53 / 60
第四Q その右手が掴むもの
10
しおりを挟む
沢高のスローインで再開された試合は、すぐに廉が個人技で点差を六点に縮めた。岡村の交代で一気に試合を決めたい洛央の思惑を阻止する、絶妙なタイミングでの得点だった。
沢高のディフェンスはマンツーマンだ。岡村のポジションを引き継いだ雪之丞のマッチアップは、背番号六番、背が高く手足の長い園田という男であった。
早速園田にボールが渡った。雪之丞は腰を落とし、バスケット下の制限区域内に入られないように集中した。
ベンチで見ていたときから、園田のリバウンドは敵ながら惚れ惚れしてしまう手本のような上手さだった。だが得点力という点だけで考えると、同じポジションでも岡村には勝らないと思った。
「……得点力の低い俺なら、自分でも守れると思っているんだろう?」
雪之丞の思考を見透かしたように、園田は強引に雪之丞を押し込んで、いいポジションを取ってきた。わざと倒れてファウルを誘うような技術のない雪之丞は真っ向勝負したものの、園田は雪之丞のディフェンスを躱す華麗なフェイダウェイシュートを決めた。
洛央ベンチと応援団から大きな園田コールが沸き起こる。大歓声を耳にしながら、雪之丞は大きく息を吐いた。園田の動きも今のシュートも心からすごいと思うし、彼がやってきたであろう厳しい練習を思えば尊敬できる。
だが経験の差が負けてもいいという理由になどなるはずもない。次は絶対止めてやると、雪之丞は歯噛みした。
多田を基軸としてセンターラインまで運ばれたボールは、多田から廉に、廉から戸部に、戸部から神谷に回された。
神谷がゴール近くまで入っていこうとドリブルをすると、敵は力負けしない迫力あるディフェンスで侵攻を防いだ。雪之丞が園田を振り切るために動き回っている隙に、多田は絶妙なタイミングで大吾にスクリーンを仕掛けた。フリーになった廉を見逃すことなく神谷がパスを通すと、廉は美しいフォームでジャンプシュートを決めた。
残り六分四十六秒。点差は再び六点。
「下がるな! 当たれ! ここが勝負所だ!」
宇佐美の指示が飛んでくる。沢高は洛央のスローインからコート全面でチェックする策を仕掛けた。オールコートマンツーマンというこのディフェンスは、とにかく動き回って疲れるものだと雪之丞は認識している。
それなのに試合も終盤、雪之丞以外のメンバーは出ずっぱりだというのに、体力も気力も振り絞った見事なディフェンスで洛央を苦しめた。
雪之丞がマークしている園田は運動量が豊富で、本来ガード陣がボール運びをするという常識を覆し、ボールが出せずに苦戦している味方を助けるためにスローイン近くまでボールをもらいに走った。
「させるかよ!」
先輩たちの勝利への執念に心動かされていた雪之丞は、下手くそなりに人一倍動いて園田がパスを受け取る隙を与えなかった。
「くそ……!」
「あんたにボールは持たせねえ!」
まだまだ穴が多く一対一では抜かれることも多い雪之丞だが、ただ一点「ボールを持たせない」ということに関しては、試合に出たばかりで誰よりも体力があり、かつ極限まで集中している雪之丞に分があった。
洛央は五秒ルールギリギリでようやく大吾にボールを渡した。ボールを出されてしまった失態を取り返すように、廉は一歩も前に進ませないと言わんばかりの厳しいチェックで大吾にドリブルをさせなかった。
動けなかった大吾が体勢を立て直そうと、ヘルプに向かった味方にパスを出したそのとき、ブザーが鳴った。
「バイオレーション! 八秒!」
主審のコールが選手たちの耳に届いた。
「「よっしゃあああああ!」」
沢高部員たちは歓喜の声をあげた。作戦が成功したときの喜びを知った雪之丞は試合の楽しさを一層実感し、まだこれからもこのメンバーで一緒にバスケがしたいと思った。
しかしここで負けてしまえば、その願いは叶わない。
そのことを意識したとき、雪之丞はいてもたってもいられなくなった。
