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外来心療3
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他にも有名な心霊スポットと言われる場所をあたりました。良さそうな場所はあったんですが、ホラー映画を撮る舞台として、あの館が一番だろうという話でまとまりました。
話を作り込んで、配役も済んでと、僕らの映画作りは進んでいきました。
その日は、脚本を担当していた同学年の友人、古藤と詰めの作業をするために映像を確認しながら細かい部分を確認し合っていました。
そしたら、古藤が映像を止めてくれと、突然言い始めたんです。巻き戻してほしいと言うので、僕は言う通りにしたんです。改めて再生しました。
僕らが建物内を探索しているところでした。二階の寝室を調べて、廊下に出ようとしたところで、古藤が停止の合図を出したんです。僕らが一斉に寝室を出ようとして背を向けた寝室に、人影がはっきりと映っていました。黒い女です。長い髪の。全身が黒かったんです。
凄い映画になるって、友人は興奮していました。とてもじゃないけど、僕は喜ぶ気にはなれませんでした。でも、僕は意地を張ってしまったんです。僕みたいに怖がっていたのは、今年入ったばかりの新入生くらいだったので。周りの雰囲気もあって言いだせず、撮影が始まってしまいました。
僕はカメラを担当してました。あの館で撮影をすれば、あの女を見てしまう。どうしても不安がよぎりました。
撮影は思いのほか順調に進みました。裏庭にテントを張って、火を起こして食事をして、談笑して……。キャンプ気分を味わっていたんです。撮影が進んでいくうちに、僕はあの女のことを忘れていました。
三日目のことでした。照明を担当する後輩の男子部員、市富の様子がおかしかったんです。
撮影中に独り言をブツブツと言ったり、二階の窓をずっと見つめていたり。
周りも気にかけていたんですが、予定を組んでいたこともあって、撮影は続行されました。今思えば、強引でも撮影を中断させるべきでした。
撮影期間も残るはあと一日でした。最初は何か起こるんじゃないかってビクビクしていたんですが、三日間何もなかったので、全部撮り終えて帰ることができると思いました。
主人公の女性が突然いなくなった恋人を追って、館の中を探すシーンを撮っていた時でした。
主人公が一階を探し回っていると、二階の客室のドアが開く音が鳴る。その音を聞いて主人公が二階へ足を運んでいくと、変わり果てた恋人の姿を目撃する。そういう手順で撮ろうとしていました。
衣装担当の女の子、猪方さんにドアを開けてもらうことになっていたんですが、ドアの音が聞こえてこなかったんです。一階から声をかけても返ってこなかったので、一年生が見に行ったんです。
一年生が階段上から顔を覗かせると、猪方さんがどこにもいないと言うんです。心配もあったので一旦撮影を止めて探したんですが、館の中、館周辺、彼女の姿はどこにもなかったんです。
とりあえずそのまま撮影を再開して、無事撮影を終えたんですが、彼女は戻ってきませんでした。さすがにヤバいと思い直した僕らは、警察に行方不明者届を出しました。
それから、僕らの周りで変なことが起こるようになりました。制作室に置かれていたカメラの電源が勝手に入っていたり、部室として使っている三階の教室にいると、外から窓を覗く女を見たって複数の部員が言いだしたり。
僕も内心では、あの館で撮影したことが原因じゃないかと思っていました。でも部員を怖がらせるようなことを言っても、余計不安になるだけだと思って、なんの心配もいらないし、怖かったら誰かと一緒にいれば大丈夫だと、僕ら三年生は後輩に言うようにしていました。
そんなことが起こるようになって数日がたった頃です。撮影中ブツブツ独り言を言っていた後輩の男子部員、市富が大学に来なくなったんです。メールしても返信してこないし、電話も出てくれませんでした。
映研の後輩でもあったので、心配だから一度様子を見に行ってみようって、古藤と一緒に市富の自宅へ向かったんです。
その道中に、遠くを歩く彼を見かけたんです。どこへ行くんだろうと思って、後を追ってみることにしました。すぐに声をかけようと思ったんですが、なんだかおかしかったんです。スコップを一つ持って、夜にどこへ行くかなんて想像もできませんでした。
後をつけていたら、彼を見かけたパトロール中の警察官が呼び留めたんです。でも彼は無視して行こうとしたんです。警官が前に立ち塞がったら、彼はスコップで殴りかかりました。
彼は僕らの目の前で逮捕されました。
ニュースで彼の証言を聞いたんです。他の人からしたら、薬物でもやってる人だと思ってしまうかもしれません。ですが、僕らには彼の言っていることに心当たりがありました。
『あの黒い泥を食べなきゃ。みんな死ぬ』
