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Ⅰ章――――海の伝説
03 おじさんとの縁
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俺は何を言われるのかと身構えていた。俺の父ちゃんと同じくらいだろうか。たぶん四、五十代くらい。オレンジに染めた短い髪にアロハシャツに半ズボン。
観光客か? 俺が思考スロットを回していると、男性は厳しい顔を緩ませ、にっこりとさせた。
「ふはははっ、驚いたかい?」
「……はい?」
男性は歩み寄り、一瞬視線を外した。たぶん折谷のバッグを見つけたんだろう。怒られる?
「君、樫崎高校の子だね?」
「は、はい……」
「もしかして、折谷君の友達?」
「え、えっとおー……」
この人、折谷の知り合いっぽいし、下手なこと言えねえ……。
「まあいいや。とにかく、ここは関係者以外立ち入り禁止だ。看板、見えてたろ?」
「すみません……」
俺は頭を下げる。
「じゃ、戻ろうか」
「あ、はい」
俺は一度折谷のバッグに視線を振り、男性の後についていく。
「ここらは隠れた名スポットとか言われるようになって、時々観光客が入っちゃうんだ。一時期人気になりすぎて、もう隠れてないんじゃないかってくらいだったよ」
男性は気さくに話してくるが、先ほど怒られたばかりなのもあって、俺は相づちを打つくらいしかできなかった。
「そんなこともあって、ここらにゴミを捨てていく人が多くなってしまってね。島を上げて対策に乗り出したんだ。看板を立てたり、観光客にパンフを配って注意喚起したりね。それでも知らない人もいる。すべての人に行き届かないこともあるからね。だからこうして、見回りをしてるんだ」
男性は優しい顔をこちらに向けてくる。
「あ、そうだ。僕は浮島慎。よろしくね。よければ、君の名前も教えてくれるかな?」
俺は戻ってきた砂浜に視線を落とす。どうにかごまかすことはできないかと考えたが、そう簡単に思いつくはずもなかった。
「あ、別に君のご両親に何か言おうとか思ってないから。ただの個人的な興味だと受け取ってくれ」
俺が懸念していたことを察してくれたらしい。
「あ、藍原希央です……」
「藍原、ああ、藍原さんの息子さんか」
「え、父ちゃんとも、知り合いなんですか?」
「たまにばったりとね。店で一緒に飲むこともある」
「そ、そうなんすね……」
また酔って脱いでなきゃいいが……。
「君のお父さんは豪快な人だね。最近見なくなったタイプだよ」
「あー……まあ、豪快と言いますか、奇人と言いますか」
父ちゃんのことを他人に話すのは忍びない。変わり種な父ちゃんの行動に振り回されてきた過去を顧みて、ブルーな気持ちをため息に包んで浜辺に落とす。
「はははっ、色々と悩み多きお年頃ってとこかな。誰もが通る道だ」
「浮島さん」
「ん?」
「折谷とも知り合いなんですか?」
「ああ、そうだよ」
「あそこ、立ち入り禁止なんですよね? 折谷、入ってましたけど……」
「折谷君は関係者だからね。正式な許可で入ってるんだ」
「関係者?」
「彼女はうちのチームのメンバーだからね」
チームって、なんかのスポーツか? サーフィンじゃないだろうしな。
頭をひねってもしっくりこない。すると、浮島さんが立ち止まった。
「そうだ。君もうちに入ってみるかい?」
振り返るなり、いきなり勧誘してきた。
「え」
「あぁ、ごめん。興奮してしまって。まだ詳しい話もしてないのに。ひとまず一緒に来てくれないか? 話を聞いてくれるだけでもいいから」
ちょっとクラスメイトのことを軽く知ってみようと思っただけなのに、なぜこうなったのだろうか。クラスメイトの着替えを覗いた罰なのだとしたら、俺は償いとして受けるべきなのかもしれない。
オジサンの優しい圧力の前に、妙な罪悪感をくすぶらせた俺は、嫌な汗をかいてぎこちなく微笑むしかなかった。
観光客か? 俺が思考スロットを回していると、男性は厳しい顔を緩ませ、にっこりとさせた。
「ふはははっ、驚いたかい?」
「……はい?」
男性は歩み寄り、一瞬視線を外した。たぶん折谷のバッグを見つけたんだろう。怒られる?
