踊り雀

國灯闇一

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 鷹は低空を飛んでいる雀に気がつきました。鷹は辺りを警戒するように頭を動かします。単独で動いていることに疑問を感じました。ですが、捕獲し損ねてちょうどイライラしていた鷹は、瞳を鋭くさせると、体を傾けて旋回せんかいし、少しずつ下降を始めました。
 音を立てず、死角から近づくことで、気づかれずに捕獲できるはずでした。獲れると確信した時、急にハクの飛行速度が上がりました。鷹は逃げられまいと追いかけます。ハクは後ろを気にしながら必死に羽を動かします。二羽の鷹は釣られてくれたようです。

 ハクには考えがありました。ハクはどんどん建物の密集した地帯に逃げていきます。電線をくぐり、家が建ち並ぶ道へ入っていくハク。二羽の鷹も続いて後方につけます。色とりどりの車や傘を差す人たちのすぐ上を目にも止まらぬ速さで翔けていくと、数々の水晶が彼らを捉えようとその瞳を向けるのです。
 鷹はハクの飛行軌道に驚きました。人の生活圏に近いところを選んで飛んでいるとしか考えられないルートだったのです。時によく見かける車の高さスレスレを飛んでいました。そんな車より大きい車だって通るというのに。最悪、ぶつかってもおかしくありません。前を飛ぶ雀は常軌を逸していると言わざるを得ませんでした。
 しかし、徐々にハクとの距離は近づいていました。鷹の懸念する通り、ハクは出会いがしらにトラックにぶつかりそうになって蛇行したり、道行く人々の吹き上がる喚声かんせいに飛び退いて速度を落としたりしていたのです。鷹はそれらの障害に動じず、ハクから目を離しません。離せるわけがありません。一羽の鷹は、ハクのすぐ後ろまで迫っていました。雀と鷹。速さで勝てるはずがありません。鷹は体勢を変え、爪を立てました。
 ハクは背中を刺す激痛を感じました。ハクはバランスを崩し、ふらついて電柱にぶつかりそうになるも、痛みをこらえて立て直します。このまま広い道で勝負するのは難しそうです。

 ハクは真新しい建物と建物の間に入りました。鷹は吸い込まれるように入っていったハクを追いかけます。建物の横から裏へ。出窓の下をくぐり、上昇していったりと、複雑な動きをするハク。怪我を負ったにもかかわらず、ハクの速度が落ちる気配はありません。
 まず鳥類が飛ぶことの少ない飛行ルートは、どんな鳥も不慣れなルートです。まして、最高速度で飛ぼうとするハクの動きは、普通ではありませんでした。
 入り組んだ隙間を抜ける遊び。狭い立体空間をどれだけ速く飛べるか。前の群れで流行った子供の遊びでした。飛行アスレチックとでも呼びましょうか。

 普段から雀は外敵への警戒を常としています。子供たちに自由に空を翔ける時間は早々にありません。唯一、街中の細い路地で行われるタイムアタックは、子供雀が時間を忘れて遊べる、自由を感じる瞬間でした。
 もう彼らと遊ぶことはないかもしれません。それでも、ハクは忘れないでしょう。彼らと過ごした大切な時間を。貰ったやさしさと強さを。過去を抱いて、ハクは羽ばたいていくのです。目まぐるしく障害が差し迫ろうと、ハクは止まることなく前へ飛びます。
 鷹は立て続けに立ちはだかってくる障害に苦戦し、なかなかハクに追いつけません。避けることに精いっぱいで、苦しい体勢になってしまうこともありました。雀に距離を離されていくのを眼前に突きつけられた鷹は、ますます苛立っていました。
 速さで負けるなんて考えたことがありませんでした。こんなことでは、他の鷹にバカにされてしまいます。それは鷹のプライドが許しません。何がなんでも捕らえなければと、力が入ってしまったのです。
 鷹が障壁を避けてすぐ、突き出した壁が突然鷹の目に入ってきました。鷹の死角に隠れていた出っ張る壁に気づけず、速度を上げ過ぎた鷹はおもいっきりぶつかってしまいました。
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