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2巻
2-1
しおりを挟む一章 貴族になりませんか
石川良一――二十三歳独身。
日本で父親から引き継いだ電気工事店を営んでいた彼は、不思議なサイトを閲覧したことをきっかけに、スターリアと呼ばれる異世界に転移した。
現在の肩書きは……一応、冒険者である。
彼は異世界転移の定番であるドラゴンの討伐をすでに成し遂げていた。
この功績を評価され、彼には近々名誉貴族の爵位が授与される予定だ。
メラサル島に突如現れた黒いドラゴンは、良一達が生活の拠点にしていたイーアス村を含む島の各所に大きな被害をもたらし、村人達は今も森の奥の遺跡群で避難生活を送っている。
しかし、良一達の活躍によって元凶のドラゴンが討伐され、事態が収束したため、みんな村へと帰る準備を進めているところだ。
「良一兄さん、騎士の人が迎えに来ました」
青い髪の少女の声に応え、良一が立ち上がる。
「ありがとうメア、すぐ行くよ」
メアは良一が異世界に来てから家族になった少女の一人だ。両親を亡くして生活に困っていたところを助けた縁で、妹のモア共々彼が引き取り、一緒に生活している。
「石川良一様、お迎えに上がらせていただきました」
「ユリウスさん、公都までよろしくお願いします」
騎士ユリウスは、良一と一緒にドラゴンを討伐した騎士団の一員で、ドラゴン討伐隊の団長であるグスタール将軍の腹心の部下でもある。
良一達はこれからユリウスらに護衛されながら、メラサル島における最大の都市である公都グレヴァールへと向かうことになっていた。
「事前の打ち合わせどおり、同行されるのは、妹君のメア様とモア様、ドラゴン討伐の功労者、ココ様、それに……エルフの神官のマアロ様の四名ですね?」
「はい、そうです」
「メア様以外の方は外に出かけられているのですか?」
「良一兄さん、モアは友達に挨拶に行くって言って、ココさん達と出かけちゃいました。私、探してきますね」
メアは慌てて妹を探しに飛び出していく。
「ちょっと待って、俺も一緒に行くよ。すみません、ユリウスさん。すぐに呼んできます」
「いえいえ、急ぎの旅ではありませんので、ゆっくり挨拶を済ませてください」
良一はユリウスに一言断りを入れて、メアと一緒にモア達を探しに出かけることにした。
「モアちゃん、また遊ぼうね」
「うん、いっぱい遊ぼうね」
遺跡群の奥からモアの元気な声が聞こえる。
良一達が足を向けると、そこには同い年くらいの女の子達と楽しそうに話すモアと、付近の木陰からその様子を見守る女性が二人いた。
腰に片刃の刀を下げ、黒く長い髪から犬耳が覗く美女がココ。金髪に碧眼で小柄なエルフがマアロである。
「良一兄ちゃん!」
友達と笑いあっていたモアが、歩いてきた良一とメアに気づいて駆け寄る。
「友達とは挨拶できたのか?」
「ちゃんとみんなに挨拶してきたよ」
明るい笑顔で話してくるモアの青い髪を軽く撫で、良一はココとマアロに迎えが来たと伝えた。
「騎士の方がもうお見えなんですね」
「良一、ドーナツ」
話の流れを無視して自分の欲望を口にするマアロに、良一は苦笑を禁じ得なかった。
ちょうど良一達が合流したところに、イーアス村の村長が歩いてきた。
「石川君、どうやらもう公都に向かうらしいな。明日、ここに避難している村民全員で、イーアス村に戻ろうと思っている。村は半壊してしまったが、君のおかげで村民に犠牲を出さずに済んだ。改めて礼を言うよ」
「いえ、当然のことをしたまでです。皆さんにもよろしくお伝えください」
一通り顔見知りに挨拶を済ませてユリウスのもとへ帰ろうとすると、モアが良一の袖を引っ張った。
「良一兄ちゃん、〝みっちゃん〟の所に行ってバイバイしなきゃ」
「それもそうだな、みんなで行くか」
数分歩いて、良一が建て直した倉庫の一室に行くと、ディスプレイが自動で起動し、モアが命名した人格保持型AI〝みっちゃん〟が挨拶をしてきた。