「君、樫崎高校の子だね?」
「は、はい……」
「もしかして、折谷君の友達?」
「え、えっとおー……」
この人、折谷の知り合いっぽいし、下手なこと言えねえ……。
「まあいいや。とにかく、ここは関係者以外立ち入り禁止だ。看板、見えてたろ?」
「すみません……」
俺は頭を下げる。
「じゃ、戻ろうか」
「あ、はい」
俺は一度折谷のバッグに視線を振り、男性の後についていく。
「ここらは隠れた名スポットとか言われるようになって、時々観光客が入っちゃうんだ。一時期人気になりすぎて、もう隠れてないんじゃないかってくらいだったよ」
男性は気さくに話してくるが、先ほど怒られたばかりなのもあって、俺は相づちを打つくらいしかできなかった。
「そんなこともあって、ここらにゴミを捨てていく人が多くなってしまってね。島を上げて対策に乗り出したんだ。看板を立てたり、観光客にパンフを配って注意喚起したりね。それでも知らない人もいる。すべての人に行き届かないこともあるからね。だからこうして、見回りをしてるんだ」
男性は優しい顔をこちらに向けてくる。
「あ、そうだ。僕は浮島慎。よろしくね。よければ、君の名前も教えてくれるかな?」
俺は戻ってきた砂浜に視線を落とす。どうにかごまかすことはできないかと考えたが、そう簡単に思いつくはずもなかった。
「あ、別に君のご両親に何か言おうとか思ってないから。ただの個人的な興味だと受け取ってくれ」
俺が懸念していたことを察してくれたらしい。
「あ、藍原希央です……」
「藍原、ああ、藍原さんの息子さんか」
「え、父ちゃんとも、知り合いなんですか?」
「たまにばったりとね。店で一緒に飲むこともある」
「そ、そうなんすね……」
また酔って脱いでなきゃいいが……。
「君のお父さんは豪快な人だね。最近見なくなったタイプだよ」
「あー……まあ、豪快と言いますか、奇人と言いますか」
父ちゃんのことを他人に話すのは忍びない。変わり種な父ちゃんの行動に振り回されてきた過去を顧みて、ブルーな気持ちをため息に包んで浜辺に落とす。
「はははっ、色々と悩み多きお年頃ってとこかな。誰もが通る道だ」
「浮島さん」
「ん?」
「折谷とも知り合いなんですか?」
「ああ、そうだよ」
「あそこ、立ち入り禁止なんですよね? 折谷、入ってましたけど……」
「折谷君は関係者だからね。正式な許可で入ってるんだ」
「関係者?」
「彼女はうちのチームのメンバーだからね」
チームって、なんかのスポーツか? サーフィンじゃないだろうしな。
頭をひねってもしっくりこない。すると、浮島さんが立ち止まった。
「そうだ。君もうちに入ってみるかい?」
振り返るなり、いきなり勧誘してきた。
「え」
「あぁ、ごめん。興奮してしまって。まだ詳しい話もしてないのに。ひとまず一緒に来てくれないか? 話を聞いてくれるだけでもいいから」
ちょっとクラスメイトのことを軽く知ってみようと思っただけなのに、なぜこうなったのだろうか。クラスメイトの着替えを覗いた罰なのだとしたら、俺は償いとして受けるべきなのかもしれない。
オジサンの優しい圧力の前に、妙な罪悪感をくすぶらせた俺は、嫌な汗をかいてぎこちなく微笑むしかなかった。
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