鎌倉最後の日

もず りょう

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13 烽火

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   烽火


 九月に入るとすぐに鎌倉を激震が走った。
 京の主上がふたたび謀叛を企てているという報せが届いたのである。
 前回にひきつづき、此度の計画も未然に洩れた。鎌倉にとっては、勿怪の幸いというべきであった。
 前回は同心していた土岐頼員の迂闊さが原因だった。だが、此度の露見は、あからさまな密告によるものだった。しかも、驚くべきことに、密告してきたのは主上が無二の腹心と頼む吉田定房だったのである。
 ――主上は、文観などという怪しげな僧侶を身辺近くに置き、日野俊基・四条隆資、それに千種忠顕等の下級貴族らとたびたび会合を持っておりまする。彼等は無礼講と称して夜毎酒色に耽り、淫靡な呪法を用いて幕府転覆を祈っておるとのこと。まことに恐れ多きことなれど、長く朝廷にお仕えしてまいりました私には、とうてい見過ごすことのできぬお振舞いでござりまする。それゆえ、こうして密訴に及びましたる次第。
 生真面目な定房の苦悩に満ちた訴えは、鎌倉の人々の心を揺さぶった。
 高時は激昂し、守時は懊悩し、長崎高資は――狂喜した。
「これで幕府に仇なす勢力を一掃することができる」
 前回は露見が早かったこともあり、企てへの主上自身の明確な関与までは追及しきれなかった。そのため、人身御供を買って出たのだと察しながら、あえて主犯格を日野資朝ひとりに定め、これを流罪に処すことで、いわば「お茶を濁す」ような幕引きを図った。
 それを主導したのは、実のところ、当時の幕政を牛耳っていた高資の父円喜であった。老練な円喜は、朝幕関係の急激な悪化を避けるための高度な政治判断として、主上をあえて「蚊帳の外」に置くことを選んだ。高資は必ずしもその処置に賛同していなかったが、最終的には折れた。彼の性格を見抜いた朝廷方の賄賂攻勢に篭絡されたのである。
 円喜の選択は、たしかに国内の動揺を最小限に止めることに成功しただろう。しかし高資は内心、
 ――父上のお考えは些か甘かったようだ。
 と、思っていた。
 簡単に言えば、円喜は後醍醐帝という個性の強烈さを見誤っていた。あるいは、過小評価していた。
 後醍醐には廷臣らを引き付ける魅力がある。近来、比較的存在感の薄かったみかどの中ではきわめて異色であり、幕府にとっては大いなる脅威だった。
 今の幕府に、後醍醐に匹敵する求心力を持つ者はいない。得宗高時にはむしろ人望がなく、執権守時は人気はあるが、そもそもが根っからの武人であり、統帥としての資質は些か心許ない。まつりごとの実権を握る長崎父子は、むしろ嫌われ者だ。唯一対抗できるとすれば、
 ――やはり金澤貞将ということになろうか。
 脳裏に浮かんだその名を、高資はすぐに打ち消した。
 貞将が幕府の頂点に立つ時が来るとすれば、それは同時におのれが権勢を放棄せざるをえなくなる時だろう。高資にとって、それは耐えがたいことだった。
 ――この鎌倉を意のままに操るのは私だ。誰にも邪魔はさせぬ。
 彼はそう思っている。貞将が高資の力を認め、今と変わらぬ振舞いを許さぬかぎり、共存はありえぬ。
「いずれにせよ」
 高資は、たしかめるようにひとりごちた。
 急ぎ京へ軍勢を送らなければならない。
 此度こそは甘い処置では済まされない。朝廷を抑え、主上の身柄を拘束する。そして譲位を迫った後、「先帝」となった後醍醐には、京から離れていただき、静かな余生をお過ごし願う。承久の乱に敗れ、隠岐島で生涯を閉じられた後鳥羽院のように――。
