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第二章 存在の証明

健闘を祈ってる

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 高校に入ってから友達になった明美にも、心臓移植に関する晴陽の事情は話している。

 だけど病名や手術前後の生活を軽く伝えただけで、明美は小中学校の頃の晴陽を知らない。二階堂菫の存在を知らない。

 そして、晴陽が菫の影響を受けている――というより、人格を上書きされつつあるなんてことは、微塵も知らないのだ。

「私が心臓移植手術を受けたってこと、前に話したじゃん? あのときは驚いていただけに見えたけど……本当は、どう思った?」

 適度に騒がしく適度に怠惰な空気の漂う昼休みの教室の中で、相変わらず豪勢な弁当を頬張っていた明美は首を捻った。

「へ? 移植の話はまあ、大変だったみたいだけど今は元気でよかった、としか思わなかったけど?」

 友人が心臓移植手術を受けたと聞いた場合、大抵の人間が抱く感想だろう。聞き方を変えようと思い、晴陽は緊張しながら息を吸った。

「……目の前の私がある日突然、偽物だったって知ったらどうする?」

 明美は本気で意味がわからないというように、怪訝な顔をしていた。

「うーん……金髪ツインテがツンデレじゃないくらいの裏切りだと思う」

「裏切り」という言葉に、胸に刃物を突き立てられたかのような痛みを覚えた。

 明美は馬鹿だけど裏表のない、正直者のいい奴だ。真っ直ぐな明美だからこそ嘘を嫌う。晴陽の存在そのものが嘘だったなんて知ったら、もう友人ではいられないのかもしれない。

 照れもあって面と向かって本人には言えないけれど、これからもずっと友達でいたいと思っている明美にあからさまに距離を取られるのは、想像しただけで張り裂けそうになった。

「なんて、冗談だよ! 晴陽は晴陽でしょ。あたしだって声優オタクだってことをクラスの皆には秘密にしてるし。見えている部分だけが真実じゃないっしょ。だけどそれでも、一緒にいて楽しかったり心地よかったりすればいいんじゃないかな。知らんけど」

 目の前が真っ暗になりかけていた晴陽に光を当てるように、明美はニッと口角を上げて笑った。

 どんな晴陽であれ、明美は自分自身の気持ちに従って晴陽といるのだと解釈するのは、少々都合がよすぎるだろうか。

「……凌空先輩が明美みたいに単純だったらいいんだけどね」

「単純ってなによ。バカにしてんの?」

「いや、もっと早く明美に相談しておけばよかったかなって。……ちなみに言っておくけど、明美が声優オタクだってことは皆気づいてるから。秘密にできてないから」

「え⁉ マジで⁉ ……嘘でしょ……あたしの今までの努力はなんだったの……?」

 頭を抱える明美を見て、笑ってしまった。入りすぎていた肩の力が抜けて、気持ちにゆとりができたような気がした。

 翔琉には告白のための背中を押してもらい、明美からは戻る場所を明言してもらえた。

 友人に恵まれて幸せ者だと、心から思う。

「ね、明美。私、凌空先輩に告白するよ」

 何を今更と突っ込まれると思ったけれど、今までとは似て異なる晴陽の覚悟と決意を肌で感じたのだろうか。
明美は自分の弁当箱からカツを一切れ摘んで、晴陽の弁当の上に載せた。

「振られたらまたカラオケ行こ。健闘を祈ってる」

 雑すぎる験担ぎに、晴陽は口を開けて笑った。
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