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2巻

2-2

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「ところで、石川さんは公都で授爵じゅしゃくが行われた後はどうするのですか?」
「一緒に行動しているココが地元に帰るので、貿易港ケルクまで見送りに行こうと」
「なるほど。ガベルディアス殿は地元へ……。石川さん、男爵様の家臣かしんになりませんか? 授爵されればあなたは名誉騎士爵の身分。男爵様はその能力と加護を高く評価なさっています。是非とも雇いたいと打診するように言われています」
「男爵様の家臣ですか。ありがたい話ですけれども……ピンと来ませんね」
「そうですか……。いや、無理強むりじいするつもりはありません」

 マセキスはそう言うと、眼鏡めがねの奥で穏やかに目を細めた。

「石川さんのような方には権謀けんぼう渦巻うずまく貴族社会は合いませんしね。あなたほどの実力があれば、権力者に取り入るのは容易なのに、今までうわさにすらならなかった。私も男爵様と一緒に公都で行われるドラゴン討伐祝勝会に参加するので、また会いましょう」

 マセキスはそう言って去っていった。

「貴族の生活なんて想像できないな……」

 部屋に残った良一は、そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠っていたのだった。


 ◆◆◆


「良一兄ちゃん、あれがグレヴァール?」

 いよいよ公都グレヴァールが間近に迫り、モアは馬車から身を乗り出して前方を窺う。

「そうみたいだな。想像していたよりも大きいし、立派な壁だ」

 一行は予定通りに、公都グレヴァールにたどり着いた。
 公都は町全体を堅固けんごな石の壁で囲まれているが、壁よりも高い建物も多く、大きなヨーロッパ風の立派なお城が見えている。

「良一兄さん、着いたら色々見て回りたいです。ココ姉さんも、一緒が良いです」
「ええ、私も急いで地元に帰るわけではないから、少し観光してから港に行きましょう」

 そんな会話に口を挟んだマアロは……

「美味しいもの食べたい」

 全くブレていなかった。
 門をくぐると、良一達を乗せた馬車は討伐隊と別れて、大通りに面した宿に横付けした。
 り上がる良一達を御者台からユリウスが振り返る。

「授爵式は明後日行われます。グスタール将軍から礼装れいそうのご用意がなければ店を紹介するように言われておりますが、皆様は礼装をお持ちですか?」
「いえ、持っていないので、是非紹介してもらいたいです」
「そうですか、では明朝お迎えに上がります。今晩はこちらの宿でお休みください。授爵式までの宿泊はこちらの宿を手配してあります。代金も王国騎士団が支払い済みですので、旅のつかれをやしてください」
「送迎ありがとうございました」
「ばいばーい」

 ユリウスが去り、改めて宿の建物を見上げると、貴族の屋敷ではないかというくらいの立派な外観で、入るのがはばかられる。

「本当にここが宿なのか?」
「この宿は公都でも指折りの名宿ですよ。そこにタダで泊まれるなんて、良いんでしょうか?」

 恐縮する良一とココを横目に、子供達――と、マアロはさっさと中に入っていく。

「良一兄さん、絨毯じゅうたんすごくフカフカしていて、転んじゃいそうです」
「わー、広くてキラキラしてるね、お姉ちゃん」
「お腹空いた」

 豪華ごうかな宿に入ると、キッチリとした服装に身を包んだ青年が出迎えてくれた。

「ようこそ、石川様。当宿の受付をしております、イヌヤと申します」
「しばらくお世話になります」
「当宿は、貴族の方々にも利用していただいております。ご要望があれば、私どもになんなりとお申し付けください」

 メイドの女性に案内されて通された部屋は、スイートルームといったおもむきで、部屋の数も多く、寝室が二部屋に、大きなソファがある談話室まで備えられていた。
 内装も豪華そのもので、窓にはバルコニーがあって公都の景色を一望でき、ところどころにかざられた絵画や生花がいろどりを添えている。

「うわわわ、体が沈みます」

 おそるおそるソファに座ったメアだったが、おしりがグググっと沈み込んでワタワタしている。
 モアもそれに触発されたのか、ソファに体をうずめてはしゃぎはじめた。
 豪華な客室の中でワイワイと楽しんでいると、扉がノックされた。

