10 / 11
♦ 10
しおりを挟む
鷹は低空を飛んでいる雀に気がつきました。鷹は辺りを警戒するように頭を動かします。単独で動いていることに疑問を感じました。ですが、捕獲し損ねてちょうどイライラしていた鷹は、瞳を鋭くさせると、体を傾けて旋回し、少しずつ下降を始めました。
音を立てず、死角から近づくことで、気づかれずに捕獲できるはずでした。獲れると確信した時、急にハクの飛行速度が上がりました。鷹は逃げられまいと追いかけます。ハクは後ろを気にしながら必死に羽を動かします。二羽の鷹は釣られてくれたようです。
ハクには考えがありました。ハクはどんどん建物の密集した地帯に逃げていきます。電線を潜り、家が建ち並ぶ道へ入っていくハク。二羽の鷹も続いて後方につけます。色とりどりの車や傘を差す人たちのすぐ上を目にも止まらぬ速さで翔けていくと、数々の水晶が彼らを捉えようとその瞳を向けるのです。
鷹はハクの飛行軌道に驚きました。人の生活圏に近いところを選んで飛んでいるとしか考えられないルートだったのです。時によく見かける車の高さスレスレを飛んでいました。そんな車より大きい車だって通るというのに。最悪、ぶつかってもおかしくありません。前を飛ぶ雀は常軌を逸していると言わざるを得ませんでした。
しかし、徐々にハクとの距離は近づいていました。鷹の懸念する通り、ハクは出会いがしらにトラックにぶつかりそうになって蛇行したり、道行く人々の吹き上がる喚声に飛び退いて速度を落としたりしていたのです。鷹はそれらの障害に動じず、ハクから目を離しません。離せるわけがありません。一羽の鷹は、ハクのすぐ後ろまで迫っていました。雀と鷹。速さで勝てるはずがありません。鷹は体勢を変え、爪を立てました。
ハクは背中を刺す激痛を感じました。ハクはバランスを崩し、ふらついて電柱にぶつかりそうになるも、痛みをこらえて立て直します。このまま広い道で勝負するのは難しそうです。
ハクは真新しい建物と建物の間に入りました。鷹は吸い込まれるように入っていったハクを追いかけます。建物の横から裏へ。出窓の下を潜り、上昇していったりと、複雑な動きをするハク。怪我を負ったにもかかわらず、ハクの速度が落ちる気配はありません。
まず鳥類が飛ぶことの少ない飛行ルートは、どんな鳥も不慣れなルートです。まして、最高速度で飛ぼうとするハクの動きは、普通ではありませんでした。
入り組んだ隙間を抜ける遊び。狭い立体空間をどれだけ速く飛べるか。前の群れで流行った子供の遊びでした。飛行アスレチックとでも呼びましょうか。
普段から雀は外敵への警戒を常としています。子供たちに自由に空を翔ける時間は早々にありません。唯一、街中の細い路地で行われるタイムアタックは、子供雀が時間を忘れて遊べる、自由を感じる瞬間でした。
もう彼らと遊ぶことはないかもしれません。それでも、ハクは忘れないでしょう。彼らと過ごした大切な時間を。貰ったやさしさと強さを。過去を抱いて、ハクは羽ばたいていくのです。目まぐるしく障害が差し迫ろうと、ハクは止まることなく前へ飛びます。
鷹は立て続けに立ちはだかってくる障害に苦戦し、なかなかハクに追いつけません。避けることに精いっぱいで、苦しい体勢になってしまうこともありました。雀に距離を離されていくのを眼前に突きつけられた鷹は、ますます苛立っていました。
速さで負けるなんて考えたことがありませんでした。こんなことでは、他の鷹にバカにされてしまいます。それは鷹のプライドが許しません。何がなんでも捕らえなければと、力が入ってしまったのです。
鷹が障壁を避けてすぐ、突き出した壁が突然鷹の目に入ってきました。鷹の死角に隠れていた出っ張る壁に気づけず、速度を上げ過ぎた鷹はおもいっきりぶつかってしまいました。
音を立てず、死角から近づくことで、気づかれずに捕獲できるはずでした。獲れると確信した時、急にハクの飛行速度が上がりました。鷹は逃げられまいと追いかけます。ハクは後ろを気にしながら必死に羽を動かします。二羽の鷹は釣られてくれたようです。
ハクには考えがありました。ハクはどんどん建物の密集した地帯に逃げていきます。電線を潜り、家が建ち並ぶ道へ入っていくハク。二羽の鷹も続いて後方につけます。色とりどりの車や傘を差す人たちのすぐ上を目にも止まらぬ速さで翔けていくと、数々の水晶が彼らを捉えようとその瞳を向けるのです。
鷹はハクの飛行軌道に驚きました。人の生活圏に近いところを選んで飛んでいるとしか考えられないルートだったのです。時によく見かける車の高さスレスレを飛んでいました。そんな車より大きい車だって通るというのに。最悪、ぶつかってもおかしくありません。前を飛ぶ雀は常軌を逸していると言わざるを得ませんでした。
しかし、徐々にハクとの距離は近づいていました。鷹の懸念する通り、ハクは出会いがしらにトラックにぶつかりそうになって蛇行したり、道行く人々の吹き上がる喚声に飛び退いて速度を落としたりしていたのです。鷹はそれらの障害に動じず、ハクから目を離しません。離せるわけがありません。一羽の鷹は、ハクのすぐ後ろまで迫っていました。雀と鷹。速さで勝てるはずがありません。鷹は体勢を変え、爪を立てました。