この遺跡は魔導甲機と呼ばれるロボットのテスト施設だった場所で、こうした〝魔素〟を動力源とした機械装置――魔導機、あるいは魔道具と呼ばれる物が残されている。
「おはようございます。ご用件をお伺いします」
「みっちゃん、バイバイしにきたの」
「そうですか、寂しくなります。是非また会いにきてください」
コンピュータながらに見事な社交辞令を口にしたみっちゃんが、さらに続ける。
「皆様の手首に装着されているデバイスにOSを登録できますが、いかがなさいますか?」
言葉の意味が理解できずにポカンとしている一同に代わり、良一が尋ねる。
「それは、どんなOSなの? たとえば、みっちゃんとか?」
「はい。何種類かありますが、私もインストールすることが可能です」
「そうか、なら全員のデバイスにみっちゃんをインストールしてくれ」
「かしこまりました。インストールを開始します。終了予定時間は二分後です」
あっという間にインストールが終わり、良一達が身につけている腕時計型デバイスにディスプレイと同じみっちゃんの顔が映し出され、みんなが驚きの声を上げた。
良一のデバイスからも、みっちゃんが音声で説明をはじめた。
「デバイスとの同期が完了しました。マスターデータはこの建造物の魔導機器ですので、通信は衛星を介して行います。ただ、今の通信状況は衛星に接続できないため、スタンドアローン状態です」
「このデバイスのことを何も知らないんだけど、何ができるの」
良一はこの遺跡で発見した腕時計型デバイスについて、改めて説明を求めた。
「本デバイス、携帯型マルチサポートデバイスは、通話機能、GPS機能、カメラ機能等、様々な機能を備えています」
「まるで携帯電話だな。衛星と接続が切れた状態だと、通話機能って使用できないのかな?」
「いえ、魔素がある場所ならば、デバイス間の距離が五キロメートル以内に限って直接通話可能です」
「じゃあ、試しにココのデバイスに通話したいんだけど」
「かしこまりました。通話を開始します」
すると、ココのデバイスから甲高い呼び出し音が流れた。
初めて聞く不思議な音色に、みんなが慌てふためいているのを見て苦笑しながら、良一はココにデバイスをタッチするように促す。
すると、良一のデバイスの画面にココの驚き顔が映し出された。
良一は試しに倉庫から出て通話してみたが、ノイズもなくハッキリとした会話ができた。
「その他の機能も、通信が必要な機能には制限がかかりますが、OSをインストールしたことにより、スタンドアローンで使用可能になりました」
「そうか。不明点があったら聞くから、またその時に詳しい説明をしてくれ」
良一は機器の電源を落とし、互いに通話をしてはしゃいでいる四人を呼びに戻った。
「おーい、ユリウスさんを待たせているんだ。遊ぶなら後にしようか」
「は~い」
手首のデバイスをあれこれ触り続ける四人を急かし、良一はユリウスが待つ仮設住居に戻ったのだった。
◆◆◆
「それじゃあギオ師匠、またしばらく旅に出ます」
「ドラゴン騒ぎが収まって、今度は公都とは……やれやれ、忙しいな、良一。まあ、若くて力もあるんだ、心配はないか。思う存分経験を積みな」
「ギオ師匠には、木こりのことをまだまだ教わっている最中だったのに、すみません」
「基本はもう教えてある。後は数をこなして修業だな」
良一は公都に行った後、しばらくイーアス村には戻らず、他の町を見て歩くことにしており、ギオ達もそれは知っていた。
「いつでも遊びに来い。妹達も含めて歓迎するからよ」
イーアス村で定宿にしていた〝森の泉亭〟の店主や看板娘のマリーも、良一の見送りに来ていた。
「また必ず泊まりに来てね! 部屋を空けて待ってるから」
「みんな、ありがとう。それでは、行ってきます」
湿っぽい別れの挨拶ではなく、気さくな言葉を背に受け、良一達を乗せた馬車は動きはじめた。
馬車は一路、イーアス村とドワーフの里との間にあるドラゴン討伐軍の宿営地を目指す。そこで討伐軍と合流し、公都へと向かう予定だ。
