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第三Q 生き様を証明せよ
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あの後どうやって帰ってきたのか、ミーティングで何を話したのか、何も覚えていない。雪之丞は自室のベッドの上に寝転び、ぼうっと天井を見上げていた。
ダンクに跳んだときに見えた新しい世界や、思うように体を動かせない自分に抱いた悔しさ。バスケを通して抱いてきた想いがすべて、今も瞼の裏に焼きついて離れない大吾の土下座によって、かき消されていく。
「……くっそ……」
やりきれずに右手を壁に叩きつけた。手は赤く腫れ、階下からは母の叱責の声が聞こえた。晴れるはずもない気持ちのやり場に途方にくれていると、スマホがメッセージの受信を知らせた。差出人は夏希だった。
『大事な話があるから、今すぐ銀杏公園に来て』
とても外に出る気分ではない。雪之丞が無視しようと決めた瞬間、追加でメッセージが届いた。
『紗綾先輩もいるから』
なぜ、夏希と紗綾が一緒にいるのだろうか。あのとき、紗綾が夏希に何かを言おうとしていたことと関係があるのだろうか。
嫌な胸騒ぎがした雪之丞は重い腰を上げ、待ち合わせ場所に向かうことにした。
◇
銀杏公園は昔四人で遊ぶときに待ち合わせ場所に利用していた思い出の場所だ。大吾とミサがいなくなってからは足が遠のいていたため、公園についた雪之丞はとても懐かしい感覚を覚えた。
夏希と紗綾は丸時計の下にあるベンチに座って待っていた。二人とも一度も家に帰っていないのか、夏希は昼間に着ていた私服、紗綾はバスケ部のジャージ姿のままだった。
雪之丞の姿を見つけた夏希は目を丸くした。
「ちょっと、ジョー!? あんた右手どうしたのよ!? 真っ赤じゃん!」
「……うるせえな。夏希には関係ねえだろ」
心配してくれているとわかっているのに、夏希にはつい邪険な態度を取ってしまう。
「……鳴海くん。バスケ選手なんだから、手は大事にしないと」
「……うす」
紗綾の言葉には素直に頷いた雪之丞を見て、夏希は一瞬だけ表情を陰らせた。
「それで夏希、話ってなんだよ」
雪之丞が切り出すと、夏希は紗綾に視線を送った。
「……わたしの口から説明させて」
紗綾は雪之丞に近づき、左腕の付け根にそっと触れた。
「……紗綾先輩?」
「……あの日、一つ年上のわたしが止めなくちゃいけなかった。わたしがもっとしっかりしていれば、ジョーの左手は今も、ここにあったはずなの」
「……ジョー?」
雪之丞の「ジョー」というあだ名は小さいときに夏希がつけたもので、主に小学校の同級生や親しい友人が雪之丞を呼ぶときに使用している。
それを何故、今まで「鳴海くん」と呼んでいた紗綾が使ったのだろう。
「……わ、わたしは……その……」
小さく唇を動かすだけで上手く言葉を紡げない紗綾を助けるように、夏希がゆっくりと口を開いた。
「……ジョーも覚えているでしょ? ……ミサちゃんのこと」
当然、覚えている。雪之丞は大きく頷いた。明るくてしっかり者で優しくて、誰とでもすぐに仲良くなれる笑顔の可愛い一つ年上の女の子だ。雪之丞が左手をなくした後、大吾と同様別れを告げることもなく雪之丞の前から姿を消してしまった、淡い初恋の相手でもある。
「どうしてわざわざ銀杏公園にジョーを呼んだか、考えてみて」
心臓がどくんと大きな脈を打った。直感めいたものが働いたが、脳味噌が否定して確信にはならない。そんな雪之丞にはっきりと事実を伝えるために、夏希は一度ゆっくりと瞬きをして、雪之丞の瞳を真剣見据えてから口を開いた。
「紗綾先輩はね……ミサちゃんだったのよ」