ハクは背中を刺す激痛を感じました。ハクはバランスを崩し、ふらついて電柱にぶつかりそうになるも、痛みをこらえて立て直します。このまま広い道で勝負するのは難しそうです。
ハクは真新しい建物と建物の間に入りました。鷹は吸い込まれるように入っていったハクを追いかけます。建物の横から裏へ。出窓の下を潜り、上昇していったりと、複雑な動きをするハク。怪我を負ったにもかかわらず、ハクの速度が落ちる気配はありません。
まず鳥類が飛ぶことの少ない飛行ルートは、どんな鳥も不慣れなルートです。まして、最高速度で飛ぼうとするハクの動きは、普通ではありませんでした。
入り組んだ隙間を抜ける遊び。狭い立体空間をどれだけ速く飛べるか。前の群れで流行った子供の遊びでした。飛行アスレチックとでも呼びましょうか。
普段から雀は外敵への警戒を常としています。子供たちに自由に空を翔ける時間は早々にありません。唯一、街中の細い路地で行われるタイムアタックは、子供雀が時間を忘れて遊べる、自由を感じる瞬間でした。
もう彼らと遊ぶことはないかもしれません。それでも、ハクは忘れないでしょう。彼らと過ごした大切な時間を。貰ったやさしさと強さを。過去を抱いて、ハクは羽ばたいていくのです。目まぐるしく障害が差し迫ろうと、ハクは止まることなく前へ飛びます。
鷹は立て続けに立ちはだかってくる障害に苦戦し、なかなかハクに追いつけません。避けることに精いっぱいで、苦しい体勢になってしまうこともありました。雀に距離を離されていくのを眼前に突きつけられた鷹は、ますます苛立っていました。
速さで負けるなんて考えたことがありませんでした。こんなことでは、他の鷹にバカにされてしまいます。それは鷹のプライドが許しません。何がなんでも捕らえなければと、力が入ってしまったのです。
鷹が障壁を避けてすぐ、突き出した壁が突然鷹の目に入ってきました。鷹の死角に隠れていた出っ張る壁に気づけず、速度を上げ過ぎた鷹はおもいっきりぶつかってしまいました。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
湖の民
影燈
児童書・童話
沼無国(ぬまぬこ)の統治下にある、儺楼湖(なろこ)の里。
そこに暮らす令は寺子屋に通う12歳の男の子。
優しい先生や友だちに囲まれ、楽しい日々を送っていた。
だがそんなある日。
里に、伝染病が発生、里は封鎖されてしまい、母も病にかかってしまう。
母を助けるため、幻の薬草を探しにいく令だったが――
ちいさな哲学者
雨宮大智
児童書・童話
ユリはシングルマザー。十才の娘「マイ」と共に、ふたりの世界を組み上げていく。ある時はブランコに乗って。またある時は車の助手席で。ユリには「ちいさな哲学者」のマイが話す言葉が、この世界を生み出してゆくような気さえしてくるのだった⎯⎯。
【旧筆名、多梨枝伸時代の作品】
賢二と宙
雨宮大智
児童書・童話
中学校3年生の宙(そら)は、小学校6年生の弟の賢二と夜空を見上げた⎯⎯。そこにあるのは、未だ星座として認識されていない星たちだった。ふたりの対話が、物語の星座を作り上げてゆく。流れ星を見た賢二はいう。「願い事を三回言うなんて、出来ないよ」兄の宙が答えた。「いつでもそうなれるように、準備しておけってことさ」。
【旧筆名、多梨枝伸時代の作品】
はっぱのないき
幻中六花
児童書・童話
ぼくが友達を作らない理由を教えてあげる。
公園でいつも子供達を見守っている大きな木と、ぼくだけの秘密。
この作品は、『カクヨム』『小説家になろう』にも掲載しています。
おっとりドンの童歌
花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。
意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。
「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。
なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。
「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。
その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。
道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。
その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。
みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。
ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。
ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。
ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる