ったことを良しとしよう!

その後も獣人の細かい知識を教えて貰ったり一緒に遊んだりしたんだけど、前世の猫と同じ感じで触れ合ってると「この獣人たらし!」とロイさんがすかさずイエローカードを出してきた。

仲良くなってからは別にいいじゃないか!と心の中で抗議しつつ、この子達が人族のことを勘違いしてはいけないと思っておさわりをセーブした。


 -----------


帰り道、ナナンの機嫌がめっちゃ悪い。こういう時は大概空腹で限界超えちゃっている時だ。

「帰ったらすぐに晩ごはんだってさ、よかったね」と声を掛けても無視された。む、無視だと…これは相当の好物でも出ない限り戻る気配がない。

その後飯を食っても風呂に入っても、ナナンの機嫌が直ることはなかった。今日は一人で寝たいかな?でもこの人があまりに自分のベッドを使わないから今は別の子に譲られている。たぶん本人は気づいてない。

僕が寝る準備を済ませてベッドに入ろうとすると、いつも通りナナンが先に入っていた。

「ナナン、どうしたの?今日は疲れちゃった?」
「んん」

「僕にできることがあったら言ってね」と言って、隣で横になる。

「できること、ある」
「ある?なにかなぁ、教えて?」

それまで背中を向けて話していたナナンがくるりとこちらを向いた。

「なでなでしてほしーの」
「ひゃ~~ああああ」

危うくかわいさに殺されるところだった。

ナナンが撫でられ待ちのご様子だったので、頭を優しくなでなでする。ずっと不機嫌だったのってそれなの?猫獣人さん達に嫉妬してたってこと?

「こっちも」と自分の首元に僕の手を持っていくナナン。ぷち、と何かが切れる音と共に頭の中で「こいつに遠慮は要らないんだよ」と誰かが囁いた。

後ろから抱きしめて顎下や頬をこしょこしょと撫でるとナナンが嬉しそうに、くふくふ笑う。

寝かしつけるように撫でていると寝息が聞こえた。

今日はいいことばかりたくさんあったな。前世の僕が徳を積んでくれたんだろうか、と漠然とした感謝の気持ちを胸に眠りについた。

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