「そうだ、隠岐島がよい。主上にお移りいただく地は、隠岐島を措いて他にない」
 弾むような呟きを洩らしながら、高資は評定の場へと向かった。

 評定は、まさしく高資の独壇場となった。
 口角泡を飛ばす勢いで主上の非を打ち鳴らし、それに同調する公卿たちを糾弾した。  
「都からの報せによれば――」
 奉行人を務める二階堂道蘊が言う。
「日野俊基・北畠具行ら謀をともにした公家衆が一斉に捕縛されたことで身の危険を感じた主上は、夜陰に紛れて密かに御所を抜け出し、笠置山へ逃れたとのこと。六波羅の軍勢がただちにこれを攻めるべく進発いたしたよしにござりまする」
「六波羅勢のみにて足りるか」
 先代の常葉範貞に代わって北方探題を務める北条仲時は有能な武将である。心映えも涼やかで、人望もある。しかし、
「笠置山を攻めるのみなれば十分でござりましょう。しかしながら、敵はそれだけではござらぬ。比叡山には皇子の護良親王が天台座主として鎮座し、主上を援護すべく急速に軍備を整えておると聞き及びまする。さらに笠置山の僧兵どもも意気軒高にて、裸足同然で頼ってこられた主上をなんとしても守るのだと息巻いておる様子。これらすべてを相手にいたすとなれば、六波羅勢のみにては苦戦いたすでござりましょう」
 というのが道蘊の見立てだった。
「援軍を送らねばなるまい」
 高資は即断する。
「我等にとっては、ここが正念場ぞ。息吐く間もなく笠置山を攻め落として、主上の身柄を押さえなければならぬ。長引けば主上に同調する者とて出てこよう。そこかしこに敵が増えれば厄介なことになる。なんとしても、その前に片付けてしまうのだ」
「心得ました」
 道蘊が力強く頷いた。
「それでは、さっそく援軍の手筈を整えましょう。して、大将はどなたに」
「そうだな」
 高資はしばし腕組みをして考え込んだ後、
「大仏貞直殿はいかがであろう」
「なるほど」
 道蘊は手を打った。大仏家は北条一門の分家のひとつである。二代執権北条義時の弟で、幕政をよく補佐した北条時房の子朝直を、その始祖とする。貞直はその大仏家当主として幕府の引付衆、引付頭人などの要職を歴任。その家柄に相応しく幕政に重きをなした。一流の教養の持ち主である傍ら武芸にも秀で、武人としての才覚には優れたものがあった。
「大仏殿なればお血筋もお人柄もたしかでござりまするな」
「副将は誰がよいか」
「さようでござりまするな――」
 もはや完全にこのふたりだけが評定を動かしている。後の者たちはただ黙って彼等の話に耳を傾けているだけで、発言しようともしない。
「金澤殿あたりが適任かと存じまするが」
「金澤貞将殿か」
「いかにも。こちらもお血筋といい声望といい申し分ござりますまい」
「いや――」
 高資はしばし考え込んだ後、
「貞将殿は鎌倉にお残りいただこう」
 と、言った。
「なにゆえでござりまする」
 道蘊が反駁する。
「貞将殿なれば六波羅探題をお務めになった経験もあり、京の情勢にも通じておられましょう」
「いかにも、そのとおりだ。しかし、此度の主上の企てに対しては、鎌倉武士の中にも動揺しておる者が少なからず存在する。そうした者たちが軽挙に及ばぬよう、この鎌倉にはしっかりとした重石が必要だ」
 瞬間、上座にいる執権守時の顔色が変わった。
 当然であろう。高資は暗に、
 ――鎌倉に据える重石は、守時では不足である。
 と、口にしたに等しいのだ。
 口惜しさに小さく呻きながら、守時は懸命に耐えた。