「失礼します。お食事の用意ができましたが、客室でし上がりますか? それとも、食堂になさいますか?」
「騒がしいと他のお客さんの迷惑になるんで、客室で食べます」
左様さようですか。では、準備に入らせていただきます」

 運び込まれた料理はどれも盛り付けが美しく、味も素晴らしかったが、一皿あたりの量が少なく、良一達の胃袋を満たすにはお上品すぎた。
 良一もメアとモアも、コース料理というものにれていないため、ナイフとフォークを上手く使えなかったが、ココとマアロに教わりながら食べていた。

「美味しいけど、良一兄ちゃんの料理の方が好き」
「同意する。これじゃあ足りない」

 比べるものではないとはいえ、モアとマアロに評価されて、良一も満更まんざらではなかった。

「あ、明日は俺とココの礼服を買いに行くけど、その時にメアとモアの礼服も買ってあげるからな」
「良一、私は?」
「ついでにマアロもな」

 翌朝、朝食を終えて少しすると、ユリウスが宿の前に迎えに来た。

「おはようございます。では、お店へご案内いたします。どうぞ馬車にお乗りください」

 良一達は早速馬車に乗り込んで、礼服を取り扱う店へと向かった。
 ユリウスは部下に御者を任せているので、彼が自ら良一達を店の中に案内した。

「どうぞこちらへ。こちらが、公都でも大手の服飾を取り扱う店です」
「いらっしゃいませ、これはユリウス様」
「主人、昨日申し付けた授爵式に着る礼服を、こちらの二人に見繕みつくろってくれ」
「かしこまりました。どうぞ奥へ」

 良一は既製品を買うのかと思ったが、大体の背幅や肩幅が合うものを、本人のサイズに調整するそうだ。さすがに急ぎとあってあまりデザインは選べないが、サイズは豊富に用意されていた。
 良一とココが採寸される横で、メアとモアとマアロが女性用ドレスを見てはしゃいでいる。

「採寸お疲れ様でした。本日の夕方には宿の方へお届けに参ります」
「ありがとうございます」

 良一の採寸はすぐに終わったが、ココの方はまだ少しかかるらしい。
 その待ち時間を利用して、良一はメア達のドレスを選ぶことにした。

「すみません。妹達のドレスもお願いしたいんですけど」
「妹様方は、これから大きくなられますので、大きめのドレスを選ばれた方が長くお使いいただけると思われますが、もし授爵式後の祝勝会に参加されるのでしたら、サイズを合わせたドレスの方がよろしいでしょう」
「そうですか。じゃあ、ピッタリのでお願いします」
「あちらに小さめのサイズのドレスがございますので、どうぞ」
「おーい、メア、モア、マアロ、こっちに来てくれ」

 良一に呼ばれた三人は、キャッキャとはしゃぎながら色とりどりのドレスを手に鏡の前に立つ。
 良一はどれが似合うか何度も尋ねられ、その度に良いと思う方を答える羽目はめになった。

「良一兄ちゃん、これが一番可愛い」
「私はこのドレスがとても素敵すてきだと思います」
「これがいい」

 三人がお気に入りのドレスを決め、一度試着することになった。
 試着部屋から出てきた三人は、我先にとドレス姿を良一に見せてくる。

「どうどう、良一兄ちゃん」
「似合いますか、良一兄さん」
「感想は?」
「ああ、三人とも似合っているよ。お姫様みたいだ」

 良一がめると、モアはその場でくるんと回ってスカートをなびかせ、メアは嬉しそうに両手を頬に当て喜び、マアロはドヤ顔で笑う。
 そんな中、採寸が終わったココが顔を出し、ドレス姿のメア達を見て歓声を上げた。

「お待たせしました。あら、三人ともとても似合ってる! 凄く可愛い」

 五人で喋っていると、店のすみで待機していたユリウスが近づいてきた。

「石川様、仕立て直しが終わるまで時間があります。これからどうなさいますか? 宿に戻るなら馬車を出しますが」
「ありがとうございます。でも、少し五人で公都を見て回ろうかと」
「そうですか、では、授爵式の二時間前に宿までお迎えに上がらせていただきます」

 そう言って、ユリウスは馬車で走り去った。


「さて、どこに行こうか」
「あっち」

 店から出た良一達は、マアロに先導されながらとりあえず街中を進んでいた。
 メア達のドレスは礼服と一緒に宿に届けてもらうことになっている。
 しばらく公都の街並みを見ながら歩いていると、大きな白い石でできた神殿があった。

