セキワンローキュー!

りっと

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第三Q 生き様を証明せよ

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「まじかよ! すげえな!」

「あいつ一体、何者なんだ!?」

 洛央側からの驚愕の声が耳朶に届く。最初のプレーが決まったことで、彼らの度肝を抜くことに成功したようだ。ルーズボールを拾った沢高はパスを回しながらゴールに向かって一直線に進み、ゴール近くからジャンプシュートを決めた。

「よしよしよし! いいぞ上田! おい、お前らもこんなモンじゃねえだろ!? 気合入れていけよ!」

 雪之丞が多田の真似をしてチームメイトを鼓舞すると、表情の固かった彼らの頬がふっと緩み、全身から無駄な力が抜けたように見えた。そしてこのワンプレーを機に、洛央との実力差に意気消沈しつつあった彼らはプレーに集中し始めたのだった。

 声を出すようになった沢高は、積極的にボールを追い洛央の攻撃に懸命に食らいつくことで、少しずつ流れを引き寄せ始めた。雪之丞が投入されて一分、いくつもの幸運と偶然が重なったことで雪之丞は活躍と言って差し支えない動きを見せ、点差は六点まで縮まった。

 ただ、こんな都合のいい奇跡はそう長く続かなかった。ルーズボールを拾った雪之丞はそのまま自分でゴールまで運ぼうとして、見事にボールをおいてけぼりにするという失笑もののミスをしてしまった。

「し、しまったあー!」

 頭を抱えて叫ぶ雪之丞に、唖然としていた洛央選手がぽつりと呟いた。

「……普通あんなミス、するか?」

 一度ボロが出てしまった後の崩壊は一瞬だった。その後、立て続けにミスをした雪之丞を見て疑心が確信に変わった洛央は、雪之丞を狙って集中攻撃を仕掛けてきた。中学時代にはエースを張ってきた選手の集団が一斉に襲いかかってくるのだ。雪之丞にとってたまったものではなかった。

 ボールを持てばすぐにダブルチームで奪われ、容赦なく自分の所から攻め込まれる。練習でも何度も経験済みのこの戦術は、腹立たしくもあり情けなくもあった。

 だけどまだ自分を見失ってはいなかった。合宿最終日、廉に言われた言葉を思い出す。

 ――やられたらやり返せよ。お前、やられっぱなしで腐るタマなのか?

 胸の中で燃え続けていた炎は大きく広がり、最高温度まで上がっていく。それは喧嘩を突っかけられたときのような、黒い感情を燃料にしているわけではない。ただ単純に自分の力で何かしてやりたいという、前向きな感情を燃料としていた。

 点差は再び十点のビハインド。残り時間一分を切った頃には、集中して狙われる雪之丞にパスは回って来なくなった。それでも決して腐らずにコート上を走り回っていると、ふいにチャンスは訪れた。

 足を止めずに動いていた雪之丞のマークが、完全に外れた。ゴールが狙える距離だった。

「俺にくれ!」

 チームメイトは躊躇っていたが、雪之丞の気迫につられてパスを出した。敵はカバーに入ってきたが手を抜いていることがわかる。雪之丞のシュートはどうせ入りっこないと思い込んでいるのだろう。

「お前、後悔する羽目になるぞ」

 雪之丞はそう言って、右手でボールを掴みながら力いっぱい跳び上がった。擬音語が出そうなくらい勢いのあるジャンプは、あっという間にコート上の誰よりも高い位置に雪之丞を運んだ。

「なっ……!」

 敵の驚いた顔も、コートにいる人間も、何もかもが止まって見える。いける。決めてやる!

「うらあ!」

 リングに叩きつけるように上から勢いよく右手を振り下ろしたが、押し込もうとしたボールはリングに当たり、大きな音を立てて弾け飛んでいった。

「うわーーーー!?」

 雪之丞の叫びと両校の選手、観客らの声が同時に発せられた瞬間、第二クォーター終了を告げるブザーが鳴り響いた。

 ――決めたかった。自分の存在を、一点でも記録に残したかった。

 燃やし続けていた胸の炎は不完全燃焼のまま、ネットを揺らせなかった悔しさを抱いて雪之丞はゴールを見上げた。どよめきの残る中、体育館中の人々の視線を集めながらベンチに戻った雪之丞は、チームメイトたちに興奮気味に囲まれた。

「すっげーじゃん鳴海! 惜しかったよ!」

「デビュー戦であれ決めていたら、伝説だったぞ!」

「……あざっす。でもやっぱ、決めたかったっす」

 謙遜ではなく、ただ素直な気持ちを口にした。

「……そうだな、決めなきゃ意味ねえよ。点差も開いたしな」

 褒めてくれる部員が多い中、廉は辛辣な言葉を吐いた。

「廉! お前また……」

 窘めようとした多田を無視して、廉は雪之丞から視線を逸らしてぼそりと呟いた。

「……ただ、これで流れは完全にウチに変わった。それだけは認めてやる」

 雪之丞や多田、その場にいた部員が唖然とする中、廉はそれ以上何も言わずに黙って去っていった。

「……あれは廉なりの精一杯の褒め言葉だな、きっと」

「……死亡フラグとかじゃないっすよね?」

 多田と話していると宇佐美から集合がかかり、後半戦に向けたミーティングが始まった。話を聞いている最中、雪之丞は手が震えていることを周りに見られないよう隠した。実は試合終了を告げるブザーを耳にしたときからずっと、震えが止まらないのだ。

 それは興奮なのか、悔恨なのか、感動なのか、自分でもよくわからない。

 だがあの瞬間、ダンクのために跳んで空中の支配権を獲得した瞬間、体中の血液が湧き上がるような初めての感覚を覚えたのだ。

 これでボールがリングの中に入っていたら、どれだけ気持ちがいいのだろう。想像しただけで胸が熱くなってくる。不完全燃焼となってしまったこの気持ちは、公式戦で爆発させてやると誓った。
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