あの館が関係している。そう思いました。
映研の部員には衝撃的な証言だったみたいでした。六十五人いた部員は、十四人にまで減ってしまいました。
話を作り込んで、配役も済んでと、僕らの映画作りは進んでいきました。
その日は、脚本を担当していた同学年の友人、古藤と詰めの作業をするために映像を確認しながら細かい部分を確認し合っていました。
そしたら、古藤が映像を止めてくれと、突然言い始めたんです。巻き戻してほしいと言うので、僕は言う通りにしたんです。改めて再生しました。
僕らが建物内を探索しているところでした。二階の寝室を調べて、廊下に出ようとしたところで、古藤が停止の合図を出したんです。僕らが一斉に寝室を出ようとして背を向けた寝室に、人影がはっきりと映っていました。黒い女です。長い髪の。全身が黒かったんです。
凄い映画になるって、友人は興奮していました。とてもじゃないけど、僕は喜ぶ気にはなれませんでした。でも、僕は意地を張ってしまったんです。僕みたいに怖がっていたのは、今年入ったばかりの新入生くらいだったので。周りの雰囲気もあって言いだせず、撮影が始まってしまいました。
僕はカメラを担当してました。あの館で撮影をすれば、あの女を見てしまう。どうしても不安がよぎりました。
撮影は思いのほか順調に進みました。裏庭にテントを張って、火を起こして食事をして、談笑して……。キャンプ気分を味わっていたんです。撮影が進んでいくうちに、僕はあの女のことを忘れていました。
三日目のことでした。照明を担当する後輩の男子部員、市富の様子がおかしかったんです。
撮影中に独り言をブツブツと言ったり、二階の窓をずっと見つめていたり。
周りも気にかけていたんですが、予定を組んでいたこともあって、撮影は続行されました。今思えば、強引でも撮影を中断させるべきでした。
撮影期間も残るはあと一日でした。最初は何か起こるんじゃないかってビクビクしていたんですが、三日間何もなかったので、全部撮り終えて帰ることができると思いました。
主人公の女性が突然いなくなった恋人を追って、館の中を探すシーンを撮っていた時でした。
主人公が一階を探し回っていると、二階の客室のドアが開く音が鳴る。その音を聞いて主人公が二階へ足を運んでいくと、変わり果てた恋人の姿を目撃する。そういう手順で撮ろうとしていました。
衣装担当の女の子、猪方さんにドアを開けてもらうことになっていたんですが、ドアの音が聞こえてこなかったんです。一階から声をかけても返ってこなかったので、一年生が見に行ったんです。
一年生が階段上から顔を覗かせると、猪方さんがどこにもいないと言うんです。心配もあったので一旦撮影を止めて探したんですが、館の中、館周辺、彼女の姿はどこにもなかったんです。
とりあえずそのまま撮影を再開して、無事撮影を終えたんですが、彼女は戻ってきませんでした。さすがにヤバいと思い直した僕らは、警察に行方不明者届を出しました。
それから、僕らの周りで変なことが起こるようになりました。制作室に置かれていたカメラの電源が勝手に入っていたり、部室として使っている三階の教室にいると、外から窓を覗く女を見たって複数の部員が言いだしたり。
僕も内心では、あの館で撮影したことが原因じゃないかと思っていました。でも部員を怖がらせるようなことを言っても、余計不安になるだけだと思って、なんの心配もいらないし、怖かったら誰かと一緒にいれば大丈夫だと、僕ら三年生は後輩に言うようにしていました。
そんなことが起こるようになって数日がたった頃です。撮影中ブツブツ独り言を言っていた後輩の男子部員、市富が大学に来なくなったんです。メールしても返信してこないし、電話も出てくれませんでした。
映研の後輩でもあったので、心配だから一度様子を見に行ってみようって、古藤と一緒に市富の自宅へ向かったんです。
その道中に、遠くを歩く彼を見かけたんです。どこへ行くんだろうと思って、後を追ってみることにしました。すぐに声をかけようと思ったんですが、なんだかおかしかったんです。スコップを一つ持って、夜にどこへ行くかなんて想像もできませんでした。
後をつけていたら、彼を見かけたパトロール中の警察官が呼び留めたんです。でも彼は無視して行こうとしたんです。警官が前に立ち塞がったら、彼はスコップで殴りかかりました。
彼は僕らの目の前で逮捕されました。
ニュースで彼の証言を聞いたんです。他の人からしたら、薬物でもやってる人だと思ってしまうかもしれません。ですが、僕らには彼の言っていることに心当たりがありました。
『あの黒い泥を食べなきゃ。みんな死ぬ』
あの館が関係している。そう思いました。
映研の部員には衝撃的な証言だったみたいでした。六十五人いた部員は、十四人にまで減ってしまいました。
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