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第一部 ヴェスピエットにある小さな町で
1-9 冒険者の卵
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テイマー氏は小道具屋をいくつか覗くと、プエムくん用に革で出来たスリングと口輪を買った。スリングはすこし調整が効きそうだけど、口輪はかなりサイズが大きかった。
ぶかぶかな口輪って機能的に着けてる意味あるのか?噛むぞオーラが醸し出されて手を出すヤツが減るのかな。でもほわほわアホ毛に抱っこ紐に、ずるずるの口輪て。いっそのこと目の荒いかごでも被せてあげた方が通行人からのいたずらとか防止出来ていいんじゃないだろうか。
「そんな目で見ないでくれ」
「…僕どんな目してました?」
「残念なものを見る目」
聞くところによると、テイマーが従魔を街で連れ歩く時はいろいろとルールがあるらしい。基本的に巨大な従魔は魔法で別の空間に収めるが、プエムくんはまだ幼体で従魔を収める空間魔法への耐性がない。実際に外で連れ歩くには認可の下りた専用のアイテムが必須で、それがこの口輪だそうだ。
「所詮間に合わせだ、あまり気にするな」
テイマーの世界のルールも知らない僕が詮索するのは良くない。言われた通り気にする必要もない。ところがこの口輪の件、その思いとは裏腹にしばらく僕の頭の隅っこに居座ることとなる。
-----------
テイマー氏が屋台で肉串を買ってくれた。そうだ、元々僕のお腹がぴいぴい鳴ってたところから事は始まっていたのだった。
「すみません、後でお金返します」
「いい」
式での料理は誰が作っても同じ。可もなく不可もないお味だが、いつでも出来立てが食べられるのは良いところだよなあ。買って貰った白パンに、肉串の残りを挟んで食べる。見ていたテイマー氏が「それうまそうだな」と真似てパンに挟んだ。
齧り付いたその瞬間、
「ジュノーーーーー!!!」
突然テイマー氏に少年が飛びついてきた。
「何やってたんだよ~~~それメシ?」
「ん」
驚きはしたもののせっかくの肉サンドが冷めたらイヤだなと思い、やりとり眺めながら一人黙々と食べ進めていた。
「やっと見つかったねえ」と遅れてもう一人やってきた。3人組の仲間と言っていたから、これで全員揃ったんだ。
「合流出来てよかったですね」
「ああ」
「このチビすけは?」
「迷子仲間です、でした。後は僕だけ迷子なので…」
「おやおや…」
2人に哀れみの目で見られる。
「こいつ全然喋らないし、何考えてるかわからんから気まじかったろー」
「えっ?」
普通に会話してたし、いろいろと親切にしてもらったし、2泊3日の旅行でも気まずくないくらいにはコミュニケーション取れていたと思うけど…
「そんなことないです!とっても面倒見てもらってました!…えーっと?」
「お前名乗ってなかったのかよ!」
「相変わらずだねえ」
彼らは首都にある国立魔法学校の中、11歳から入学が許される『冒険科』に今年入学した同級生。テイマー氏ことジュノー、彼に飛びついた少年ケイ、後からやってきたリュリュの3人でパーティを組んでいるそうだ。ただの同級生以上に親密な感じがするのはそのせいだろう。今はプエムくんに気が付いて話が盛り上がっている。
「鳥!鳥が増えてんじゃん!!」
「ちっちゃいねえ、この子はどうしたの?」
「森で」
「へー持って帰んだ?」
「ん」
確かに言葉数が2人でいた時より圧倒的に減った気がする。というか絡まれて面倒くさがっている?
「なあチビすけ、そのパンもちもちしてるか?」
「食べますか?」と食べかけの肉サンドを差し出した。
「ん、なんか、思ったほどもちもちしてないわ」
「もちもちのチビすけが食べてたから、もちもちに見えたんだな」
「残念!これも違うかあ~」
何言ってんだ、この人…?
「ケイはね、もちもちが好きすぎて今回の祭で『もちもちの食べ物の式』を探しに来たんだよ」
「本当、おバカさんだよねえ」
「今度の野営の授業でさ、好きなもん食って過ごしたいじゃん?」
なんてお気楽な人なんだ。まるで遠足のおやつ気分で式を買いに来ている。あ、そういえばさっき…
「あの、向こうでさっきチーズパンの式売ってましたけど、見に行きますか?」
「なにぃ?早く案内しろー!!」
駆け出したケイの肩に、所々オレンジ色の小さい花びらが付いているのに気が付いた。よく見るとずっと一緒に行動していたジュノーにも点々とくっついている。元々付いていたのかな?とそれを眺めているとリュリュが話しかけてきた。
「プエムの花びらだねえ」
「このお花、プエムって言うんですか?」
「そうだよ」
見渡しても、オレンジの花なんて見当たらない。通ってきた道にだってそんな花が咲いていた記憶がなくて、だからこそ違和感があった。
「なあに、プエムの木探してるの?かわいいねえ」
「歩いてる時には見かけなかったなと思って…」
「ここらへんには咲いてないんだけど、遠くから風に乗ってお花だけ舞ってくるの。オレンジのフラッグガーランドはこの花を模してるんだよ」
「へえ~首都の方にお住まいなのに詳しいんですね」
「それがさ、このプエムのお花には素敵な言い伝えがあって」
そういってリュリュは、僕の髪についていたプエムの花をひとつ摘み上げた。
「プエムの花を身に着けたもの同士は深いご縁が出来て、また近いうちに再会できるって言い伝え。遠く離れた場所にいても、僕たちきっとすぐに会えるよ」
深いアメジスト色の瞳がこちらを向いて、視線が絡んだ瞬間細められた。今なんかクラっとした。
なんでこの人6歳児を本気でときめかせてるの?