公都に到着した後はホーレンス公爵主催の名誉騎士爵位の授与式、さらに祝勝式典が待っているらしい。
そんな説明を受けながら移動を続けることしばらく。日が暮れる頃に今日の野営地に到着した。
「討伐軍のキャンプまではまだかかります。今日はここで野営をしなければならないのですが、荷物の関係上、石川様達には三人用のテントを二つしかご用意できませんでした。どなたが使われるかは、そちらでお決めください」
ユリウスは部下と協力して見事な手際でテントを二つ建てた。
「ココ姉ちゃんと一緒に寝る」
「私も、ココ姉さんと一緒がいいです」
「分かった。二人とも一緒に寝よ」
ココは授爵式の後に故郷に戻る予定だと聞き、このところメアとモアは彼女にベッタリだ。
「じゃあ、俺はマアロと一緒のテントか」
「え、何するつもり?」
わざとらしく自身の体を抱きしめながら体をくねらせるマアロを見て、良一がため息をこぼす。
「はいはい、マアロの魅力にメロメロだよ」
「心がこもってない」
いい加減な返事をしてさっさとテントに向かう良一の背中を、マアロが不満げにポスンと殴った。
「マアロは神官様だろ、神様に身も心も捧げているんじゃないのか?」
「私が信仰しているのは水の属性神ウンディーレ様。ウンディーレ様は女神だから……」
「だから、なんだよ」
「教えない」
からかいすぎたせいか、マアロは頬を膨らませて良一よりも先に立って歩く。
しかし、不意に立ち止まると、彼女は一層不機嫌な顔で振り向いた。
「ここは後ろから抱きしめて、謝るところ」
「なんでそうなる……」
少女マンガのような展開を期待するマアロを軽く流して、良一は靴を脱ぎ、自分達に割り当てられたテントに入り込んだ。
「軍人さんが使うテントだからか、三人用といっても、結構大きいな」
「本当に大きい」
寝転ぶ良一のすぐ隣に、マアロも転がり込んできた。
「少し近いぞ。これだけ大きいテントなら、お前はメア達のテントに行ってもいいんじゃないか?」
「三人で楽しく過ごさせたい」
「そうは言ってもなあ」
「私も楽しい」
マアロは寝転んだまま体を回転させて、良一に体を寄せる。外見的には幼いマアロに欲情する良一ではないが、美少女が側にいて嬉しくないわけではない。
「あー!? 良一兄ちゃんとマアロちゃんがくっついてる! モアもー!!」
突然、良一達のテントに現れたモアが、靴を脱ぎ捨てて良一の体に飛び込んで……馬乗りになった。
「良一兄さん。マアロさんと何をしているんですか。わ、わたしもします」
普段は窘める側のメアだが、珍しくマアロと反対側に寝っ転がってくっついてきた。
良一の両隣にマアロとメア、良一の腹の上にモアと、突如発生したおしくらまんじゅう状態を見て、テントの入り口から中を窺うココが呟く。
「良一さん。私、三人を良一さんのもとに残して離れるのが不安になってきました」
「いやいや、心配するようなことは何もないから」
少女達にもみくちゃにされながら言っても、まるで説得力はなかった。
野営地での一泊は賑やかに終わり、翌日の昼前にはグスタール将軍率いるドラゴン討伐軍のキャンプ地にたどり着いた。
挨拶をするために五人で指揮所に向かうと、書類を読んでいたグスタール将軍が立ち上がって出迎えた。
「久しぶりだね、石川君。遠路ようこそ。君達の公都までの安全は、我々が保障しよう」
「グスタール将軍、公都までの旅に同行させていただき、ありがとうございます」
「いやいや、ドラゴン討伐の功労者を公都に送り届けるのも、我が討伐軍の任務の一つだよ」
グスタール将軍は良一の隣に緊張の面持ちで立つメアとモアに目を向けた。
「こんにちは、お嬢さん」
「こ、こんにちは、石川メアです」
「石川モアです!」
メアはつっかえながら、モアは片手を上げて元気よく、将軍に挨拶をした。
「カレスライア王国騎士団遠方将軍のグスタールだ。石川君の妹さん達は実に可愛らしいな」