沢高のディフェンスはマンツーマンだ。岡村のポジションを引き継いだ雪之丞のマッチアップは、背番号六番、背が高く手足の長い園田という男であった。
早速園田にボールが渡った。雪之丞は腰を落とし、バスケット下の制限区域内に入られないように集中した。
ベンチで見ていたときから、園田のリバウンドは敵ながら惚れ惚れしてしまう手本のような上手さだった。だが得点力という点だけで考えると、同じポジションでも岡村には勝らないと思った。
「……得点力の低い俺なら、自分でも守れると思っているんだろう?」
雪之丞の思考を見透かしたように、園田は強引に雪之丞を押し込んで、いいポジションを取ってきた。わざと倒れてファウルを誘うような技術のない雪之丞は真っ向勝負したものの、園田は雪之丞のディフェンスを躱す華麗なフェイダウェイシュートを決めた。
洛央ベンチと応援団から大きな園田コールが沸き起こる。大歓声を耳にしながら、雪之丞は大きく息を吐いた。園田の動きも今のシュートも心からすごいと思うし、彼がやってきたであろう厳しい練習を思えば尊敬できる。
だが経験の差が負けてもいいという理由になどなるはずもない。次は絶対止めてやると、雪之丞は歯噛みした。
多田を基軸としてセンターラインまで運ばれたボールは、多田から廉に、廉から戸部に、戸部から神谷に回された。
神谷がゴール近くまで入っていこうとドリブルをすると、敵は力負けしない迫力あるディフェンスで侵攻を防いだ。雪之丞が園田を振り切るために動き回っている隙に、多田は絶妙なタイミングで大吾にスクリーンを仕掛けた。フリーになった廉を見逃すことなく神谷がパスを通すと、廉は美しいフォームでジャンプシュートを決めた。
残り六分四十六秒。点差は再び六点。
「下がるな! 当たれ! ここが勝負所だ!」
宇佐美の指示が飛んでくる。沢高は洛央のスローインからコート全面でチェックする策を仕掛けた。オールコートマンツーマンというこのディフェンスは、とにかく動き回って疲れるものだと雪之丞は認識している。
それなのに試合も終盤、雪之丞以外のメンバーは出ずっぱりだというのに、体力も気力も振り絞った見事なディフェンスで洛央を苦しめた。
雪之丞がマークしている園田は運動量が豊富で、本来ガード陣がボール運びをするという常識を覆し、ボールが出せずに苦戦している味方を助けるためにスローイン近くまでボールをもらいに走った。
「させるかよ!」
先輩たちの勝利への執念に心動かされていた雪之丞は、下手くそなりに人一倍動いて園田がパスを受け取る隙を与えなかった。
「くそ……!」
「あんたにボールは持たせねえ!」
まだまだ穴が多く一対一では抜かれることも多い雪之丞だが、ただ一点「ボールを持たせない」ということに関しては、試合に出たばかりで誰よりも体力があり、かつ極限まで集中している雪之丞に分があった。
洛央は五秒ルールギリギリでようやく大吾にボールを渡した。ボールを出されてしまった失態を取り返すように、廉は一歩も前に進ませないと言わんばかりの厳しいチェックで大吾にドリブルをさせなかった。
動けなかった大吾が体勢を立て直そうと、ヘルプに向かった味方にパスを出したそのとき、ブザーが鳴った。
「バイオレーション! 八秒!」
主審のコールが選手たちの耳に届いた。
「「よっしゃあああああ!」」
沢高部員たちは歓喜の声をあげた。作戦が成功したときの喜びを知った雪之丞は試合の楽しさを一層実感し、まだこれからもこのメンバーで一緒にバスケがしたいと思った。
しかしここで負けてしまえば、その願いは叶わない。
そのことを意識したとき、雪之丞はいてもたってもいられなくなった。
0
あなたにおすすめの小説
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
無敵のイエスマン
春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる