揺れる想い

古紫汐桜

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僥倖

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「さ~とし、起きて」
 頬をペチペチと叩かれて瞼を開けると、俺の顔を頬杖着いて微笑みながら見つめる田上が居る。
「た……がみ?」
目を擦りながら呟くと、田上は目を丸くして
「大丈夫?まだ寝惚けてる?」
そう言って、俺の顔を覗き込む。
グルリと部屋を見回し
(あぁ……そうか。ここは俺の……俺達の部屋か……)
ぼんやりと考えながら、田上の腕を掴んで抱き寄せる。
「もう!起こしてるんだから、早く起きて!」
頬を膨らませる田上こと、今は俺の彼女で、今日、俺の苗字になる優里に微笑み返す。
ギュッと抱き締めると
「ちょっと、役所に寄ってから式場に行くんでしょう?遅刻しちゃうよ」
と、俺の腕を叩く優里に
「優里と出会った頃からの夢を見てた」
そう呟くと、抵抗していた優里の動きが止まる。
「なぁ……もし、もしあの日、長塚が俺と同じ行動をしていたら」
と呟き掛けた俺の唇を、優里の細くて長い指が触れて遮る。
「あのね……タラレバは、あの時こうだったら今より幸せだっただろうな~って時に使うものなの。私は、今が一番幸せだから、そんなタラレバは聞きたくありません」
そう言って微笑んだ。
そんな優里に微笑み返すと
「だからほら、早く起きて」
頬にキスして、優里がベッドから抜け出す。今では当たり前のように、俺の隣に居る優里。
ベッドから起き上がりリビングに行くと、優里が朝食の準備をしていた。
これから毎日、この光景が続くのだと幸せを噛み締めながら食卓についた。

 修学旅行が終わった帰り道、俺と田上は神社で初めてキスをした。
でもそれが始まりだった訳ではなく、田上は修学旅行が終わって直ぐに、長塚と別れたのは知っていた。
だからと言って、直ぐに俺と付き合う……という事にはならなかった。
それでも、学校の行き帰りはもちろん、田上の隣は俺の場所になった。
「まだ、長塚君への気持ちも整理出来ないのに付き合えない」
と言ってはいたけど、田上の友達の問題もあったのは分かっていたから、俺は焦らずゆっくりと田上の気持ちが固まるのを待っていた。
俺が幸運だったのは、俺と田上が付き合うのをクラス奴等が応援してくれていたからだ。みんなのお陰で付き合い初めても、俺は田上が長塚と別れたのも、田上が俺と付き合い始めたのも……降って湧いた幸運が重なっただけだと思っていた。
だから正直、付き合い出した当初は不安でいっぱいだった。
田上の中の長塚を消し去りたくて……、焦っていたんだと思う。
俺の中で、あの日……一瞬で田上を塗り替えた長塚が脅威だった。
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