マリンフェアリー

國灯闇一

文字の大きさ
上 下
3 / 29
Ⅰ章――――海の伝説

03  おじさんとの縁

しおりを挟む
 俺は何を言われるのかと身構えていた。俺の父ちゃんと同じくらいだろうか。たぶん四、五十代くらい。オレンジに染めた短い髪にアロハシャツに半ズボン。
 観光客か? 俺が思考スロットを回していると、男性は厳しい顔を緩ませ、にっこりとさせた。
「ふはははっ、驚いたかい?」
「……はい?」
 男性は歩み寄り、一瞬視線を外した。たぶん折谷のバッグを見つけたんだろう。怒られる?

「君、樫崎かしざき高校の子だね?」
「は、はい……」
「もしかして、折谷君の友達?」
「え、えっとおー……」
 この人、折谷の知り合いっぽいし、下手なこと言えねえ……。

「まあいいや。とにかく、ここは関係者以外立ち入り禁止だ。看板、見えてたろ?」
「すみません……」
 俺は頭を下げる。
「じゃ、戻ろうか」
「あ、はい」
 俺は一度折谷のバッグに視線を振り、男性の後についていく。
「ここらは隠れた名スポットとか言われるようになって、時々観光客が入っちゃうんだ。一時期人気になりすぎて、もう隠れてないんじゃないかってくらいだったよ」
 男性は気さくに話してくるが、先ほど怒られたばかりなのもあって、俺は相づちを打つくらいしかできなかった。

「そんなこともあって、ここらにゴミを捨てていく人が多くなってしまってね。島を上げて対策に乗り出したんだ。看板を立てたり、観光客にパンフを配って注意喚起したりね。それでも知らない人もいる。すべての人に行き届かないこともあるからね。だからこうして、見回りをしてるんだ」
 男性は優しい顔をこちらに向けてくる。
「あ、そうだ。僕は浮島うきしままこと。よろしくね。よければ、君の名前も教えてくれるかな?」

 俺は戻ってきた砂浜に視線を落とす。どうにかごまかすことはできないかと考えたが、そう簡単に思いつくはずもなかった。
「あ、別に君のご両親に何か言おうとか思ってないから。ただの個人的な興味だと受け取ってくれ」
 俺が懸念していたことを察してくれたらしい。

「あ、藍原あいはらです……」
「藍原、ああ、藍原さんの息子さんか」
「え、父ちゃんとも、知り合いなんですか?」
「たまにばったりとね。店で一緒に飲むこともある」
「そ、そうなんすね……」
 また酔って脱いでなきゃいいが……。

「君のお父さんは豪快な人だね。最近見なくなったタイプだよ」
「あー……まあ、豪快と言いますか、奇人と言いますか」
 父ちゃんのことを他人に話すのは忍びない。変わり種な父ちゃんの行動に振り回されてきた過去をかえりみて、ブルーな気持ちをため息に包んで浜辺に落とす。
「はははっ、色々と悩み多きお年頃ってとこかな。誰もが通る道だ」
「浮島さん」
「ん?」
「折谷とも知り合いなんですか?」
「ああ、そうだよ」

「あそこ、立ち入り禁止なんですよね? 折谷、入ってましたけど……」
「折谷君は関係者だからね。正式な許可で入ってるんだ」
「関係者?」
「彼女はうちのチームのメンバーだからね」
 チームって、なんかのスポーツか? サーフィンじゃないだろうしな。
 頭をひねってもしっくりこない。すると、浮島さんが立ち止まった。

「そうだ。君もうちに入ってみるかい?」
 振り返るなり、いきなり勧誘してきた。
「え」
「あぁ、ごめん。興奮してしまって。まだ詳しい話もしてないのに。ひとまず一緒に来てくれないか? 話を聞いてくれるだけでもいいから」

 ちょっとクラスメイトのことを軽く知ってみようと思っただけなのに、なぜこうなったのだろうか。クラスメイトの着替えを覗いた罰なのだとしたら、俺は償いとして受けるべきなのかもしれない。
 オジサンの優しい圧力の前に、妙な罪悪感をくすぶらせた俺は、嫌な汗をかいてぎこちなく微笑むしかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

スイミングスクールは学校じゃないので勃起してもセーフ

九拾七
青春
今から20年前、性に目覚めた少年の体験記。 行為はありません。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

大好きだ!イケメンなのに彼女がいない弟が母親を抱く姿を目撃する私に起こる身の危険

白崎アイド
大衆娯楽
1差年下の弟はイケメンなのに、彼女ができたためしがない。 まさか、男にしか興味がないのかと思ったら、実の母親を抱く姿を見てしまった。 ショックと恐ろしさで私は逃げるようにして部屋に駆け込む。 すると、部屋に弟が入ってきて・・・

スカートの中、…見たいの?

サドラ
大衆娯楽
どうしてこうなったのかは、説明を省かせていただきます。文脈とかも適当です。官能の表現に身を委ねました。 「僕」と「彼女」が二人っきりでいる。僕の指は彼女をなぞり始め…

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

通り道のお仕置き

おしり丸
青春
お尻真っ赤

処理中です...