「ここは、前に聞いた公都の神殿か。風の属性神がまつられているんだっけ?」
「そう、属性神の一柱、風の女神シルフィーナ様が祀られている」

 マアロが胸の前で手を合わせて祈る仕草しぐさをしながら教えてくれた。

「どうする、お祈りをしていくか?」
「うん」

 モアがするというので五人で神殿に入ると、農業都市エラルにあった治水ちすいの神モンド神殿よりも人が多かった。しかし祝福を授ける神官が三人いるため、あまり長く待たずに済みそうだ。

「マアロは祝福を受けないのか?」
「私はウンディーレ様の神官。他の神の祝福は受けられない」
「そういうもんなのか」
「良一兄ちゃん、もうちょっとだよ」

 神官見習いの少年に、祝福を受けないマアロをのぞいた四人分のお布施ふせを払う。
 順番に従って祝福を受けると、エラルの時と違って今度は良一だけが体に力がみなぎるのを感じた。
 どうやら良一以外の三人には加護が付かなかったらしい。

「今日はポカポカしなかった」
「私もです。しませんでした」
「二人とも、がっかりしないで。普通は加護なんて滅多めったにつかないのよ」

 残念がる姉妹を、ココが優しくなだめる。
 後がつかえているので、列を離れて出口に向かおうとすると……

「石川さん、お久しぶりです。風の属性神の加護を得たようですね」

 振り返ると、そこにはなんと、セールスマンにふんして良一を異世界に導いた〝神白かみしろさん〟がいた。
 もっとも、今はスーツ姿ではなく、他の神官らとよく似た服をまとっている。

「えっ、神白さん! お久しぶりです」

 意外な人物との再会に、良一の顔が綻ぶ。

「お元気そうで何よりです、石川さん」
「また会えるとは思っていませんでした」
「ここは石川さんが謁見えっけんした主神の従属神の神殿ですから、こうして再び会えたのです」

 良一が神白としゃべっていると、マアロが強い力で良一の手をにぎってアピールした。

「おう、どうしたマアロ?」
「あのお方は、三主神の一柱、ゼヴォス様の使徒なの」
「ええ、そうですよ。そちらのハイエルフとエルフのハーフの娘は、神官ですか?」

 神白が頷くと、マアロはその場でひざまずいて祈りをはじめた。

「水の属性神ウンディーレの神官マアロ・フルバティ・コーモラスと申します」
「主神ゼヴォスの第一使徒ミカエリアスです。きよらかな水の加護を持っていますね。そのまま精進しょうじんを重ね、務めを果たしてください」
「使徒様のお言葉、ありがたく頂戴ちょうだいいたします」

 突然始まったやり取りに、良一はメアとモアと一緒にポカーンとしているが、ココは神白がミカエリアスと名乗ると、マアロと同じように跪いた。

「今日は神白として――石川さんの知人として顕現けんげんしたのです。そんなにかしこまらないでください」

 神白はそう言うが、マアロとココはかたくなに顔を上げないので、あきらめて良一と会話を続けた。

「神白さんは、別の名前もお持ちなんですね」
「ええ、まあどちらも私の名前なので、お好きな方で呼んでください。今日は石川さんの気配を感じたので、顔を見に来たんです。お元気そうで安心しました。どうですか、こちらの世界は?」
「はい、可愛い二人の妹もできて、毎日が楽しいです」
「そうですか。メアさんにモアさん、あなた方も幸せですか?」
「うん、良一兄ちゃんと暮らせて、すっごく楽しい」
「私も良一兄さんの妹になれて、本当に幸せです」

 二人の返事を聞いて神白は笑顔でうなずいた。

「二人とも良い子ですね。良く学び、すこやかに成長してください。では、こうして会えた記念というのも変ですが、私から皆さんに試練を与えましょう。もう一柱の神の加護を得てください。達成したあかつきには、アイテムボックスの能力を付与しましょう」