「……は?」
思い出の中で笑っているミサと、目の前でうつむく紗綾。二人の印象はあまりにもかけ離れていて、にわかには信じられなかった。
ダンクに跳んだときに見えた新しい世界や、思うように体を動かせない自分に抱いた悔しさ。バスケを通して抱いてきた想いがすべて、今も瞼の裏に焼きついて離れない大吾の土下座によって、かき消されていく。
「……くっそ……」
やりきれずに右手を壁に叩きつけた。手は赤く腫れ、階下からは母の叱責の声が聞こえた。晴れるはずもない気持ちのやり場に途方にくれていると、スマホがメッセージの受信を知らせた。差出人は夏希だった。
『大事な話があるから、今すぐ銀杏公園に来て』
とても外に出る気分ではない。雪之丞が無視しようと決めた瞬間、追加でメッセージが届いた。
『紗綾先輩もいるから』
なぜ、夏希と紗綾が一緒にいるのだろうか。あのとき、紗綾が夏希に何かを言おうとしていたことと関係があるのだろうか。
嫌な胸騒ぎがした雪之丞は重い腰を上げ、待ち合わせ場所に向かうことにした。
◇
銀杏公園は昔四人で遊ぶときに待ち合わせ場所に利用していた思い出の場所だ。大吾とミサがいなくなってからは足が遠のいていたため、公園についた雪之丞はとても懐かしい感覚を覚えた。
夏希と紗綾は丸時計の下にあるベンチに座って待っていた。二人とも一度も家に帰っていないのか、夏希は昼間に着ていた私服、紗綾はバスケ部のジャージ姿のままだった。
雪之丞の姿を見つけた夏希は目を丸くした。
「ちょっと、ジョー!? あんた右手どうしたのよ!? 真っ赤じゃん!」
「……うるせえな。夏希には関係ねえだろ」
心配してくれているとわかっているのに、夏希にはつい邪険な態度を取ってしまう。
「……鳴海くん。バスケ選手なんだから、手は大事にしないと」
「……うす」
紗綾の言葉には素直に頷いた雪之丞を見て、夏希は一瞬だけ表情を陰らせた。
「それで夏希、話ってなんだよ」
雪之丞が切り出すと、夏希は紗綾に視線を送った。
「……わたしの口から説明させて」
紗綾は雪之丞に近づき、左腕の付け根にそっと触れた。
「……紗綾先輩?」
「……あの日、一つ年上のわたしが止めなくちゃいけなかった。わたしがもっとしっかりしていれば、ジョーの左手は今も、ここにあったはずなの」
「……ジョー?」
雪之丞の「ジョー」というあだ名は小さいときに夏希がつけたもので、主に小学校の同級生や親しい友人が雪之丞を呼ぶときに使用している。
それを何故、今まで「鳴海くん」と呼んでいた紗綾が使ったのだろう。
「……わ、わたしは……その……」
小さく唇を動かすだけで上手く言葉を紡げない紗綾を助けるように、夏希がゆっくりと口を開いた。
「……ジョーも覚えているでしょ? ……ミサちゃんのこと」
当然、覚えている。雪之丞は大きく頷いた。明るくてしっかり者で優しくて、誰とでもすぐに仲良くなれる笑顔の可愛い一つ年上の女の子だ。雪之丞が左手をなくした後、大吾と同様別れを告げることもなく雪之丞の前から姿を消してしまった、淡い初恋の相手でもある。
「どうしてわざわざ銀杏公園にジョーを呼んだか、考えてみて」
心臓がどくんと大きな脈を打った。直感めいたものが働いたが、脳味噌が否定して確信にはならない。そんな雪之丞にはっきりと事実を伝えるために、夏希は一度ゆっくりと瞬きをして、雪之丞の瞳を真剣見据えてから口を開いた。
「紗綾先輩はね……ミサちゃんだったのよ」
「……は?」
思い出の中で笑っているミサと、目の前でうつむく紗綾。二人の印象はあまりにもかけ離れていて、にわかには信じられなかった。
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