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第一部 ヴェスピエットにある小さな町で
1-8 テイマーの兄ちゃん
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めちゃくちゃ恥ずかしがっている。
自分より幼い子供の前で自らも迷子というのは立つ瀬がないのだろう。ヒポグリフの幼獣へ冷静に対応していた彼は一体どこへ?
「このヒポグリフくんはどうしてあげるのが良いでしょうか」
「餌になる動物を狩り、それで引き付けて森の奥へ誘導するのがいいだろう」
「狩り、ですか。僕は経験がないのでお役に立てないと思います…」
「問題ない。彼とここに居てくれ」
そういって、テイマーの彼はくるりと振り返るとぱたぱたと片手で顔を扇ぎながら、森の奥の方へ入っていった。
「2人になっちゃったね」
「ぴい」
何か話しかけると返事をしてくれるのが面白い。
「迷子になって長いんですか?」
「ぴっ」
「へぇ~この道40年ですか、僕は今日が初めてなんです。いやあ、しかし心細いもんですね」
「ぴいい」
奇跡的に噛み合って本当に会話をしているように聞こえる。もしかしたら向こうも同じように感じているのかな。
-----------
しばらくすると、テイマー氏が野兎を数匹捕まえて戻ってきた。
「行こう」
ヒポグリフくんが立ち上がり、僕の横を駆けていった。
森の奥はひんやりとした空気に包まれていた。足元も少しじっとりとして、ここにもスライムが住んでいる感じがする。
まだ小さい子だけどヒポグリフ見ちゃったって、ちび達に自慢しちゃおうかな。意地が悪いかもしれないけど、そこはスライムの件でこちらも散々いじられたのでおあいこだろう。
ヒポグリフくんはテイマー氏が腕からぶら下げている野兎を嘴でつんつんと突いたり、まぐまぐ噛みついたりしていた。お腹が減っているというよりは遊びたがっているみたいだ。
しばらく歩くと少し開けた場所に出た。陽が射してぽかぽかと温かい。地面の濡れた感じもなくなって、座っても気持ち悪くなさそうだ。ここら辺で置いていくのかな。そう思うと同時にテイマー氏が立ち止まって、日の当たる原っぱに向かって最後の野兎を投げる。ヒポグリフくんは軽く飛び上がって上手にキャッチした。
突然、テイマー氏が後ろを振り返った。僕も反射的に振り返る。
そこには超巨大鷲…ではなく成体のヒポグリフがいた。恐らくこのヒポグリフくんのお母さんだろう。僕にとっては初めて見る幻獣。サラブレッドほどの大きさとはいえ、6歳の子供が首の限界まで見上げるほどデカい。靴の中が一瞬で汗まみれになった。もし走って逃げようものならその汗で一人滑って転ぶくらいだ。
怖い。今、背筋にも冷や汗が伝っていった。
テイマー氏が母親と見つめ合っている。これが俗に言う間合いを取るというやつなのか…?こんな時に緊張感のないことを言って申し訳ないが、どちらかというと会話しているみたいに見えてきた。
「少し早いが、もうすぐ親離れの時期だから連れて行って欲しいと言っている」
「えっ」
「お話がわかるんですか!」
マジで会話していた。テイマーかっけー!
ちび達への土産話がどんどん増えていく。というかここまでくると嘘を疑われそうなくらいだ。
「テイミングを見るのは初めてか」
「はい」
先程までの恐怖の感情は一体何だったのか、というくらい興奮している。まさかテイミングの現場にまで立ち会えるなんて、にいちゃん達には迷惑かけて申し訳ないが迷子にもなってみるもんだ。
「俺の場合は、血を媒介にしている。苦手なら向こうを見ていてくれ」
「お気遣いありがとうございます」
んなもん、ガン見に決まってる。
テイマー氏は片手、親指の爪で他の指の腹を一文字に傷をつけた。手のひらに少しずつ血が流れて溜まっていく。よく見ると彼の爪はすべて鋭く尖っていた。
原っぱに座ってごろごろしていたヒポグリフくんにゆっくり近づくと、目の前でしゃがみ込んだ。お互いしばらく見つめ合うと、ヒポグリフくんはその手の血を舐めた。
「完了した」
テイマー氏がヒポグリフくんを抱えてこちらに戻ってきた。
迷子してたところを家に送り届けたら、そのまま親元を離れて旅立つことになった幼きヒポグリフ。怒涛の展開でちょっと感情が追いついていない。でもそれはこの場で僕だけみたい。
地面に降ろしてやると母に駆け寄り、お互い羽繕いをし始めた。テイマー氏と今日出会っていなかったら、もう少しお母さんと一緒に居られたのに、と寂しく感じているのもやはり僕だけのようだ。
「ヒポグリフくん、お母さんに出発の挨拶ですかね」
「プエムという名にした」
「プエムくん」
もうお名前まで決まっていた。
「街に戻ろう」
「はい」
「次は君の親を探そう」
「お仲間さんも一緒に探しましょう」
間髪入れずに僕がそう言うとテイマー氏の顔が徐々に赤くなる。
さてはこの人、自分が迷子だってこと忘れてたな?
