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エピローグ
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「ジョー、お疲れ様」
体育館入口のエントランスに設置してある自動販売機の前で、夏希に声をかけられた。
「……びっくりした。お前、まだいたのかよ?」
「悪い? わたしだって、ミサちゃんの応援したいんですー」
夏希は頬を膨らませながらも雪之丞の顔色を窺っている。試合に負けた雪之丞が落ち込んでいないか、気を遣っているのだろう。
「気とか遣うんじゃねえよ、気持ち悪い。それより安藤智絵里ちゃんのグラビアを差し入れてくれた方が、よっぽど元気出るっつーの」
「はあー? なによその言い方! むっかつく!」
だからあえて憎まれ口を叩いてみせた。次第に夏希の表情がいつものように豊かになっていくのを見て、雪之丞の頬は緩んだ。
「正彰からLINEがきてた。あっちは問題なく終わったみたいだから、お前は何も気にすんじゃねえぞ?」
「ほんと!? ……よかったあ~! ほんっと、よかったあ~! 正彰たちには感謝してもしきれないわ」
夏希は心底安心したように、胸を押さえて安堵の息を漏らした。
「ちょっとジョー、あんたはしばらく正彰の使用人になったつもりでいなさいよ?」
「あいつはえげつないこと言ってきそうだから却下だ。お前が使用人で、俺は大臣あたりのポジションで甘んじてやろう」
「なんで喧嘩の原因になったジョーの位が、そんなに高いのよ!」
「それじゃ、早速大臣命令な。……夏希、お前はもう化粧すんな。露出の多い服も着るな。ピアスも外せ」
「は? ちょっと、何よいきなり?」
理不尽な命令に、夏希の眉毛が不服そうに釣り上がった。
さて、これから夏希は怒るだろうか。照れるだろうか。否定するだろうか。
「……お前、俺が派手な女が好みだと思って、そういう格好してるんだってな?」
照れる、が正解だったようだ。夏希は見るからに狼狽し、一瞬で頬を真っ赤に染めた。
「な、ななな、なんで……!?」
「おー。その反応だとマジみたいだな」
以前、夏希は悪目立ちする雪之丞に合わせて派手な格好をしてやっていると言っていたが、実は違う理由があったらしい。
大吾曰く、活発で目立ち、人目を惹くタイプの紗綾を好きと言った雪之丞好みの女になるために、夏希は外見から変わる努力をしていくと口にしていたとか。五年の時を経て、夏希が公言通り華やかな女性になっていたことに大吾は驚いたらしい。
「別に無理しなくていいぞ。俺は清楚なお姉様系もイケる口だ」
「なっ……なんでわたしが、あんたの好みに合わせなきゃなんないのよ!」
声を裏返しながら必死に否定する夏希を見ていたら、胸の奥底にむず痒いような気持ちが生まれてきた。
「大吾の連絡先も聞いたし、また遊ぶ計画してんだけど夏希も来るか?」
「当たり前でしょ! 内緒だよって言ったのに、ペラペラ喋っちゃうなんて信じられない! 大吾の奴、次に会ったらただじゃおかないから!」
否定を忘れて憤慨する夏希に笑みを零しつつ、『次』という言葉の幸せを噛み締める。
五年の歳月を経て、雪之丞たちはやっと左手の呪縛から解放されたのだ。
これからは空白の時間を埋めるように、たくさん話し、たくさん笑い、再び友情を育んでいける。そんな喜びのある可能性を含んだ未来に、雪之丞は胸を弾ませた。
――それと、もう一つ。
再開ではなく、新たに始めたい関係もある。
「……あのさー、夏希」
これからは俺の彼女として、側にいる気はないか?