「ありがとうございます。自慢の妹です」
「そうか。私にも王都に孫がいてね。将軍として王国中を回っているとなかなか顔を見ることができないんだが、お嬢さん達に負けず劣らず可愛いんだ、うちの娘も」
傷のある厳つい顔を緩めて、軍人ではなく祖父としての一面を見せるグスタール将軍は、同席している部下に促されて、話を進める。
「……ところで、石川君。聞くところによると、君はとても美味しい、異国の――誰も味わったことがない料理を作るそうじゃないか」
「そんな大袈裟な。故郷の庶民が食べる簡単な料理しか作りませんよ」
「いやいや、是非とも何か料理を作ってはもらえないか? 勿論、相応の謝礼金は出す。食材も、ここにあるものならいくらでも使ってもらって構わない。どうかな、作ってはもらえないか?」
言葉の上ではお願いだが、強面の将軍に頼まれて断るのは難しい。おまけに、周りでは美味い飯と聞いて騎士達が目を輝かせているのだから、拒否権はないに等しい。
「では、僭越ながら、何か作らせていただきます」
「そうか、引き受けてくれるか。では、この男が討伐軍の食事の責任者だ。食材の準備や調理場については、全て彼に聞いてくれ」
グスタール将軍はそう言い残すと、書類仕事の残務処理のために指揮所から出ていった。
「初めまして、討伐軍の食事を任されておりますワンドです。よろしくお願いいたします」
その場に残ったワンドが一礼し、互いに自己紹介をする。
「石川良一です。なんだかいきなりのことですけど、こちらこそお願いします」
「では、早速食材を保管してある場所に行きましょう」
メアやモアも手伝いたがったが、今回は普段と勝手が違うので、待っているように言った。
ワンドに案内されて着いた場所には、食材を満載した荷馬車が停まっていた。
「食材はこちらの馬車に積み込んであるものをなんでも使ってください」
「大量ですね」
「ええ、二百人以上の兵士を食べさせないといけませんから」
馬車の中を見てみると、穀物の袋や保存用のパン、肉類、ジャガイモやニンジンにタマネギにキャベツといった野菜が置いてあった。野菜は地球のものと比べると品質のばらつきが大きいが、調理に問題はなさそうだ。一方、肉はモンスターを解体したものがほとんどだった。
「それで、今日はどんな料理を教えてくれるのですか?」
「そうですね……鶏肉はあるみたいだから……」
将軍だけに料理を作るなら凝った料理を考えるところだが、先ほど周りにいた騎士達の顔を思い出す限り、彼らの分も作っておかないと、恨みを買いそうで怖い。
「じゃあ、唐揚げと野菜の素揚げにしようかなと」
「唐揚げ、ですか?」
「鶏肉を油で揚げる料理です」
「油で!? それはまた珍しい調理法ですね。まずは何をお手伝いいたしましょう」
「キャベツを千切りにしてもらえますか」
「かしこまりました」
とにかく量を作ろうと、ワンドの部下に手伝ってもらいながら鶏肉を一口大に切り分け、塩、胡椒とおろしニンニクで下拵えをした後、唐揚げ粉をまぶして、油で揚げていく。
肉と野菜は提供されたものだが、調味料や油、小麦粉、片栗粉などは良一が提供した。
クッキングシートの上に次々と並んでいく揚げたての唐揚げを一つ手に取り、ワンドは試食と称して口に運ぶ。
「この唐揚げと呼ばれる料理は実に美味しいですね。何より、食感が良い」
熱そうに頬張りながら、惜しみない称賛を送るワンド。
「調理と成長の神ケレス様の加護を受けている私は、これまで様々な料理を作り、食してきましたが、単純に見えてこれほどまでに奥深い味わいの料理を知ることができて、幸せです。この唐揚げならば、グスタール将軍も喜ばれるでしょう」
大量の唐揚げを揚げ終わったところで、ジャガイモやタマネギをスライスしたものを素揚げして、キャベツと一緒に付け合わせに添えて、料理は完成した。
グスタール将軍をはじめとする高官達が食事をとる天幕に、良一達五人も招待されていた。
