揺れる想い

古紫汐桜

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田川君の好きな人

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外人さんにお願いされたのは、私達がカメラに向かってにっこり……では無く、自然な写真が欲しいという話らしかった。
なので、適当に数枚撮らせてね!的な趣旨では無いか?と、田川君談。
(英語だからね。お互い、そんなにきちんと理解してない)
だから、糺の森で終わったかと思っていた!
驚いている私達に、海外の方達が
「とても良い顔をしていたから」
(多分ね)と言っていた。
写した画像を見せてもらうと、楽しそうに笑う田川君と私が写し出されていた。
「cute couple」
みたいな単語が聞こえて思わず慌ててしまったが、良く考えたら、英語でカップルは恋人という意味に限定してはいないかぁ~と、田川君も否定しないし、私も敢えて否定はせずにスルーしといた。
その後、その海外の方達と一緒にさるやさんでお茶をしてからバイバイした。
(写真のお礼に、申餅をもらってしまった)

「いやぁ~、楽しかったね」
スマホの翻訳アプリを駆使しながら、カタコトの英語と海外の方の英語とカタコトの日本語でのほんの少しの海外交流。
着物の人を撮影しているらしく、舞妓さんの写真とかも見せてもらった。
海外の方々とは、さるやさんでお別れ。
(又、会うかもだけど……)

  田川君と歩きながら、次の目的地「さざれ石」に到着。
「これって、いわゆる昔のパワーストーン的な?」
「お前が言うと、折角の神聖な石が軽くなる」
「失礼ね!」
「本当の事だろうが!」
口論しながらも、次の目的地である相生社に到着。
「おぉ!ここが縁結びの神様!」
「お社の左側にまつられている京都の七不思議?連理の賢木れんりのさかきってのが縁結びの御神木って書いてあるぞ」
田川君に言われて、赤い鳥居の先に木が祀られている御神木を2人で並んで見上げる。
見上げて、ハタと気付いた。
「あぁ!」
叫んだ私に、田川君が驚いて私の顔を見た。
「なんだよ!ビビった!」
と呟く田川君に
「ごめん!私と見たら、駄目じゃない?」
今更ながら気が付いた。
縁結びの神様にお願いするのに、他の人を連れてたら駄目じゃない?
間違われちゃうよ。
慌てて
「田川君、私から離れて!私も離れるから!」
そう言って前に踏み出し、着物だったのを忘れて前につんのめる。
「危ない!」
そう言われて抱き留められて
「お前はバカか?」
って額を叩かれた。
胸がドキドキ高鳴るのは、驚いたせいだよね。
そう思っていると
「良いから、大人しくしていなさい!」
と怒られながら、手を握られて田川君を見上げる。
「でも、私と縁結びの神様見たら、間違われちゃうよ」
俯いてポツリと呟く。
その時、私は気が付いてしまった。
修学旅行で、いつの間にか田川君が隣に居るのが当たり前になっているって……。
隣に田川君の居るこの空気感に、いつの間にか安心している自分に驚いた。
「どうした?」
私の顔を覗き込む田川君に、ドキリと心臓が高鳴る。
(待って待って待って!田川君は青山さんが好きなんだし、亀ちゃんの好きな人なんだってば!)
混乱してパニックっていると、
「間違われねぇよ」
ポツリと言われて、田川君の顔を見上げた。
「俺、修学旅行が終わっても、お前の隣を譲るつもりないから」
そう言われて、誰に?と言わなくても分かっている。
私の手を握り締める田川君の手の強さが、田川君の気持ちを伝えてくれた。
「え?田川君の好きな人って、青山さんじゃないの?」
思わず訊いてしまうと、田川君が驚いた顔をして私を見た。
「なんで青山?」
「え?だって旅行前に、長塚君とバチバチ火花散らしていたじゃない?」
そう答えると、『はぁ~~~』って深い溜め息を吐いてしゃがみこんだ。
そして額を抱えると
「そうだったな。お前に察しろとか、気が付けとか土台無理な話だったわ」
と言われて首を傾げる。
その時、ふわりと心地良い風が通り抜けた。
一瞬だけ風に意識を向けていると
「好きだ」
って、小さな声が聞こえた……ような気がする。
「え?」
驚いて田川君を見ると、首まで真っ赤にしてそっぽを向いている。
「ほら!気が済んだなら次に行くぞ!」
って、手を引かれたまま歩き出す。
(え?今、好きって言った?)
驚いている私に
「別に……直ぐどうこうとか、無理なの分かってるから」
少しだけ前を歩く田川君の言葉に、私は小さく頷いた。
自分の気持ちをきちんとしないと、前にも後ろにも進めない。
「ありがとう」
ポツリと呟くと、田川君が弾かれたように振り向いた。
「あ!あの、今すぐどうこうは出来ないけど……、考えてみる」
私の言葉に、田川君が驚いた顔からクシャッと笑顔になって
「やった!」
って、小さくガッツポーズしているのが目に入った。
田川君と一緒に居ると、心の中がふんわりと温かい気持ちになる。
少し気恥しい気持ちを抱えながら、私と田川君は残りの下鴨神社を2人で歩いて回った。
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