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4章 獣の共鳴
3dbs-見切り発車
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貝塚と増古は重い足を前に進める。疲れているせいもあるが、若い時とは違うな、としみじみ感じる。黒い革靴は少しずつ土の色に侵食されていく。護身用に銃も携帯し、熊よけの鈴も着けていた。
「貝塚さん、ここです」
白い息を吐きながら増古は注目を促す。貝塚は増古に追いつき、周りを見回す。貝塚の視線が気に留めたのは、黒い汚れの目立つ廃墟。
「アレは?」
貝塚の声が寒さで震えている。
「元は炭鉱に従事していた社員の寮だったようです」
「何で今も残ってるんだ?」
「山の中ですし、買い手もいなかったんでしょう。管理者もペーパーでした」
貝塚は山を登り、廃墟に近づく。増古も貝塚の後を追う。
山の傾斜に立つ建物は所々にヒビがある。空のペットボトル、靴、紐、スーパーやコンビニの袋など、ゴミが傾斜に散乱している。人通りがないと聞いていたが、必ずしもそうではないようだ。
「中を調べますか?」
「ああ」
貝塚と増古は建物を周り、入り口を探った。
蝶番が外れ、ドアが脇に倒れている。入り口を見つけて、中を覗く。広がった空間は暗く、どんよりとした空気が流れていた。増古と貝塚は懐中電灯を取り出し、中を照らしながら入る。
暗い部屋、暗い廊下。床には劣化して剥がれた壁や天井の一部などが落ちていた。そんな中、1つの部屋だけ明るい場所があった。
壁が一部崩壊し、外から丸見えになっている2階の大部屋。外から入り込む自然の光が大部屋に入り込んでいた。
「一応解体しようとしてたんですね」
貝塚と増古は懐中電灯をしまった。大部屋の中央にはランプが床に落ちている。他にあるのは壁の天井の隅に蜘蛛の巣が張られているだけだ。
部屋の中を探索していると、部屋の床の一部が不自然に黒くなっていた。
焦げたような跡。いかにも何か燃やしていたような跡だ。貝塚にはまだ新しい跡に見えた。周りには使われた花火の残骸が落ちている。
「若者が花火をしていたんですかね」
増古は神妙に推測を述べる。
「でもおかしいよな」
「はい。花火をするにしても、何でこんな所でやっていたのか。もっと花火をする場所はあるのに、交通の便も悪い山の中にある廃墟で花火なんて、普通はしません」
「聞き込みしてみるか?」
「そうですね」
貝塚と増古は疲れの残る体を携えて廃墟を出た。
寒い夜、貝塚と増古は和の雰囲気を味わえる飲み屋に来ていた。大きなうちわや置行灯、障子などが点々と飾られていた。増古の行きつけらしく、普段は1人でカウンター席に座るが、今日は個室だ。
今日は特に事件もなく、以前解決した松野家放火殺人事件の書類作成だけで終わり、2人で早帰りした。
2人は早速、レリックが見つけたクーラーボックスの腐臭の正体探しの手がかりを見つけるため、クーラーボックスが捨てられていた山の中に入っていく怪しげな人を見ていないか聞き込みをした。
しかし、大した成果はなく、空振りに終わった。そのうさ晴らしがしたくて、貝塚は「いい飲み屋知らない?」と増古に聞いた結果、この飲み屋にいる。
「お疲れぇ」
「お疲れ様です」
貝塚と増古はグラスに入ったビールを突き合わせ、喉を潤す。
「収穫ありませんでしたね」
「まあ遺体がなきゃこんなもんだろ」
「あの山の中一帯を探すなら、もっと人手が必要ですしね」
「やっぱレリックに頼るしかねぇかもな」
「ただ、焦げの件なら収穫はありましたよ」
「え?」
増古は携帯を取り出して、操作する。少し操作した後、貝塚に携帯画面を見せる。
「動画投稿サイト【パブリックフェイス】にアップされていたんですけど、あの廃墟から煙が上がってるんですよ」
貝塚は老眼気味の目を凝らして動画を見る。
「この動画をアップした人に聞いたら、動画を撮ったのは11月14日だそうです」
「何で知った時に言わねぇんだよ」
「すみません。後でも問題ないと思ったので」
「まあいい。科捜研のワイフに調べてもらってたクーラーボックスは?」
貝塚はふて腐れながら聞く。
「はい。指紋は綺麗に拭きとられてました。残っていたのは、遺体が腐敗した時にできる膿。DNA鑑定できるほど残っておらず、なんの膿なのか特定するのは不可能だそうです」
「痕跡もご丁寧に消してんのか」
「はい」
「これだけじゃ表立って捜査できねぇな」
「ですね」
貝塚は動画を真剣に見つめる。
「この動画から探ってみるか」