そう続けようとしたけれど、やはり恥ずかしくて言えなかった。
だから雪之丞は右手で夏希の手を握った。夏希の手は思っていたよりもずっと小さい、女の子のものだった。
夏希は驚いたように雪之丞の顔を見上げた。そして突然のことに戸惑いながらも、雪之丞の新鮮な表情に笑みを零して、
「……なに? これからはわたしがあんたの左手になる、とか言えばいいの?」
「……うっせーな。少しは可愛いこと言えねえのかよ」
「……もー、めんどくさいなー」
握り返された夏希の手は温かくて、柔らかかった。
「……嬉しい。ずっと、こうしたかった」
そのとき夏希が見せた笑顔は、今まで見てきたどんな彼女よりも優しく、愛らしい表情だった。
「……やればできるじゃねえか」
「……耳まで赤くなってるくせに、偉そうに」
そんなやりとりをしながらも、二人が手を離すことはなかった。
繋いだ右手からは、かけがえのない人の温もりを感じて。
目には見えなくとも、左手では無限の希望を抱いて。
雪之丞は決意を新たに、口にした。
「俺の隣で見ていてくれ。隻腕でもバスケができるってこと、日本一になって証明するから」
体育館入口のエントランスに設置してある自動販売機の前で、夏希に声をかけられた。
「……びっくりした。お前、まだいたのかよ?」
「悪い? わたしだって、ミサちゃんの応援したいんですー」
夏希は頬を膨らませながらも雪之丞の顔色を窺っている。試合に負けた雪之丞が落ち込んでいないか、気を遣っているのだろう。
「気とか遣うんじゃねえよ、気持ち悪い。それより安藤智絵里ちゃんのグラビアを差し入れてくれた方が、よっぽど元気出るっつーの」
「はあー? なによその言い方! むっかつく!」
だからあえて憎まれ口を叩いてみせた。次第に夏希の表情がいつものように豊かになっていくのを見て、雪之丞の頬は緩んだ。
「正彰からLINEがきてた。あっちは問題なく終わったみたいだから、お前は何も気にすんじゃねえぞ?」
「ほんと!? ……よかったあ~! ほんっと、よかったあ~! 正彰たちには感謝してもしきれないわ」
夏希は心底安心したように、胸を押さえて安堵の息を漏らした。
「ちょっとジョー、あんたはしばらく正彰の使用人になったつもりでいなさいよ?」
「あいつはえげつないこと言ってきそうだから却下だ。お前が使用人で、俺は大臣あたりのポジションで甘んじてやろう」
「なんで喧嘩の原因になったジョーの位が、そんなに高いのよ!」
「それじゃ、早速大臣命令な。……夏希、お前はもう化粧すんな。露出の多い服も着るな。ピアスも外せ」
「は? ちょっと、何よいきなり?」
理不尽な命令に、夏希の眉毛が不服そうに釣り上がった。
さて、これから夏希は怒るだろうか。照れるだろうか。否定するだろうか。
「……お前、俺が派手な女が好みだと思って、そういう格好してるんだってな?」
照れる、が正解だったようだ。夏希は見るからに狼狽し、一瞬で頬を真っ赤に染めた。
「な、ななな、なんで……!?」
「おー。その反応だとマジみたいだな」
以前、夏希は悪目立ちする雪之丞に合わせて派手な格好をしてやっていると言っていたが、実は違う理由があったらしい。
大吾曰く、活発で目立ち、人目を惹くタイプの紗綾を好きと言った雪之丞好みの女になるために、夏希は外見から変わる努力をしていくと口にしていたとか。五年の時を経て、夏希が公言通り華やかな女性になっていたことに大吾は驚いたらしい。
「別に無理しなくていいぞ。俺は清楚なお姉様系もイケる口だ」
「なっ……なんでわたしが、あんたの好みに合わせなきゃなんないのよ!」
声を裏返しながら必死に否定する夏希を見ていたら、胸の奥底にむず痒いような気持ちが生まれてきた。
「大吾の連絡先も聞いたし、また遊ぶ計画してんだけど夏希も来るか?」
「当たり前でしょ! 内緒だよって言ったのに、ペラペラ喋っちゃうなんて信じられない! 大吾の奴、次に会ったらただじゃおかないから!」
否定を忘れて憤慨する夏希に笑みを零しつつ、『次』という言葉の幸せを噛み締める。
五年の歳月を経て、雪之丞たちはやっと左手の呪縛から解放されたのだ。
これからは空白の時間を埋めるように、たくさん話し、たくさん笑い、再び友情を育んでいける。そんな喜びのある可能性を含んだ未来に、雪之丞は胸を弾ませた。
――それと、もう一つ。
再開ではなく、新たに始めたい関係もある。
「……あのさー、夏希」
これからは俺の彼女として、側にいる気はないか?
そう続けようとしたけれど、やはり恥ずかしくて言えなかった。
だから雪之丞は右手で夏希の手を握った。夏希の手は思っていたよりもずっと小さい、女の子のものだった。
夏希は驚いたように雪之丞の顔を見上げた。そして突然のことに戸惑いながらも、雪之丞の新鮮な表情に笑みを零して、
「……なに? これからはわたしがあんたの左手になる、とか言えばいいの?」
「……うっせーな。少しは可愛いこと言えねえのかよ」
「……もー、めんどくさいなー」
握り返された夏希の手は温かくて、柔らかかった。
「……嬉しい。ずっと、こうしたかった」
そのとき夏希が見せた笑顔は、今まで見てきたどんな彼女よりも優しく、愛らしい表情だった。
「……やればできるじゃねえか」
「……耳まで赤くなってるくせに、偉そうに」
そんなやりとりをしながらも、二人が手を離すことはなかった。
繋いだ右手からは、かけがえのない人の温もりを感じて。
目には見えなくとも、左手では無限の希望を抱いて。
雪之丞は決意を新たに、口にした。
「俺の隣で見ていてくれ。隻腕でもバスケができるってこと、日本一になって証明するから」
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