異能力学園第四校

電電世界

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第1章 学園1年生前期

クラスメイト

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・4月3日(水曜日)

 トーナメントに参加した翌日、普段は使わない筋肉を使ってしまったのか体の至る所が筋肉痛で痛い。痛む体を庇いながらクラスにたどり着き席に座っていると、声を掛けられた。

 「よう同じクラスだったんだな」

 額から5cm程の角を生やした赤黒い肌の女子がフレンドリーな感じで話しかけて来た。確証は持てないが恐らく同じクラスメイトであろう目の前の人物には会話はおろか出会ったことすらない筈である。

 「えっと、おはよう」
 「おう、おはよう。昨日も一昨日も弱そうな男ばかりのクラスだと思っていたのに気骨のある奴もいたもんだよ。名前を教えてくれよ」

 馴れ馴れしく話しかけて来たわりには仁也の名前すら知らない、仁也も目の前の女子をよく知らない。疑問が巻き起こるばかりの会話に意を決して尋ねた。

 「何処かで会ったことがある?」
 「昨日トーナメントに参加してただろう。あたしはトーナメントを見ていたんだよ」

 ようやく合点がいった。昨日の島津火王が開催したトーナメント会場に彼女も来ていたらしい。

 「あたしも参加したかったんだけど未だに学園の道がよく分からなくてね着いた時には受付が締め切られた後だったんだよ、悔しいからこの学園の実力を見る為にトーナメントを見ていたんだけど。あたしよりも弱そうな人達ばっかりだったけど何人かは手強そうだなって感じかな、でも火王は格が違ったね、一目見て今のあたしじゃ倒せないって思ったよ」
 「そうだな火王の島津先輩と対峙したけど、島津先輩のパンチを貰った時に死んだって思ったよ」
 「それだよ一回戦の火王の相手があんただった。見るからに弱そうで何も出来ずに一発でのされちまいそうだったから、あたしが戦いたいって思ったよ」

 確かにはたから見ればすぐ勝負の結果がつく退屈な試合に思えただろうと否定は出来ないなと思った。

 「でも試合が始まれば、あんたはカウンターを一発叩き込んだ。圧倒的な実力差があったのに確かに一発決まったんだ。凄いよあんたは」

 そう言ってバシバシと背中を力強く何度も叩かれた。

 「そう言えばあんたは何て名前なんだい?」

 隣の座席に座って昨日のトーナメントの感想を一方的にしゃべり続けている途中で思い返したように尋ねてきた。

 「和田仁也です」
 「そっかあたしの名前はホオズキ・アカネだ」

 ホオズキは異世界クゼノ皇国出身の鬼族で、姉が三年前に日本に留学し、ホオズキも姉の勧めで第四学園へと進学してきたらしい。

 
 「みんな、おはようございます」

 そうしてホオズキと喋っていると手塚先生がクラスに入って来た。

 「さて今日は異能測定です。測定場所は普通科校を出て学園中心部にある異能力管理センターで検査しますので移動しますが、今日はバスを取ってあるので全員で移動します」

 その他の細々とした連絡を伝え終わると二十分後までに校門前のバスに乗り込んでいることと伝えられるとクラスメイトは、既にいくつかのグループが出来ていてゾロゾロと移動を開始した。

 「あたし達も行こうぜ」

 ホオズキに腕を掴まれて強制的に立ち上がらせられたが、フワッと香る柑橘系の匂いにホオズキも女子高生なのだと意識すると悪い気もしないので一緒にバスへと向かった。

 「異能力かどんなのが発現するかな楽しみだぜ」
 「ホオズキさんは異能力をまだ測定していなかったんだ?」
 「アカネで良いよ、アタシも仁也って呼ぶからさ」

 バスに乗り込んでからも隣の座席に当たり前のように座ってきたアカネの柑橘系の匂いが更に強く感じた。


 「じゃあ異能測定は個別に行うので名前が呼ばれたら指示に従ってください」

 異能力管理センターは三十階建ての高層ビルで、巨大なエレベータに乗り込み待合室のような場所に移動すると、看護師の様な職員の女性から着替えてくださいとジャージの様な検査着を渡されて着替えさせられた。

