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Ⅱ章――――俺たちの夏がやってきた
06 高校生も忙しい
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夏休みは間近。俄然、浮き足立っている。みんな夏休みの予定で頭いっぱいらしい。そりゃ俺だって高校の夏休みを楽しみたい。でも俺は俺なりに夏を満喫しようと思う。
「ええええええええーっ! 海洋美化活動団に入ったあぁっ⁉」
朝川の驚嘆が俺の鼓膜を刺した。おかげで耳鳴りがする。
「近くでバカデカい声出すな」
「す、すまん……」
「どうしたってんだよお前。いつからそんな真面目君になっちまったんだ⁉」
ヤブの言い草に少々引っかかる。
「お前、俺をどんな風に見てやがんだ」
こいつらのうろたえっぷりときたら情けねえ。
購買に隣接するテラス。昼休憩時じゃ席の取り合いにもなる。注目の的になるためにいるんじゃねえっての。
「別に真面目ぶってるわけじゃねえよ。今までやってこなかったことをやってみるのもいい経験になるんじゃねえかなって思っただけだ」
「じゃ、じゃあ、ビキニの姉ちゃんとのビーチバカンスも来ねえのかよ」
朝川は溶けた雪だるまみたいに残念そうにする。
不埒なヤツらだ……。呆れるほど頭ん中バカンスフィーバーしてやがる。
「目の保養なんていつでもできるだろ」
「いつでもじゃねえ!」
「夏限定だろうが!」
「みんな大好き期間限定だコラ!」
こういう時だけ結束しやがる。
「全然行けねえわけじゃねえって。時間ある時は呼んでくれりゃ行くよ」
「そっか、そうだよな! お前も男だ!」
ヤブはギャハハハッと笑いながら俺の肩を叩いてくる。ヤブの肩パンを払いのける。
「でもよ。何やるんだ?」
村島はかじったパンを噛みながら聞く。
「ゴミ拾いとか……ゴミ拾いとか」
「ゴミ拾いだけかよ」
朝川は気の抜けた声でツッコんでくる。
「いや、他にもあると思うけど、まだ入ったばっかだしよく知らねぇんだって。でも……」
俺は勝気に微笑む。
「ダイビングライセンスを取ろうと思う」
「はい……?」
俺の宣言に、三人は唖然としてしまった。
俺は気の抜けた声で帰ったことを告げた。玄関からキッチンに向かい、冷蔵庫を開ける。
ダイニングの戸が開き、はたと目が合う。
「おかえりー」
ヘッドバンドで髪を留めており、そしてTシャツにショートパンツ。だらけにだらけたスタイルで現れた我が妹、藍原穂鷺美だ。
「お前早いな」
俺は氷をたらふく入れたコップにパックの口を傾ける。
「趣味休暇」
「ふーん」
穂鷺美が氷を二つ入れたガラスコップを俺の前に差し出した。俺は注文通りコップにピーチジュースを注ぐ。
冷蔵庫にパックをしまっていると、穂鷺美がジュースを口に含んだまま息を呑むように驚きを放った。
「……えっ、ちょっと待って」
ウキウキした様子でテーブルに置かれた俺のリュックに近づく。狙いはリュックじゃない。その横にある袋だろう。横長の袋に特徴的なマークが入っていた。
イルカが海面から飛び出した絵が群青一色で描かれている。島にいれば、たまに出くわす絵柄と青い袋。つまり、それをどこから手に入れ、中には何が入っているかも簡単に予想できてしまう。
「お兄ちゃんマジィ⁉」
「なんだよ!」
妹の口角の上がり方といい、小馬鹿にしたような口調といい、ムカつく。
「だって、お兄ちゃんがダイビングライセンスとかあり得ないっしょ!」
「うっせぇなぁ! 俺が何をやろうが勝手だろうが!」
「いやいやいやいやいや! 妹としては心配になるでしょ。勉強のべの字も頭の片隅にないプー太郎のお兄ちゃんが、絶対に必要ってわけじゃない資格を取るために教本を持って帰ってきてるのを見た日には、あぁー遂にお兄ちゃんもこの島の熱気にやられて人格崩壊したんじゃないかって」
ダメダメっぷりが脚色されてんじゃねぇか!