両手で顔をぱたぱたと扇ぐ。
今度は僕が、真っ赤になった顔を冷ます番だった。
.
ぶかぶかな口輪って機能的に着けてる意味あるのか?噛むぞオーラが醸し出されて手を出すヤツが減るのかな。でもほわほわアホ毛に抱っこ紐に、ずるずるの口輪て。いっそのこと目の荒いかごでも被せてあげた方が通行人からのいたずらとか防止出来ていいんじゃないだろうか。
「そんな目で見ないでくれ」
「…僕どんな目してました?」
「残念なものを見る目」
聞くところによると、テイマーが従魔を街で連れ歩く時はいろいろとルールがあるらしい。基本的に巨大な従魔は魔法で別の空間に収めるが、プエムくんはまだ幼体で従魔を収める空間魔法への耐性がない。実際に外で連れ歩くには認可の下りた専用のアイテムが必須で、それがこの口輪だそうだ。
「所詮間に合わせだ、あまり気にするな」
テイマーの世界のルールも知らない僕が詮索するのは良くない。言われた通り気にする必要もない。ところがこの口輪の件、その思いとは裏腹にしばらく僕の頭の隅っこに居座ることとなる。
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テイマー氏が屋台で肉串を買ってくれた。そうだ、元々僕のお腹がぴいぴい鳴ってたところから事は始まっていたのだった。
「すみません、後でお金返します」
「いい」
式での料理は誰が作っても同じ。可もなく不可もないお味だが、いつでも出来立てが食べられるのは良いところだよなあ。買って貰った白パンに、肉串の残りを挟んで食べる。見ていたテイマー氏が「それうまそうだな」と真似てパンに挟んだ。
齧り付いたその瞬間、
「ジュノーーーーー!!!」
突然テイマー氏に少年が飛びついてきた。
「何やってたんだよ~~~それメシ?」
「ん」
驚きはしたもののせっかくの肉サンドが冷めたらイヤだなと思い、やりとり眺めながら一人黙々と食べ進めていた。
「やっと見つかったねえ」と遅れてもう一人やってきた。3人組の仲間と言っていたから、これで全員揃ったんだ。
「合流出来てよかったですね」
「ああ」
「このチビすけは?」
「迷子仲間です、でした。後は僕だけ迷子なので…」
「おやおや…」
2人に哀れみの目で見られる。
「こいつ全然喋らないし、何考えてるかわからんから気まじかったろー」
「えっ?」
普通に会話してたし、いろいろと親切にしてもらったし、2泊3日の旅行でも気まずくないくらいにはコミュニケーション取れていたと思うけど…
「そんなことないです!とっても面倒見てもらってました!…えーっと?」
「お前名乗ってなかったのかよ!」
「相変わらずだねえ」
彼らは首都にある国立魔法学校の中、11歳から入学が許される『冒険科』に今年入学した同級生。テイマー氏ことジュノー、彼に飛びついた少年ケイ、後からやってきたリュリュの3人でパーティを組んでいるそうだ。ただの同級生以上に親密な感じがするのはそのせいだろう。今はプエムくんに気が付いて話が盛り上がっている。
「鳥!鳥が増えてんじゃん!!」
「ちっちゃいねえ、この子はどうしたの?」
「森で」
「へー持って帰んだ?」
「ん」
確かに言葉数が2人でいた時より圧倒的に減った気がする。というか絡まれて面倒くさがっている?
「なあチビすけ、そのパンもちもちしてるか?」
「食べますか?」と食べかけの肉サンドを差し出した。
「ん、なんか、思ったほどもちもちしてないわ」
「もちもちのチビすけが食べてたから、もちもちに見えたんだな」
「残念!これも違うかあ~」
何言ってんだ、この人…?
「ケイはね、もちもちが好きすぎて今回の祭で『もちもちの食べ物の式』を探しに来たんだよ」
「本当、おバカさんだよねえ」
「今度の野営の授業でさ、好きなもん食って過ごしたいじゃん?」
なんてお気楽な人なんだ。まるで遠足のおやつ気分で式を買いに来ている。あ、そういえばさっき…
「あの、向こうでさっきチーズパンの式売ってましたけど、見に行きますか?」
「なにぃ?早く案内しろー!!」
駆け出したケイの肩に、所々オレンジ色の小さい花びらが付いているのに気が付いた。よく見るとずっと一緒に行動していたジュノーにも点々とくっついている。元々付いていたのかな?とそれを眺めているとリュリュが話しかけてきた。
「プエムの花びらだねえ」
「このお花、プエムって言うんですか?」
「そうだよ」
見渡しても、オレンジの花なんて見当たらない。通ってきた道にだってそんな花が咲いていた記憶がなくて、だからこそ違和感があった。
「なあに、プエムの木探してるの?かわいいねえ」
「歩いてる時には見かけなかったなと思って…」
「ここらへんには咲いてないんだけど、遠くから風に乗ってお花だけ舞ってくるの。オレンジのフラッグガーランドはこの花を模してるんだよ」
「へえ~首都の方にお住まいなのに詳しいんですね」
「それがさ、このプエムのお花には素敵な言い伝えがあって」
そういってリュリュは、僕の髪についていたプエムの花をひとつ摘み上げた。
「プエムの花を身に着けたもの同士は深いご縁が出来て、また近いうちに再会できるって言い伝え。遠く離れた場所にいても、僕たちきっとすぐに会えるよ」
深いアメジスト色の瞳がこちらを向いて、視線が絡んだ瞬間細められた。今なんかクラっとした。
なんでこの人6歳児を本気でときめかせてるの?
両手で顔をぱたぱたと扇ぐ。
今度は僕が、真っ赤になった顔を冷ます番だった。
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