 神白はそう言い残して、忽然こつぜんと姿を消した。

「二人とも、もう神白さんは帰ったよ」

 しばらく経って良一が声をかけると、ようやくマアロとココが立ち上がった。

れ馴れしすぎる」

 マアロは少し力を込めて良一の太ももにパンチする。

「良一さん、まさか第一使徒のミカエリアス様とあんなに気軽に話す間柄だったなんて、ドラゴンと遭遇そうぐうした以上の衝撃しょうげきです」

 ココはすっかり気疲れしたのか、声に覇気はきがない。

「……そんなもんなのか?」

 良一は実感がかなかったが、二人はもう疲れたと言って宿に帰りたがるくらいなので、相当な大事だったらしい。

「良一兄さん、さっき会った神白さんって、どんな人ですか?」
「そうだな、神白さんがいなかったら、俺はメアとモアに会うことはなかっただろうな」
「なら、今度会ったら、お礼を言いたいです」
「モアも!」
「そうだな、なら、神様の加護を得ないとな」

 そうして一行は、しばらく公都を見て回りながら、歩いて宿屋に戻った。


 ◆◆◆


「さあ、今日は授爵式だ。きちんとしないとな」

 翌日、良一は朝から気合い充分だったが、いざ準備を始めてみると、宿屋の使用人が何から何まで手伝ってくれ、礼服を着せたり、整髪料や香水などもつけてくれたりして、身を任せるだけだった。
 準備は三十分ほどで終わり、ココやメア達の支度が終わるのを待つだけだ。
 宿屋のエントランスのソファで座って待っていると、昨日までとは違う白く綺麗きれいよろいを着たユリウスが来た。

「ガベルディアス様達の準備はまだのようですね?」
「メイドさん達がもうすぐ着付けが終わると言っていたので、それほどかからないかと」

 ユリウスと話していると、奥から数人が歩く足音が聞こえてきた。

「良一兄ちゃん、見て見て!」
「モア、走るとドレスが汚れちゃう」

 可愛らしいパステルカラーのドレスを着て、薄い口紅や化粧けしょうでおめかししたメアとモアがやってきた。

「二人とも、とても可愛いじゃないか。本当にお姫様みたいだ」

 良一が褒めると、二人とも嬉しそうにポーズを取って、ドレスの後ろ姿を見せた。

「良一、お待たせ」

 続いてやってきたマアロは、黒いドレスで金髪が良くえる。子供らしい可愛さのメア達とは対照的にグッと大人っぽい雰囲気ふんいきがあった。

「マアロも似合っているじゃないか」
「ありがとう」

 しかし、良一の視線は彼女の奥から現れたココの姿に釘付くぎづけになった。

「お待たせしました。このようなドレスは着慣れていないので……。似合いますか?」

 黒髪を一つにまとめ、純白のドレスに身を包んだココはまるで天使のようで、冒険者稼業かぎょうで引きまった体のラインがところどころ強調されるデザインが、健康的な色香いろかただよわせる。


「ココ姉ちゃん、綺麗だね」
「ありがとうモアちゃん」
「いや、本当に綺麗だよ」

 良一はなるべく平静を保ってそう言ったものの、化粧も相まって普段の見慣れたココとの違いに戸惑とまどい、変に意識しそうになって照れ笑いを浮かべる。

「ありがとうございます。良一さんもお似合いですよ」

 全員の準備もできたので、良一達はユリウスの馬車で公爵の城へと向かった。

「授爵式といっても、難しい作法はありません。公爵様が前に歩いて来られたら頭を下げて〝つつしんでお受けいたします〟と言うだけです」
「分かりました」

 公爵城に近づくにしたがって良一とココの緊張が高まるのを察したユリウスが、授爵式での注意事項や居振いふいについて気軽な調子で話して、空気をやわらげようとした。

「すぐに終わりますから、緊張するのも少しの間ですよ」

 公爵の城に着くと、たくさんの馬車が入り口の前に停まっていた。
 礼服やドレス、式典用の金属鎧を着た人達が次々と城に入っていく。

「では、妹様方はこちらでお願いいたします」

 公爵の城に入るとココと良一は別行動となり、式典の間は、女性兵士がメア達三人を見てくれることになった。

「では石川さん、ガベルディアスさん、こちらにどうぞ」

 授爵式は城内の大ホールで行われるらしく、すでに人がたくさん集まっていた。

「間もなく式が始まりますので、こちらでお待ちください」

 周りにいるのは初めて見る顔ばかりとあって、良一達はユリウスに案内された場所でおとなしく待つ。

「ギレール男爵がいますね、それにグスタール将軍も」

 ココの言う通り、ホールの奥の壇上だんじょうにある公爵が座るとおぼしき椅子いすの近くに二人が立っていた。
 しばらくして、公爵お抱えの楽隊による荘厳そうごんな演奏が鳴り響き、それを合図に式が始まった。