「ほっとけ。穂鷺美に心配されるほどじゃねえし、俺だってやる時はやるんだよ」
「果たして合格できるんですかね~~」
穂鷺美は卑しい笑みを浮かべて細めた目を向ける。
「吠え面かかせてやるからな!」
そうして、ダイビングライセンスの取得に向けた生活が始まった。
澪さんから聞いた話によると、筆記試験と実技講習、実習。この三つのセクションにわかれるそうだ。まずは筆記試験に合格できなければ話にならない。
観光客向けに四日間で取れるコースもあるようだが、俺は学校もあるので、時間をかけてやっていくことにした。
教材またはアプリで学び、ダイビングスクールに学科講習の予約を入れておき、当日わからないところを講師に聞く形になる。基本自習でいいらしく、自分のペースで進められる。勉強が苦手な俺にはありがたいコースだ。
だが、俺は肝心なことをすっかり忘れていた。
もうすぐ期末テストがあることを。
勉強するルーティーンなんて俺にあるわけもない。そりゃ普通の高校に受かるくらいの勉強はしているが、ゆうてたかが知れてる。……まあ、ぐだぐだ言ってても仕方ない。とにかくやるしかなくなったのだ。
「ええええええええーっ! 海洋美化活動団に入ったあぁっ⁉」
朝川の驚嘆が俺の鼓膜を刺した。おかげで耳鳴りがする。
「近くでバカデカい声出すな」
「す、すまん……」
「どうしたってんだよお前。いつからそんな真面目君になっちまったんだ⁉」
ヤブの言い草に少々引っかかる。
「お前、俺をどんな風に見てやがんだ」
こいつらのうろたえっぷりときたら情けねえ。
購買に隣接するテラス。昼休憩時じゃ席の取り合いにもなる。注目の的になるためにいるんじゃねえっての。
「別に真面目ぶってるわけじゃねえよ。今までやってこなかったことをやってみるのもいい経験になるんじゃねえかなって思っただけだ」
「じゃ、じゃあ、ビキニの姉ちゃんとのビーチバカンスも来ねえのかよ」
朝川は溶けた雪だるまみたいに残念そうにする。
不埒なヤツらだ……。呆れるほど頭ん中バカンスフィーバーしてやがる。
「目の保養なんていつでもできるだろ」
「いつでもじゃねえ!」
「夏限定だろうが!」
「みんな大好き期間限定だコラ!」
こういう時だけ結束しやがる。
「全然行けねえわけじゃねえって。時間ある時は呼んでくれりゃ行くよ」
「そっか、そうだよな! お前も男だ!」
ヤブはギャハハハッと笑いながら俺の肩を叩いてくる。ヤブの肩パンを払いのける。
「でもよ。何やるんだ?」
村島はかじったパンを噛みながら聞く。
「ゴミ拾いとか……ゴミ拾いとか」
「ゴミ拾いだけかよ」
朝川は気の抜けた声でツッコんでくる。
「いや、他にもあると思うけど、まだ入ったばっかだしよく知らねぇんだって。でも……」
俺は勝気に微笑む。
「ダイビングライセンスを取ろうと思う」
「はい……?」
俺の宣言に、三人は唖然としてしまった。
俺は気の抜けた声で帰ったことを告げた。玄関からキッチンに向かい、冷蔵庫を開ける。
ダイニングの戸が開き、はたと目が合う。
「おかえりー」
ヘッドバンドで髪を留めており、そしてTシャツにショートパンツ。だらけにだらけたスタイルで現れた我が妹、藍原穂鷺美だ。
「お前早いな」
俺は氷をたらふく入れたコップにパックの口を傾ける。
「趣味休暇」
「ふーん」
穂鷺美が氷を二つ入れたガラスコップを俺の前に差し出した。俺は注文通りコップにピーチジュースを注ぐ。
冷蔵庫にパックをしまっていると、穂鷺美がジュースを口に含んだまま息を呑むように驚きを放った。
「……えっ、ちょっと待って」
ウキウキした様子でテーブルに置かれた俺のリュックに近づく。狙いはリュックじゃない。その横にある袋だろう。横長の袋に特徴的なマークが入っていた。
イルカが海面から飛び出した絵が群青一色で描かれている。島にいれば、たまに出くわす絵柄と青い袋。つまり、それをどこから手に入れ、中には何が入っているかも簡単に予想できてしまう。
「お兄ちゃんマジィ⁉」
「なんだよ!」
妹の口角の上がり方といい、小馬鹿にしたような口調といい、ムカつく。
「だって、お兄ちゃんがダイビングライセンスとかあり得ないっしょ!」
「うっせぇなぁ! 俺が何をやろうが勝手だろうが!」
「いやいやいやいやいや! 妹としては心配になるでしょ。勉強のべの字も頭の片隅にないプー太郎のお兄ちゃんが、絶対に必要ってわけじゃない資格を取るために教本を持って帰ってきてるのを見た日には、あぁー遂にお兄ちゃんもこの島の熱気にやられて人格崩壊したんじゃないかって」
ダメダメっぷりが脚色されてんじゃねぇか!
「ほっとけ。穂鷺美に心配されるほどじゃねえし、俺だってやる時はやるんだよ」
「果たして合格できるんですかね~~」
穂鷺美は卑しい笑みを浮かべて細めた目を向ける。
「吠え面かかせてやるからな!」
そうして、ダイビングライセンスの取得に向けた生活が始まった。
澪さんから聞いた話によると、筆記試験と実技講習、実習。この三つのセクションにわかれるそうだ。まずは筆記試験に合格できなければ話にならない。
観光客向けに四日間で取れるコースもあるようだが、俺は学校もあるので、時間をかけてやっていくことにした。
教材またはアプリで学び、ダイビングスクールに学科講習の予約を入れておき、当日わからないところを講師に聞く形になる。基本自習でいいらしく、自分のペースで進められる。勉強が苦手な俺にはありがたいコースだ。
だが、俺は肝心なことをすっかり忘れていた。
もうすぐ期末テストがあることを。
勉強するルーティーンなんて俺にあるわけもない。そりゃ普通の高校に受かるくらいの勉強はしているが、ゆうてたかが知れてる。……まあ、ぐだぐだ言ってても仕方ない。とにかくやるしかなくなったのだ。
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