 彼自身、どこかでそれを否定しきれない自覚を持っていたためでもある。総じて武士たちは自分に対して好意的だが、彼等が抱いているのはあくまで同じ武人としての好もしさであり、統領として押し戴く崇拝の念とは些か異なる――守時はそう感じている。それならそれでよいと思っていたし、それゆえにこそ、もともと執権に向いているともなりたいとも思ったことはなかったが、いざこのような場に直面してみると、おのれの不甲斐なさに歯噛みしたくなるのだった。
 高資はしかし、守時のそんな葛藤など意にも介さぬふうで、
「ご舎弟の金澤貞冬殿ではいかがであろう」
 と、提案した。
「なるほど、貞冬殿でござりまするか。年若なれど兄君に似て心映えの涼やかな武将でござりまするゆえ、将兵等も喜んで付き従いましょう」
 道蘊は手を打った。
「では、大仏貞直殿を大将に、金澤貞冬殿を副将に、それぞれ任ずることで、よろしゅうござりまするな」
「いや、もうひとり――」
 高資が遮る。
「副将を加えよう」
「どなたを」
「足利高氏殿」
 その名を告げた途端、一座から驚きの声が洩れた。
「待て、高資」
 たまりかねたように守時が言葉を発する。
「なぜ足利殿なのだ」
「足利殿は今や源氏の棟梁ともいうべきお方。此度の軍勢派遣は鎌倉武士の力を朝廷に見せつけ、二度とかような企てをいたさぬよう、しかと釘を刺すためのものにござれば、まさに適任と申すべきかと存じまする」
「理屈はわかる。しかし、足利家はつい先日、当主の貞氏殿を病で失ったばかりだ。未だ喪も明けておらぬうちに兵を出せ、いくさに出よとは、些か酷ではあるまいか」
「執権殿が妹婿の高氏殿を庇われるお気持ちはよくわかります。しかし、よくお考えくださりませ。此度は足利殿の心底を見極める絶好の機会でござりまする」
「いや、私は別に庇うつもりで言っているのでは――」
 困惑する守時を、高資は微笑でいなして、
「高氏殿のお人柄はよく存じませぬが、足利家の棟梁ともなれば諸国の源氏から期待の目を向けられましょう。彼等の中には、北条一門やそれに使える我等のことを平氏の裔と見なし、よく思わぬ者とて少なくありませぬ。そうした者たちをどう扱うのか、我等は注視しつづけなければなりませぬ。此度、あえてこの時に出陣の命を受けた高氏殿がいかなる反応を示すか。我等にとっては、それを量るこの上なき好機なのでござりまする」
「源氏の平氏のといがみ合うは昔のこと。今となっては、ともにこの鎌倉を支える同志ではないか。そのようにして試すのは心苦しい」
「甘うござりまするぞ、執権殿。この鎌倉は草創以来、幾多の争いによって築かれた屍の山の上に成り立っているのです。いがみ合いをも力に変えるのが武家のまつりごと――幕府のまつりごとでござりまする」
 高資の気迫に満ちた言葉に、一同は言葉を失っている。
 これほど凛然とした高資の姿を、みなは初めて目にしていた。これまではどちらかといえば媚びへつらう姿が目立ち、いかにも、
 ――佞臣
 という感じが強かったが、今日の彼の言動は、その印象を覆すのに十分なものだった。
 先日の宴席以来、しばらく床に臥せっていた高資は、政務に復帰するや、これまでとは別人のような果断をもって事に当たっている。その姿はどことなく父円喜を髣髴させるものであった。周囲の者たちは、その変貌ぶりに驚き、
 ――さすがに命を狙われたことで、心を入れ替えようとしているのであろうか。
 などと噂し合った。
 その高資に見据えられて、
「あいわかった」
 守時は伏し目がちに言った。
「では、足利殿には私から申し伝えよう」
「よろしくお願いいたしまする」
 かくて評定は終わり、今日への大軍派遣が決まった。

「兄上」
 金澤家の屋敷では、貞将が弟の貞冬と向かい合っていた。
「このたび、京へ出陣いたすこととあいなりました」
