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第二Q ザ・レコード・オブ・ジョーズ・グロウス ~合宿編~
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「……鳴海。……おい、鳴海! 聞いてるのか?」
多田の声で我に返ると、試合に出ていたメンバーが前半戦を終えて自陣に戻ってきていた。どうやら今は後半戦の打ち合わせをしていたようだ。
完全に周りが見えていなかった雪之丞は、慌てて頭を下げた。
「す、すみません!」
「ったく、鳴海は後半頭から出るんだから、しっかり集中してくれよ? 後半戦は今話した通り、俺、神谷、廉、谷原、鳴海でスタートする。鳴海は五分で交代だから、最初から全力で動いて監督が言っていた『合宿中の成長』をアピールしろよ!」
「ウス!」
――難しく考えるな。俺にとって特に大切なのは、次の行動への判断力だ。試合に集中して敵の動きを早く予測し、敵より速く動くんだ。
白チームのスローインで後半戦が始まった。敵は前半戦のビハインドを取り返すべく、作戦を変えてきたようだ。ボールを持っていた戸部が左手の指を三本立てると、サイドにいた味方が戸部をマークしていたディフェンスにスクリーンをかけた。すかさず戸部はドリブルで抜き去り、さらにカバーに入ってきたディフェンスの隙をついて味方にパスを出し、シュートを決めさせた。
豊富な試合経験と冷静さを兼ね揃えた戸部が、本職であるSGではなくPGを務め、全体に指示を出し始めたのだ。チームの歯車となった戸部は、攻守共に存在感を見せつけていた。
岡村は前半こそ周りの選手にパスを回して活躍の場を与える努力をしていたようだが、負けていることに我慢がならなかったらしく、自ら点を取る普段通りの超攻撃的スタイルに戻っていた。
この二人のプレースタイルの変化は厄介で、後半開始わずか一分で三点差に追いつかれ、試合の流れを完全に持っていかれてしまった。
しかし赤チームが動揺を見せる中で、唯一いつもと変わらない男がいた。廉は強引にも見えるドリブルで中央突破し、試合の主導権は俺が握ると言わんばかりに鮮やかなダンクを決めてみせた。
両チーム共に呆然としていると、
「赤チームには俺がいる。負けるわけだろ」
皆の視線を一身に集めた廉は、強気……いや、不遜とも取れる言葉を真顔で口にした。だがそれは怒りを呼ぶ発言ではなく、追われる立場にある赤チームの気持ちを落ち着かせ、白チームの闘争心を掻き立てる刺激になったようだった。
雪之丞は廉が一緒のチームにいることの安心感を覚えながらも、自分も早く結果を残さなくてはと焦燥した。
「パスください!」
マークを外して手をあげると、多田から絶妙なパスが届いた。キャッチは無事成功し、ゴールまでの直線上に敵はいなかった。チャンスである。
しかしドリブルでゴールに近づこうとした瞬間、失敗したらどうしようという不安が頭を過ぎった。雪之丞の一瞬の躊躇。それは敵にとって追いつくには十分な時間になる。あっという間に前方を塞がれ、ボールを奪われる危機に陥る雪之丞の視界に廉の姿が見えた。なんとかしのいで廉にパスを出すと、彼は華麗な個人技で敵をかわしてゴールを奪った。
「いいぞ藤ヶ谷! ナイッシュー!」
自陣の声援がシュートから逃げた自分を肯定してくれたような気がして、自身のプレーを正当化してしまった雪之丞は、その後もミスを恐れて極力ボールを持つことを避けていた。
――くっそ、何やってんだ俺! これじゃあ駄目だって頭じゃわかってんのに!
長く悔やむ暇など与えんと言わんばかりのパスが多田から回ってきた。雪之丞が受け取りやすいようにワンバウンドさせて軽く勢いを殺した、気遣いのあるパスだ。
右手で受け取った雪之丞は背中で岡村を防ぎながらドリブルしつつ、ゴールを見た。ゴールまでまだ距離があるし、ディフェンスもしっかりついている。脳に浮かんだのは失敗のイメージだった。ミスを恐れて多田にパスを戻そうとした瞬間、背中のガードが緩んで岡村にボールをスティールされてしまった。
しまった、と急いで追いかける。雪之丞は足は速いためすぐに追いつけるが、守備力はまだまだひよっこである。岡村の緩急つけたドリブルに翻弄され、あっさりと抜かれてしまった。
またやられた。点を取られると思ったそのとき、カバーに入った廉が岡村のレイアップシュートをブロックした。ファウルこそ取られたものの、確実に点が入ることを防いだいい判断だったと言える。
抜かれた雪之丞に廉は詰め寄り、これまで以上に冷酷な瞳で睨みつけられた。嫌味を言われると思い構えていると、
「やられたらやり返せよ。お前、やられっぱなしで腐るタマなのか?」
廉は雪之丞を煽るように、挑発的に口にした。廉は基本的に、雪之丞の失敗を鼻で笑って退部を促す男だ。そんな男が雪之丞に叱責とも激励とも取れる言葉をかけたのは、練習でも負けたくないという気持ちが何よりも優先されたからだろう。
廉が放った予想外の一言は、雪之丞の中で消えかけていた何かに火を点けた。
