先輩。私が恋を証明できたら、好きになっていただけませんか?

りっと

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第二章 存在の証明

覚悟を決めて

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 晴陽がちゃんと自分の意思で凌空を好いており、そこに菫の意思は働いていないのだという証明をするためには、自分のことをもっとよく知らなければならないと考えた。

 まずは過去の自分を振り返る必要がある。覚悟を決めた晴陽は、見ることを避け続けてきた自身のアルバムを押入れの奥から引っ張り出し、生まれた順に追っていくことにした。

『覚悟を決めた』という表現をしたのには理由がある。

 晴陽は過去の写真を見たり、思い出に浸ったりといった行為が好きではない。具体的な理由があるわけではないが、なんとなく避けたい。

 今まではその理由がわからなかったけれど、今なら晴陽の中の『菫』がそうさせていると仮定することができる。だとすれば、あえて逆らってみたいとも思った。

 顔がしわくちゃな新生児の写真から、初めての寝返り、公園遊び、幼稚園入園、動物園や遊園地へのお出かけ、小学校の遠足――本当にたくさんの写真が、何冊ものアルバムに収められていた。自分で言うのは少し照れ臭いけれど、両親から大切に育てられてきたという実感が湧いてくる。

 だが予想通り、中学校一年生の秋以降は写真が激減していた。思春期に入って親が写真を撮る機会が減ったからではない。拡張型心筋症を発症した晴陽の闘病生活が始まったからだ。

 数少ない写真は自宅か病院にいるときのものしかなく、晴陽の表情も真顔か、少し微笑むくらいで代わり映えしなくて苦笑した。心臓移植をしなければ長生きのできない娘を一枚でも多く写真に収めておきたかった両親の心理は当時から理解していたけれど、症状も治療も辛かった晴陽は余裕がないときの方が多く、カメラを拒否したことも何度もあった。

 服の上からそっと胸に手を当てた。だがもしも今の自分が病気になったならば、無理にでも笑ってピースサインを作るだろう。そう思えるのは歳を重ねた晴陽が変わったからなのか、それとも、菫の性格が大きく影響しているのだろうか。

 表情だけではなく構図もまた似たりよったりで、スケッチブックに向かって鉛筆を握っている写真ばかりだった。絵に対しては菫も熱を入れていたようだが、晴陽だって菫に負けず劣らず、絵を描くことが好きなのだ。

 それなのに――右手に視線を落として、溜息を吐いた。

 凌空も蓮も、晴陽の目を見ながら菫のことを口にする。私は逢坂晴陽だ。逢坂晴陽でしかないというのに。

 ……いや、本当にそうなのか?

 胸の中にいるもう一人の自分――もしかしたらそれは菫なのかもしれないけれど、その子は晴陽が晴陽であろうとすればするほど顔を出してきて、疑念を提示してくる。思考を放棄することを許してはくれない。

 ゆえに、気づかない振りをしてきたことにも向かわざるを得ない。

 彼らが言う『晴陽の人格は菫に影響を受けている』という主張に対しての証拠はないが、逆に『影響を受けていない』という証拠もまた提示できない以上、頭ごなしに否定するというのも理屈が通らないのだ。

 たとえば、晴陽はパンよりも白米が好きだ。ピーマンが嫌いだ。バスケが好きだ。でもスポーツはなんでも観るのは楽しい。画家ならラファエロが好きだ。音楽はハウスミュージックを好んでよく聴いている。ホラーは苦手だ。アクション映画は好きだ。

 だけど、こういった趣味や嗜好は晴陽自身が好き嫌いを判断しているといえるのだろうか? 

 凌空や蓮の言葉を真に受けていると思われたくないのに、晴陽は自分が菫の意思に沿った行動をしているだけではないだろうかと、強い不安に駆られてしまった。

 自分一人で考え込んでいては精神的に参ってしまいそうだ。晴陽は、第三者の意見を求めることに決めた。
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