セキワンローキュー!

りっと

文字の大きさ
上 下
9 / 60
第一Q 隻腕の単細胞

8

しおりを挟む
「鳴海、体力あるなあ! 最初からついて来られるっていうのは、すごいことだぞ!」

 多田に褒められて調子に乗った雪之丞は、満面の笑みで頭を掻いた。

「いやあ、そうっすかね! まだまだイケるっすよ!」

「お? そうかそうか! じゃあ、フットワークも余裕かな?」

「フットワーク?」

「フットワークってのは、試合で使う足の運び方や肺活量を鍛える練習だ。まあ、やってみるのが早い。さあ一年、休んでいる暇はないぞ! 次はフットワークだ! 俺たちの動きを真似してやってみろ!」

 座り込んで肩で息をしている一年の顔が青ざめるのを見た。フットワークとやらはそんなにきつい練習なのだろうか?

 最初にやらされたのは、エンドラインに横の間隔を空けて三人ずつ並び、マネージャーの笛の音を合図に全力疾走するというメニューだった。走っている途中で笛が鳴れば、逆方向に切り返して再び全力疾走。決められた時間がくるまで、走っている間に笛が鳴ったら逆方向に切り返す動作を繰り返す。

 相当キツいが、耐えられないメニューではない。これさえ乗り切れば大丈夫だ、と思った雪之丞の考えは甘かった。これは多くの種類があるフットワークの中の一つ、序の口でしかなかったのだ。

 その他にも、片足で踏み切って逆足で着地し、また逆に跳んでを交互に繰り返して前方にジグザグに進んでいくサイドステップや、腰を落としてディフェンスの姿勢を保ったままその場で小刻みにステップを踏み続け、笛が鳴ったらジャンプしたり左右への動きを入れたりするハーキーステップなど、数多くのメニューをやらされた。

「バスケはサッカーに比べてコートは狭いけど、試合ではコート内を何度も何度も往復する。だからバスケは切り返しの速さを問われるスポーツでもあるんだ。試合に勝つためには絶対にこのフットワークを疎かにしてはいけない。フットワークを好きな奴なんていないし、キツいとは思うが根性見せろよ!」

 多田はすでにへばっている一年生に向かって活を入れたが、屍寸前の彼らの耳に届いたのかどうかは不明である。ボールを使った難しい練習ではない。ただ手足を使ってコートの中を動くだけの練習なのに、雪之丞は今まで体験したことがないくらいに息が上がっていた。中学生の頃、多勢に囲まれて体中殴られたときよりもはるかに辛く、きつかった。

「鳴海い! 遅いぞ! まだまだイケるとか言ったくせに、そんなモンだったのかあ!?」

 打って変わって厳しくなった多田の声が耳朶に響く。呼吸をすることすら必死になっていた雪之丞は、悔しくも返事をすることができなかった。

 永遠のようにも感じられた地獄の時間からの解放の笛が鳴ると、一年生は皆倒れ込んだ。白い顔をして外へ飛び出し、嘔吐する者もいた。雪之丞も地面に尻をつけ、酸素を体内に取り込むことに死に物狂いになりながら思った。

 ――完全に調子乗ってた。ダッセえなあ、俺!

 入部一日目。いや、入部して二時間。早くも雪之丞は、バスケットボールの厳しさを思い知ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合色雪月花は星空の下に

楠富 つかさ
青春
 友達少ない系女子の星野ゆきは高校二年生に進級したものの、クラスに仲のいい子がほとんどいない状況に陥っていた。そんなゆきが人気の少ない場所でお昼を食べようとすると、そこには先客が。ひょんなことから出会った地味っ子と家庭的なギャルが送る青春百合恋愛ストーリー、開幕!

あしたのアシタ

ハルキ4×3
青春
都市部からかなり離れた小さな町“明日町”この町の私立高校では20年前に行方不明になった生徒の死体がどこかにあるという噂が流れた。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【新編】オン・ユア・マーク

笑里
青春
東京から祖母の住む瀬戸内を望む尾道の高校へ進学した風花と、地元出身の美織、孝太の青春物語です。 風花には何やら誰にも言えない秘密があるようで。 頑なな風花の心。親友となった美織と孝太のおかげで、風花は再びスタートラインに立つ勇気を持ち始めます。 ※文中の本来の広島弁は、できるだけわかりやすい言葉に変換してます♪ 

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

男子高校生の休み時間

こへへい
青春
休み時間は10分。僅かな時間であっても、授業という試練の間隙に繰り広げられる会話は、他愛もなければ生産性もない。ただの無価値な会話である。小耳に挟む程度がちょうどいい、どうでもいいお話です。

Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜

green
青春
一ノ瀬財閥の令嬢、一ノ瀬綾乃は小学校一年生からサッカーを始め、プロサッカー選手になることを夢見ている。 しかし、父である浩平にその夢を反対される。 夢を諦めきれない綾乃は浩平に言う。 「その夢に挑戦するためのお時間をいただけないでしょうか?」 一人のお嬢様の挑戦が始まる。

処理中です...