 貞冬の面差しは、貞将によく似ている。端正さと精悍さが絶妙の配合で同居した、魅力的な風貌の若者である。
「鎌倉を出るのは初めてだな」
「はい、胸が踊りまする」
 紅潮した頬が若さに溢れている。
「鎌倉のため、天下のため、しっかりと働いてまいりまする」
「うむ」
 貞将は大きく頷く。
「大仏殿も足利殿も優れた武将だ。お二方の申されることをよく聞き、武将としての心構えをとくと学んでまいるがよい」
「もとより、そのつもりでござりまする」
 高鳴る胸の鼓動が、今にも貞冬の体を突き破って聞こえてきそうである。
 主上を相手にいくさをするのは、普通ならば気乗りせぬものだろう。かつて承久の乱の折も京への進発を渋り、二の足を踏む武士たちも少なくなかったと聞く。それを懸命に鼓舞し、武士たちを奮い立たせていくさを勝利に導き、幕府の礎を築いたのが彼等の先祖である北条義時であり、その姉で、
 ――尼将軍
 と称された女傑政子だった。
 しかし、目の前で高揚感を露わにしている貞冬には、そのような後押しは必要なさそうである。少年の匂いを残す円らな瞳を輝かせて、
「せっかくまいるのですから、いくさが片付いたら京でいろいろな方にお会いして、見聞を広めてこようと思っています。兄上、どなたかお勧めの御仁はおられますか」
 と、身を乗り出して問いかける。
「お勧めの御仁か」
 貞将は微苦笑を浮かべて、
「少々癖は強いが、佐々木判官殿などはおもしろいぞ。今は出家して道誉殿と名乗っておられるが」
「佐々木殿と申さば、近江源氏の?」
「さよう、当代随一のばさら者と評判の人物よ」
「ばさら者、でござりまするか」
「私も直に会うまでは、どれほど軽佻浮薄な男であろうかと、内心高を括っていたのだが、なかなかどうして、話してみればひとかどの人物だ。豊かな見識、剛毅な人柄、それでいて、どこか他人を惹きつける力を持った、なんとも不思議な御仁であった。おそらく此度のいくさにも手勢を率いて加わられるであろう。ぜひ謦咳に触れてみよ」
「心得ました」
 勢い込む貞冬の様子を慈しむように見詰めながら、貞将は懐かしい京での日々に思いを馳せた。
 英邁剛毅な主上は、笠置山へ逃れてもなお意気軒高であるという。拝謁を賜った日の印象を思い起こせば、その不屈の闘志は十分に想像できる。二度にわたる企てがいずれも未然に防がれ、此度は御所まで追われたが、おそらくその心は微塵も折れてはいまい。そして、最後にはおのれの手が勝利を掴むのだと、今も信じて疑わぬのであろう。
 その主上に寄り添う千種忠顕らの近臣たちも、決して心は屈していないはずだ。このお方のもとにいれば勝てる――そんな信念を持って、公家の身で慣れぬいくさにも堂々と臨む覚悟に違いない。
 彼等の覚悟の源には、既に幕府に捕えられた同志たちの無念の思いがある。その中には正中の変では難を逃れた日野俊基や、妖僧と呼ばれた文観――そして硬骨の気概を持つという北畠具行もいた。
 高資は強硬な姿勢を示し、此度の首謀者たちを許すつもりはないと公言していた。文観は俗人ではないだけに命までは奪われぬであろうが、俊基や具行は間違いなく斬られるだろう。
 かつて佐々木道誉に招かれた宴席に姿を見せなかった北畠具行――道誉と千種忠顕が称賛を惜しまなかった人物だ。どんな男だったのだろう。一度会って、心ゆくまで話をしてみたかった。
 だが、おそらくそれは、もう叶うまい。
 ――このようなやりかたで、本当によいのだろうか。
 茫漠とした不安が、自分の中でゆっくり広がっていくのを、貞将は感じていた。
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