――そうだ、廉に言われるまでもない。やられたらやり返す。
今までそうやって、右手一本でも馬鹿にされないように証明してきたんじゃねえか。
多田の声で我に返ると、試合に出ていたメンバーが前半戦を終えて自陣に戻ってきていた。どうやら今は後半戦の打ち合わせをしていたようだ。
完全に周りが見えていなかった雪之丞は、慌てて頭を下げた。
「す、すみません!」
「ったく、鳴海は後半頭から出るんだから、しっかり集中してくれよ? 後半戦は今話した通り、俺、神谷、廉、谷原、鳴海でスタートする。鳴海は五分で交代だから、最初から全力で動いて監督が言っていた『合宿中の成長』をアピールしろよ!」
「ウス!」
――難しく考えるな。俺にとって特に大切なのは、次の行動への判断力だ。試合に集中して敵の動きを早く予測し、敵より速く動くんだ。
白チームのスローインで後半戦が始まった。敵は前半戦のビハインドを取り返すべく、作戦を変えてきたようだ。ボールを持っていた戸部が左手の指を三本立てると、サイドにいた味方が戸部をマークしていたディフェンスにスクリーンをかけた。すかさず戸部はドリブルで抜き去り、さらにカバーに入ってきたディフェンスの隙をついて味方にパスを出し、シュートを決めさせた。
豊富な試合経験と冷静さを兼ね揃えた戸部が、本職であるSGではなくPGを務め、全体に指示を出し始めたのだ。チームの歯車となった戸部は、攻守共に存在感を見せつけていた。
岡村は前半こそ周りの選手にパスを回して活躍の場を与える努力をしていたようだが、負けていることに我慢がならなかったらしく、自ら点を取る普段通りの超攻撃的スタイルに戻っていた。
この二人のプレースタイルの変化は厄介で、後半開始わずか一分で三点差に追いつかれ、試合の流れを完全に持っていかれてしまった。
しかし赤チームが動揺を見せる中で、唯一いつもと変わらない男がいた。廉は強引にも見えるドリブルで中央突破し、試合の主導権は俺が握ると言わんばかりに鮮やかなダンクを決めてみせた。
両チーム共に呆然としていると、
「赤チームには俺がいる。負けるわけだろ」
皆の視線を一身に集めた廉は、強気……いや、不遜とも取れる言葉を真顔で口にした。だがそれは怒りを呼ぶ発言ではなく、追われる立場にある赤チームの気持ちを落ち着かせ、白チームの闘争心を掻き立てる刺激になったようだった。
雪之丞は廉が一緒のチームにいることの安心感を覚えながらも、自分も早く結果を残さなくてはと焦燥した。
「パスください!」
マークを外して手をあげると、多田から絶妙なパスが届いた。キャッチは無事成功し、ゴールまでの直線上に敵はいなかった。チャンスである。
しかしドリブルでゴールに近づこうとした瞬間、失敗したらどうしようという不安が頭を過ぎった。雪之丞の一瞬の躊躇。それは敵にとって追いつくには十分な時間になる。あっという間に前方を塞がれ、ボールを奪われる危機に陥る雪之丞の視界に廉の姿が見えた。なんとかしのいで廉にパスを出すと、彼は華麗な個人技で敵をかわしてゴールを奪った。
「いいぞ藤ヶ谷! ナイッシュー!」
自陣の声援がシュートから逃げた自分を肯定してくれたような気がして、自身のプレーを正当化してしまった雪之丞は、その後もミスを恐れて極力ボールを持つことを避けていた。
――くっそ、何やってんだ俺! これじゃあ駄目だって頭じゃわかってんのに!
長く悔やむ暇など与えんと言わんばかりのパスが多田から回ってきた。雪之丞が受け取りやすいようにワンバウンドさせて軽く勢いを殺した、気遣いのあるパスだ。
右手で受け取った雪之丞は背中で岡村を防ぎながらドリブルしつつ、ゴールを見た。ゴールまでまだ距離があるし、ディフェンスもしっかりついている。脳に浮かんだのは失敗のイメージだった。ミスを恐れて多田にパスを戻そうとした瞬間、背中のガードが緩んで岡村にボールをスティールされてしまった。
しまった、と急いで追いかける。雪之丞は足は速いためすぐに追いつけるが、守備力はまだまだひよっこである。岡村の緩急つけたドリブルに翻弄され、あっさりと抜かれてしまった。
またやられた。点を取られると思ったそのとき、カバーに入った廉が岡村のレイアップシュートをブロックした。ファウルこそ取られたものの、確実に点が入ることを防いだいい判断だったと言える。
抜かれた雪之丞に廉は詰め寄り、これまで以上に冷酷な瞳で睨みつけられた。嫌味を言われると思い構えていると、
「やられたらやり返せよ。お前、やられっぱなしで腐るタマなのか?」
廉は雪之丞を煽るように、挑発的に口にした。廉は基本的に、雪之丞の失敗を鼻で笑って退部を促す男だ。そんな男が雪之丞に叱責とも激励とも取れる言葉をかけたのは、練習でも負けたくないという気持ちが何よりも優先されたからだろう。
廉が放った予想外の一言は、雪之丞の中で消えかけていた何かに火を点けた。
――そうだ、廉に言われるまでもない。やられたらやり返す。
今までそうやって、右手一本でも馬鹿にされないように証明してきたんじゃねえか。
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