「これより、ドラゴン討伐の祝賀式を行います。式の初めに、公爵様が入場いたします」

 司会の者がそう言うと、ラッパの音とともに公爵が入場してきた。五十代くらいの男性で、立派なひげを生やした貫禄かんろくのある人物だ。

「ドラゴン討伐、大義たいぎであった」

 公爵が会場を見回してねぎらいの言葉をかける。
 グスタール将軍やギレール男爵をはじめ、周りの全員が頭を下げるのにならって、良一とココも頭を下げた。

「それでは、ドラゴンの亡骸なきがらを皆の前に」

 公爵の一声で、配下の者達がドラゴンの遺骸いがいを運び込む。
 血や汚れなどは綺麗に整えられたものの、その巨大さと獰猛どうもうな姿を初めて目の当たりにする参列者は、皆驚きをあらわにする。ご婦人方の中には小さく悲鳴を上げた者もいた。

「驚かせて申し訳ない。しかし、このような恐ろしいドラゴンを討伐した討伐軍と、それを率いたグスタール将軍の栄誉を、改めてたたえたい」

 公爵がそう言うと、大きな拍手が湧き起こった。

「グスタール将軍。貴君には、単竜討滅勲章たんりゅうとうめつくんしょうを授ける」
「謹んで頂戴いたします」

 前に呼ばれたグスタール将軍に、公爵が勲章のメダルをさずけた。

「次に、危険をかえりみずドラゴンが現れた報せを伝え、ドラゴン討伐にも寄与きよした二人に、名誉騎士爵を授けたい」

 公爵がそう言うと、良一とココは拍手で壇上に迎えられた。

「石川良一」

 名前を呼ばれた良一は、公爵の前に進み出る。

なんじを名誉騎士爵として王に代わり爵位を授与する」
「謹んでお受けいたします」

 良一がそう言って頭を下げると、一際ひときわ大きな拍手はくしゅが湧き起こる。
 同じ流れで、隣にいるココも爵位を授かった。

「これにて、ドラゴン討伐の功労者への勲章および爵位授与式を終了する」

 案外あっという間に爵位授与式は終わり、公爵、男爵、続いてグスタール将軍も退場していく。
 良一達も退場すべきか迷っていたところ、文官の一人が声をかけてきた。

「石川様、ガベルディアス様、どうぞこちらにお越しください」

 文官の後についていくと大ホールを出て、そのまま近くの談話室に通される。
 中にはグスタール将軍、ギレール男爵、マセキス、ユリウスなど、見知った顔が何人もいた。

「授与式、ご苦労だった。これで君達もカレスライア王国の貴族になったわけだ。とはいえ、名誉騎士爵という肩書きは、このメラサル島だけでしか通じない。王都のあるカレスティア大陸、モトラ侯爵が治めるフミレラ島、ケスロール伯爵が治めるキセロス島などでは、貴族と認められないから、そのつもりでいてくれ」

 グスタール将軍は貴族制度に馴染なじみがないであろう良一達に向けて名誉騎士爵の説明をした。

「なるほど……」
「名誉騎士爵は、貴族になるための足掛かりでしかない。ここから功績を積み重ねれば、騎士爵になれるだろう」

 グスタール将軍の話に合わせるようにギレール男爵も口を開く。

「私の家系も曽祖父そうそふが名誉騎士爵を授かってから功績を重ね、父の代でエラルの領主になり、男爵位にじょされたのだよ」
「そういうことだ。君達には是非とも名誉爵位ではない貴族になってもらいたい」

 良一はなんと返事をすれば良いか分からず、ただだまって一礼したのみだった。

「ドラゴンに立ち向かう強さがあり、神の加護も付いているとあっては、将軍が石川君達に期待するのも当然ですな。最近は王都の貴族が力をつけすぎている。島にいる私達は同じ爵位でも一つ下に見られて肩身がせまい。現状を打開するには、島出身貴族の数を増やして発言力を強めるしかないのです。おっと、ついいらぬことを口走ってしまいました」

 思わずこぼれた男爵の愚痴に、将軍は苦笑いする。


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