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自分より幼い子供の前で自らも迷子というのは立つ瀬がないのだろう。ヒポグリフの幼獣へ冷静に対応していた彼は一体どこへ?
「このヒポグリフくんはどうしてあげるのが良いでしょうか」
「餌になる動物を狩り、それで引き付けて森の奥へ誘導するのがいいだろう」
「狩り、ですか。僕は経験がないのでお役に立てないと思います…」
「問題ない。彼とここに居てくれ」
そういって、テイマーの彼はくるりと振り返るとぱたぱたと片手で顔を扇ぎながら、森の奥の方へ入っていった。
「2人になっちゃったね」
「ぴい」
何か話しかけると返事をしてくれるのが面白い。
「迷子になって長いんですか?」
「ぴっ」
「へぇ~この道40年ですか、僕は今日が初めてなんです。いやあ、しかし心細いもんですね」
「ぴいい」
奇跡的に噛み合って本当に会話をしているように聞こえる。もしかしたら向こうも同じように感じているのかな。
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しばらくすると、テイマー氏が野兎を数匹捕まえて戻ってきた。
「行こう」
ヒポグリフくんが立ち上がり、僕の横を駆けていった。
森の奥はひんやりとした空気に包まれていた。足元も少しじっとりとして、ここにもスライムが住んでいる感じがする。
まだ小さい子だけどヒポグリフ見ちゃったって、ちび達に自慢しちゃおうかな。意地が悪いかもしれないけど、そこはスライムの件でこちらも散々いじられたのでおあいこだろう。
ヒポグリフくんはテイマー氏が腕からぶら下げている野兎を嘴でつんつんと突いたり、まぐまぐ噛みついたりしていた。お腹が減っているというよりは遊びたがっているみたいだ。
しばらく歩くと少し開けた場所に出た。陽が射してぽかぽかと温かい。地面の濡れた感じもなくなって、座っても気持ち悪くなさそうだ。ここら辺で置いていくのかな。そう思うと同時にテイマー氏が立ち止まって、日の当たる原っぱに向かって最後の野兎を投げる。ヒポグリフくんは軽く飛び上がって上手にキャッチした。
突然、テイマー氏が後ろを振り返った。僕も反射的に振り返る。
そこには超巨大鷲…ではなく成体のヒポグリフがいた。恐らくこのヒポグリフくんのお母さんだろう。僕にとっては初めて見る幻獣。サラブレッドほどの大きさとはいえ、6歳の子供が首の限界まで見上げるほどデカい。靴の中が一瞬で汗まみれになった。もし走って逃げようものならその汗で一人滑って転ぶくらいだ。
怖い。今、背筋にも冷や汗が伝っていった。
テイマー氏が母親と見つめ合っている。これが俗に言う間合いを取るというやつなのか…?こんな時に緊張感のないことを言って申し訳ないが、どちらかというと会話しているみたいに見えてきた。
「少し早いが、もうすぐ親離れの時期だから連れて行って欲しいと言っている」
「えっ」
「お話がわかるんですか!」
マジで会話していた。テイマーかっけー!
ちび達への土産話がどんどん増えていく。というかここまでくると嘘を疑われそうなくらいだ。
「テイミングを見るのは初めてか」
「はい」
先程までの恐怖の感情は一体何だったのか、というくらい興奮している。まさかテイミングの現場にまで立ち会えるなんて、にいちゃん達には迷惑かけて申し訳ないが迷子にもなってみるもんだ。
「俺の場合は、血を媒介にしている。苦手なら向こうを見ていてくれ」
「お気遣いありがとうございます」
んなもん、ガン見に決まってる。
テイマー氏は片手、親指の爪で他の指の腹を一文字に傷をつけた。手のひらに少しずつ血が流れて溜まっていく。よく見ると彼の爪はすべて鋭く尖っていた。
原っぱに座ってごろごろしていたヒポグリフくんにゆっくり近づくと、目の前でしゃがみ込んだ。お互いしばらく見つめ合うと、ヒポグリフくんはその手の血を舐めた。
「完了した」
テイマー氏がヒポグリフくんを抱えてこちらに戻ってきた。
迷子してたところを家に送り届けたら、そのまま親元を離れて旅立つことになった幼きヒポグリフ。怒涛の展開でちょっと感情が追いついていない。でもそれはこの場で僕だけみたい。
地面に降ろしてやると母に駆け寄り、お互い羽繕いをし始めた。テイマー氏と今日出会っていなかったら、もう少しお母さんと一緒に居られたのに、と寂しく感じているのもやはり僕だけのようだ。
「ヒポグリフくん、お母さんに出発の挨拶ですかね」
「プエムという名にした」
「プエムくん」
もうお名前まで決まっていた。
「街に戻ろう」
「はい」
「次は君の親を探そう」
「お仲間さんも一緒に探しましょう」
間髪入れずに僕がそう言うとテイマー氏の顔が徐々に赤くなる。
さてはこの人、自分が迷子だってこと忘れてたな?
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