「何か根拠が?」
「ねぇよ。今はこれくらいしかねぇだろ」
「そうですね。投稿者に会えるよう手配しておきます」
「頼んだ」
貝塚と増古はテーブルに乗った枝豆と豚キムチ炒めを食べて、明日の活力を蓄える。
「貝塚さん、ここです」
白い息を吐きながら増古は注目を促す。貝塚は増古に追いつき、周りを見回す。貝塚の視線が気に留めたのは、黒い汚れの目立つ廃墟。
「アレは?」
貝塚の声が寒さで震えている。
「元は炭鉱に従事していた社員の寮だったようです」
「何で今も残ってるんだ?」
「山の中ですし、買い手もいなかったんでしょう。管理者もペーパーでした」
貝塚は山を登り、廃墟に近づく。増古も貝塚の後を追う。
山の傾斜に立つ建物は所々にヒビがある。空のペットボトル、靴、紐、スーパーやコンビニの袋など、ゴミが傾斜に散乱している。人通りがないと聞いていたが、必ずしもそうではないようだ。
「中を調べますか?」
「ああ」
貝塚と増古は建物を周り、入り口を探った。
蝶番が外れ、ドアが脇に倒れている。入り口を見つけて、中を覗く。広がった空間は暗く、どんよりとした空気が流れていた。増古と貝塚は懐中電灯を取り出し、中を照らしながら入る。
暗い部屋、暗い廊下。床には劣化して剥がれた壁や天井の一部などが落ちていた。そんな中、1つの部屋だけ明るい場所があった。
壁が一部崩壊し、外から丸見えになっている2階の大部屋。外から入り込む自然の光が大部屋に入り込んでいた。
「一応解体しようとしてたんですね」
貝塚と増古は懐中電灯をしまった。大部屋の中央にはランプが床に落ちている。他にあるのは壁の天井の隅に蜘蛛の巣が張られているだけだ。
部屋の中を探索していると、部屋の床の一部が不自然に黒くなっていた。
焦げたような跡。いかにも何か燃やしていたような跡だ。貝塚にはまだ新しい跡に見えた。周りには使われた花火の残骸が落ちている。
「若者が花火をしていたんですかね」
増古は神妙に推測を述べる。
「でもおかしいよな」
「はい。花火をするにしても、何でこんな所でやっていたのか。もっと花火をする場所はあるのに、交通の便も悪い山の中にある廃墟で花火なんて、普通はしません」
「聞き込みしてみるか?」
「そうですね」
貝塚と増古は疲れの残る体を携えて廃墟を出た。
寒い夜、貝塚と増古は和の雰囲気を味わえる飲み屋に来ていた。大きなうちわや置行灯、障子などが点々と飾られていた。増古の行きつけらしく、普段は1人でカウンター席に座るが、今日は個室だ。
今日は特に事件もなく、以前解決した松野家放火殺人事件の書類作成だけで終わり、2人で早帰りした。
2人は早速、レリックが見つけたクーラーボックスの腐臭の正体探しの手がかりを見つけるため、クーラーボックスが捨てられていた山の中に入っていく怪しげな人を見ていないか聞き込みをした。
しかし、大した成果はなく、空振りに終わった。そのうさ晴らしがしたくて、貝塚は「いい飲み屋知らない?」と増古に聞いた結果、この飲み屋にいる。
「お疲れぇ」
「お疲れ様です」
貝塚と増古はグラスに入ったビールを突き合わせ、喉を潤す。
「収穫ありませんでしたね」
「まあ遺体がなきゃこんなもんだろ」
「あの山の中一帯を探すなら、もっと人手が必要ですしね」
「やっぱレリックに頼るしかねぇかもな」
「ただ、焦げの件なら収穫はありましたよ」
「え?」
増古は携帯を取り出して、操作する。少し操作した後、貝塚に携帯画面を見せる。
「動画投稿サイト【パブリックフェイス】にアップされていたんですけど、あの廃墟から煙が上がってるんですよ」
貝塚は老眼気味の目を凝らして動画を見る。
「この動画をアップした人に聞いたら、動画を撮ったのは11月14日だそうです」
「何で知った時に言わねぇんだよ」
「すみません。後でも問題ないと思ったので」
「まあいい。科捜研のワイフに調べてもらってたクーラーボックスは?」
貝塚はふて腐れながら聞く。
「はい。指紋は綺麗に拭きとられてました。残っていたのは、遺体が腐敗した時にできる膿。DNA鑑定できるほど残っておらず、なんの膿なのか特定するのは不可能だそうです」
「痕跡もご丁寧に消してんのか」
「はい」
「これだけじゃ表立って捜査できねぇな」
「ですね」
貝塚は動画を真剣に見つめる。
「この動画から探ってみるか」
「何か根拠が?」
「ねぇよ。今はこれくらいしかねぇだろ」
「そうですね。投稿者に会えるよう手配しておきます」
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