「これが石川君の故郷の唐揚げという料理か。ワンドが太鼓判を押すだけあって、確かに良い匂いだ。では早速」
将軍は挨拶もそこそこに揚げたての唐揚げを一口で食べる。
「これは美味い。王城で出される格式高い料理よりも好きな味だ。ついつい酒が進む」
唐揚げはグスタール将軍にも好評なようだ。
良一の父親は生前、脂っこい料理は胃がもたれると言ってあまり食べなかったのだが、ここに集まった者達はやはり軍人だからか、父親と同じかそれ以上の歳に見えるのに、次々と唐揚げを平らげていく。
「良一兄ちゃん、唐揚げ美味しいね」
「熱いですけど、とても美味しいです」
笑顔で頬張るモアとメアを見て、やはり唐揚げは子供の好物だな、と良一は頬を綻ばせた。
ココとマアロも将軍の前とあってがっつきはしていないものの、上品な所作で――それでも将軍達よりも速いペースで――唐揚げを口に運んでいる。
「軍務に当たっていると楽しみが少なくてな。食事にはこだわっているのだが、これはワンドの料理に匹敵する美味さ。まさしく絶品だ」
大好評のうちに夕食は終わり、食後のお茶を嗜みながら、話題は明日からの予定に変わった。
「明日から公都グレヴァールに向かうわけだが……コロック騎士隊長、このキャンプ地からだと、公都までおよそ五日といったところか?」
「その通りです、将軍。ドワスの町から先は街道が整備されているため、飛ばせば四日で行けますが、ドラゴン討伐の報せは早馬を出してあるので、急ぐ必要はありません」
グスタール将軍に意見を求められたのは、公都グレヴァールのホーレンス公爵麾下の騎士隊長三人のうちの一人らしい。外見は三十代で、若いながらもその腕を買われているのが窺える。
「石川君達はこちらの馬車で公都まで送り届けるから、安心してもらいたい」
「ありがとうございます」
「良一さん、そろそろ……」
会話を続ける良一に、ココが小声で囁き、視線でモア達を示した。
腹が膨れた上にお偉方との会食で若干緊張していたのもあってか、メアとモアはすでに目がトロンとしていて、必死で眠気を堪えている様子だ。
「将軍、明日も早いので、そろそろ失礼させていただこうかと」
「おお、すまない。つい長いこと引き留めてしまった。それでは、また明朝としよう」
グスタール将軍もモア達の様子を察して、場はお開きになった。
テントを出てココ達と別れた良一の背中に、マアロが声をかける。
「良一、今夜も二人だけだね……げぷ」
「そうだな、唐揚げの食いすぎでお腹をポッコリさせながら言われても台無しだけどな」
艶のある声を出そうとしたマアロだったが、食べすぎで苦しそうな声になり、色々と残念としか言いようがなかった。
「ほら、胃薬やるから呑んでおけ」
「ありがとう、良一」
当然、そんなマアロと艶っぽい話があるわけもなく、夜は更けていくのだった。
ユリウスが御者を務める馬車に揺られ、良一達はすることもなく公都までの旅を送った。
馬車の中には毛布やクッションを敷き詰めるなどして走行時の揺れを抑えてあるので、比較的快適だ。
魔法書を読んだりモアに絵本を読んであげたりして過ごしていると、あっという間に農業都市エラルまでたどり着いた。
エラルで一泊するということで、良一達にはテントではなく、宿の部屋が割り当てられている。
夕食を食べ終えた良一が部屋でくつろいでいると、扉がノックされた。
「石川さん、お久しぶりです」
訪ねてきたのは、ドラゴン退治のもう一人の功労者でもある、元Aランク冒険者のマセキスだった。
「マセキスさん、お久しぶりです」
「お元気そうで何よりです。ドラゴン討伐後は男爵様の軍の問題でゴタゴタしていて、しばらく手が離せませんでした」
「こちらこそ、お礼を言わなきゃと思っていました。ドラゴンを倒しきれずに危なかったところにマセキスさんが来てくれて、助かりました」
挨拶もそこそこに、マセキスは話をはじめる。
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