 「和田仁也さん、十五番検査室へお入り下さい」

 看護師のお姉さんに名前を呼ばれて検査室へ入ると扉の外見とは違い中は約五十畳程の正方形のような形で、中には白衣を着たお爺ちゃんと看護師がいた。

 「おはよう、和田仁也君だね。異能力は未覚醒だね」

 白髪の長い髭を生やしたお爺ちゃん先生が看護師のお姉さんから渡されたカルテを読みながら看護師に指示を出していく。

 「今回の担当医の琴鳴道助ことなりみちすけだね、異能力を覚醒させる前に流れを説明するかだね」

 異能力には二種類あり、属性魔法を発動する魔法能力とアビリティや無属性魔法を発動する異能力に分けられる。今回検査するのは後者の俗にアビリティとも呼ばれる異能力である。アビリティは昔は身の危険や特殊な状況でないと発現しなかったのだがアビリティの研究が進んだ現在では特殊な方法で発現させる事が出来るようになった。

 「先ずは適正検査器を使ってアビリティの種類を見てからそれにあった発現方法を行うのだね」

 看護師から筒状の検査器を渡されると、それをグッと握ってと言われたので指示に従うと、数秒でありがとうございましたと回収された。

 「特異系にも適正があるんだね、運が良いんだね」

 琴鳴先生は看護師から検査器を受け取り見ながらそう言った。そうしてカルテに何かを記載してから薬を一つ取り出した。

 「じゃあグイッと飲んでみようだね」

 緑色のカプセルと看護師さんから白湯を渡されて、淡々と進むので仁也も渡されたカプセルを悩む時間も無く飲み込んだ。

 「おぇっ」
 「吐いちゃったらまた飲まないといけないんだね」

 琴鳴先生が笑顔で告げてくるのでえづいてしまうのを我慢して吐き気を抑える。なんとか我慢しきって白湯をガブ飲みし終えると

 「おめでとうだね」

 先生の言葉と同時に不思議な感覚を自覚する。世界がまるで祝福をしてくれたような多幸感に浸たされた。今ならば何でも出来るのではないかと考えていると、看護師さんが手首にブレスレットを巻き付けてきた。

 「覚醒の反動で気分が良いんだね。異能力が判明したら生徒手帳に詳細を送っておくから落ち着いたら確認をするんだね」

 そう言って検査は終わったのか、看護師さんにお疲れ様でしたと言葉をかけられてから紙コップを差し出された。飲んで下さいと再び告げられて、今度は多幸感から躊躇なく飲むと今まで感じていた多幸感が急激に醒めていくのを実感する。

 「落ち着いたようだね」

 検査着から制服に着替えてロビーでお待ち下さいと言われたので、急激な感情の変化に仁也自身が追いつけなかったのだが、慣れているのか看護師さんに手を引かれて更衣室にまで連れられた。

 
 「お疲れ様です。隣良いですか?」

 ロビーには仁也と同じように疲れ果てたクラスメイトがソファにもたれ込んでいた。仁也も同じようにソファに座り込んでいると木村さんが話しかけてきた。

 「どうぞどうぞ」
 「じゃあお邪魔して」

 よっこいしょと言う掛け声とともにソファに座ると大きく息を吐いた。

 「今朝、娘の花凛から異能力を覚醒させた後は疲れて気分が悪くなるから朝食は少ない方が良いと注意されたんですけど正解でした。この歳になると簡単にへばっちゃいますからね」

 木村さんの会話に生返事を返していると手首に付けられていたブレスレットからピーピーと音が鳴った。するとロビーにいた看護師さんがブレスレットを回収していった。
 看護師さんは生徒手帳に異能力が記載されたのでご確認下さいと言っていたので、早速生徒手帳を起動して確認してみると


