Fitter / 異世界の神は細部に宿るか

あける

文字の大きさ
上 下
9 / 34
第一部 ヴェスピエットにある小さな町で

1-9 冒険者の卵

しおりを挟む
テイマー氏は小道具屋をいくつか覗くと、プエムくん用に革で出来たスリングと口輪を買った。スリングはすこし調整が効きそうだけど、口輪はかなりサイズが大きかった。

ぶかぶかな口輪って機能的に着けてる意味あるのか?噛むぞオーラが醸し出されて手を出すヤツが減るのかな。でもほわほわアホ毛に抱っこ紐に、ずるずるの口輪て。いっそのこと目の荒いかごでも被せてあげた方が通行人からのいたずらとか防止出来ていいんじゃないだろうか。

「そんな目で見ないでくれ」
「…僕どんな目してました?」
「残念なものを見る目」

聞くところによると、テイマーが従魔を街で連れ歩く時はいろいろとルールがあるらしい。基本的に巨大な従魔は魔法で別の空間に収めるが、プエムくんはまだ幼体で従魔を収める空間魔法への耐性がない。実際に外で連れ歩くには認可の下りた専用のアイテムが必須で、それがこの口輪だそうだ。

「所詮間に合わせだ、あまり気にするな」

テイマーの世界のルールも知らない僕が詮索するのは良くない。言われた通り気にする必要もない。ところがこの口輪の件、その思いとは裏腹にしばらく僕の頭の隅っこに居座ることとなる。


 -----------


テイマー氏が屋台で肉串を買ってくれた。そうだ、元々僕のお腹がぴいぴい鳴ってたところから事は始まっていたのだった。

「すみません、後でお金返します」
「いい」

式での料理は誰が作っても同じ。可もなく不可もないお味だが、いつでも出来立てが食べられるのは良いところだよなあ。買って貰った白パンに、肉串の残りを挟んで食べる。見ていたテイマー氏が「それうまそうだな」と真似てパンに挟んだ。

齧り付いたその瞬間、

「ジュノーーーーー!!!」

突然テイマー氏に少年が飛びついてきた。

「何やってたんだよ~~~それメシ?」
「ん」

驚きはしたもののせっかくの肉サンドが冷めたらイヤだなと思い、やりとり眺めながら一人黙々と食べ進めていた。

「やっと見つかったねえ」と遅れてもう一人やってきた。3人組の仲間と言っていたから、これで全員揃ったんだ。

「合流出来てよかったですね」
「ああ」
「このチビすけは?」
「迷子仲間です、でした。後は僕だけ迷子なので…」
「おやおや…」

2人に哀れみの目で見られる。

「こいつ全然喋らないし、何考えてるかわからんから気まじかったろー」
「えっ?」

普通に会話してたし、いろいろと親切にしてもらったし、2泊3日の旅行でも気まずくないくらいにはコミュニケーション取れていたと思うけど…

「そんなことないです!とっても面倒見てもらってました!…えーっと?」
「お前名乗ってなかったのかよ!」
「相変わらずだねえ」

彼らは首都にある国立魔法学校の中、11歳から入学が許される『冒険科』に今年入学した同級生。テイマー氏ことジュノー、彼に飛びついた少年ケイ、後からやってきたリュリュの3人でパーティを組んでいるそうだ。ただの同級生以上に親密な感じがするのはそのせいだろう。今はプエムくんに気が付いて話が盛り上がっている。

「鳥!鳥が増えてんじゃん!!」
「ちっちゃいねえ、この子はどうしたの?」
「森で」
「へー持って帰んだ?」
「ん」

確かに言葉数が2人でいた時より圧倒的に減った気がする。というか絡まれて面倒くさがっている?

「なあチビすけ、そのパンもちもちしてるか?」
「食べますか?」と食べかけの肉サンドを差し出した。

「ん、なんか、思ったほどもちもちしてないわ」
「もちもちのチビすけが食べてたから、もちもちに見えたんだな」
「残念!これも違うかあ~」

何言ってんだ、この人…?

「ケイはね、もちもちが好きすぎて今回の祭で『もちもちの食べ物の式』を探しに来たんだよ」
「本当、おバカさんだよねえ」
「今度の野営の授業でさ、好きなもん食って過ごしたいじゃん?」

なんてお気楽な人なんだ。まるで遠足のおやつ気分で式を買いに来ている。あ、そういえばさっき…

「あの、向こうでさっきチーズパンの式売ってましたけど、見に行きますか?」
「なにぃ?早く案内しろー!!」

駆け出したケイの肩に、所々オレンジ色の小さい花びらが付いているのに気が付いた。よく見るとずっと一緒に行動していたジュノーにも点々とくっついている。元々付いていたのかな?とそれを眺めているとリュリュが話しかけてきた。

「プエムの花びらだねえ」
「このお花、プエムって言うんですか?」
「そうだよ」

見渡しても、オレンジの花なんて見当たらない。通ってきた道にだってそんな花が咲いていた記憶がなくて、だからこそ違和感があった。

「なあに、プエムの木探してるの?かわいいねえ」
「歩いてる時には見かけなかったなと思って…」
「ここらへんには咲いてないんだけど、遠くから風に乗ってお花だけ舞ってくるの。オレンジのフラッグガーランドはこの花を模してるんだよ」
「へえ~首都の方にお住まいなのに詳しいんですね」
「それがさ、このプエムのお花には素敵な言い伝えがあって」

そういってリュリュは、僕の髪についていたプエムの花をひとつ摘み上げた。

「プエムの花を身に着けたもの同士は深いご縁が出来て、また近いうちに再会できるって言い伝え。遠く離れた場所にいても、僕たちきっとすぐに会えるよ」

深いアメジスト色の瞳がこちらを向いて、視線が絡んだ瞬間細められた。今なんかクラっとした。
なんでこの人6歳児を本気でときめかせてるの?

両手で顔をぱたぱたと扇ぐ。
今度は僕が、真っ赤になった顔を冷ます番だった。

.
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~

黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。 ※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。 ※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。

処理中です...