 「異能力名は[棒術の才]と[スケープチェンジ]どんな異能力だろう?」

・棒術の才:武器形状が棒の場合に、武器に魔力を込め易く術着を発動する際に棒を媒介にした消費魔力を減少させる。

・スケープチェンジ:自身と同程度の重量の物体と位置を交換することが可能、交換可能な位置は異能力の力量次第。

 
 棒術の才に関しては理解できるがもう一つの異能力に関しては当たりなのかハズレなのか判断できなかった。

 「和田君はどうでしたか?」
 「ボチボチと言った感じです」
 「少しでも納得がいっているなら良いことです。私も異能力が一つあったのですが、恥ずかしながら意味がよく分からないですね」

 そう言いながら木村さんが生徒手帳を見せてくる。

・魔神の右腕:右腕から先を魔神と同一化出来る。異能力の力量次第で同一化時間が決まる。

 「魔神の右腕ですか、でも強そうな異能力じゃないですか?」

 「この歳になると腕っ節に関する異能力よりも健康的な回復系統の異能力や身体能力が向上する異能力が良かったですけどね」
 
 そうして自分の異能力がどんなものなのか再び生徒手帳で検索していると、看護師さんに現状の異能力の効果測定を行うので来てくださいと言われた。

 「和田さんは棒術の才とスケープゴートですね、では先ず棒術の才から見てみましょうか」

 そう言いながら看護師さんは空中から一メートル程の木の棒を渡された。棒を握りしめて軽く振り回してみると思いのほか自分の予想通りの事が出来た。

 「良さそうですね、新入生へのアドバイスとしては才能がある武器は鍛えた方が良いですよ。剣とか槍とか色んな武器があるけれど才能がある武器を鍛えてからの方が応用が効きますよ」

 棒術の才の確認はそこそこにスケープゴートの効果測定へと移行した。仁也と同程度の重量物という事で昨日測ったばかりの体重と同じ重さの金属物体が取り出された。

 「現時点でこの金属は和田さんの体重の五キロ引いた重さなんですけど試してもらえますか」

 スケープゴートを行使するためには事前に交換したい物体に触れて登録を行わなければならない、登録は問題なく出来たと理解出来たので手始めに十メートル離れた位置からスケープゴートを発動した。

 「無事に発動しましたね」

 異能力を発動すると同時に一瞬で金属物体と位置が入れ替わった。喜びも束の間にドッと疲労感が押し寄せたが直ぐに疲労感は消え去った。突然の事に自分の体を触って確かめたりしていると

 「この場所では異能力を行使した際に消費する体力や魔力などは直ぐに回復するので効果測定は万全な状態で測定できるのです」
 「なるほど」
 「では条件を変えますのでお願いします」

 そうして様々な条件で繰り返し異能力を発動し続けて、位置を交換できる重量物は仁也の体重のプラスマイナス六キロずつで自分から十三メートルまでの位置で交換が可能だった。

 「お疲れ様でした。以上で効果測定は終了です検査着から制服に着替えましたら、このセンターで解散との事なのでお気をつけておかえりください」

 
 看護師さんの言う通りに着替え終わってから出口へ向かうとアカネが頭上で手を組みながら出口付近のソファに座っていた。

 「遅いぞ仁也」
 「いやいや待ち合わせの約束してないだろ」
 「男が細かい事を気にすんなよ、それじゃあトーナメントに行こうぜ」
 「どうしてそうなるんだよ」
 「ところで今日はどこでトーナメントをやるんだ?」
 「だから話を聞けっ」
 「その前に昼飯だな今日は肉の気分」
 「もういいよ」

 立ち上がったアカネがガッシリと腕を組んできて、鬼族の膂力で抵抗も碌に出来ずに数人のクラスメイトに見送られながら異能力管理センターから出た。

 
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