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突然の別れ
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「恭弥……?」
不安で恭弥の顔を見上げると、恭弥は一瞬、辛そうに眉を寄せると、僕から目を逸らして頬に触れていた手を放した。
それはまるでスローモーションのように、恭弥の大きな手が弧を描いてゆっくりと降りて行く。
僕が「嫌だ!」と叫びそうになったその時だった。
「あら、月夜さん。何で貴方が本邸の玄関前にいらっしゃるの?」
僕の背後から、聞き覚えのある冷たい声が聞こえた。
思わず縮み上がると、ゆっくりと声の主が歩み寄って来るのが分かる。
恐怖で固まっていると、恭弥がそっと僕の腕を掴んで歩き出した。
「お母様、すみません。僕が月夜を引き留めました。今、離れに連れて行きます」
そう言うと
「お待ちなさい!」
と、珍しく恭弥の母親である敦子様が引き留めた。
僕がビクリと肩を揺らすと、恭弥はそっと気遣うように僕の肩を抱いて無視して歩き出す。
「恭弥さんも、いつまでその男を大事になさっていらっしゃるの!もう無関係なんですから、守る必要などないのですよ!」
僕の背中に吐き捨てるように言われて、僕は思わず驚いて敦子様の顔を見てしまった。
10年以上経過しても、変わらずに僕に向ける視線は冷たい。
蔑むような視線を僕に向けると
「本当に…鵜森の男は憎らしい顔をしている」
汚らわしいと言わんばかりに言われて、僕が視線を落とすと
「そうやって…鵜森の男は相楽の男を駄目にするのよ…」
と呟き
「私から兄様を奪ったように」
そうぽつりと呟いた。
(え……?)
驚いて敦子様の顔を見ると、僕を憎しみを込めた目で見つめて
「本当に…汚らわしい子」
と、吐き捨てるように言い捨てて玄関へと入って行ってしまった。
恭弥は大きな溜め息を吐くと
「気にするな」
とだけ呟き、僕を離れまで肩を抱いて連れて行ってくれた。
離れの入り口に着くと
「多分…来週にはお前の実家に帰れると思う。今まで悪かったな」
そう言うと、恭弥は踵を返して歩き出した。
このまま離れたら、もう、2度と本音で話せなくなると思った。
僕は必死に恭弥の背中に抱き着いた。
「待って!終わるにしても、こんな終わり方じゃ納得出来ないよ」
そう叫んだ僕に、恭弥は抱き締めた僕の腕を解いて
「お前は…運命の番と一緒になった方が幸せになれる」
と呟いた。
そして
「お前はいつだったか、自分が呪われた子だと言っていたな。それは俺の方なんだよ。俺は…」
そう言い掛けて、恭弥は唇を噛み締めて押し黙ってしまった。
その姿は、何かを1人で背負っているようだった。
「恭弥、何があったんだよ!お前、急に変だよ!」
必死に食い下がった僕に、恭弥は瞳から涙を一雫流して
「俺は…相楽の汚れた血の結晶なんだよ」
そう言うと
「俺には…お前に触れる資格が無いんだ。だから月夜…お前だけは幸せになれ」
と言うと、さよならを言うようなキスを僕の唇に落とした。
僕はそれ以上、言葉を発する事が出来なかった。
不安で恭弥の顔を見上げると、恭弥は一瞬、辛そうに眉を寄せると、僕から目を逸らして頬に触れていた手を放した。
それはまるでスローモーションのように、恭弥の大きな手が弧を描いてゆっくりと降りて行く。
僕が「嫌だ!」と叫びそうになったその時だった。
「あら、月夜さん。何で貴方が本邸の玄関前にいらっしゃるの?」
僕の背後から、聞き覚えのある冷たい声が聞こえた。
思わず縮み上がると、ゆっくりと声の主が歩み寄って来るのが分かる。
恐怖で固まっていると、恭弥がそっと僕の腕を掴んで歩き出した。
「お母様、すみません。僕が月夜を引き留めました。今、離れに連れて行きます」
そう言うと
「お待ちなさい!」
と、珍しく恭弥の母親である敦子様が引き留めた。
僕がビクリと肩を揺らすと、恭弥はそっと気遣うように僕の肩を抱いて無視して歩き出す。
「恭弥さんも、いつまでその男を大事になさっていらっしゃるの!もう無関係なんですから、守る必要などないのですよ!」
僕の背中に吐き捨てるように言われて、僕は思わず驚いて敦子様の顔を見てしまった。
10年以上経過しても、変わらずに僕に向ける視線は冷たい。
蔑むような視線を僕に向けると
「本当に…鵜森の男は憎らしい顔をしている」
汚らわしいと言わんばかりに言われて、僕が視線を落とすと
「そうやって…鵜森の男は相楽の男を駄目にするのよ…」
と呟き
「私から兄様を奪ったように」
そうぽつりと呟いた。
(え……?)
驚いて敦子様の顔を見ると、僕を憎しみを込めた目で見つめて
「本当に…汚らわしい子」
と、吐き捨てるように言い捨てて玄関へと入って行ってしまった。
恭弥は大きな溜め息を吐くと
「気にするな」
とだけ呟き、僕を離れまで肩を抱いて連れて行ってくれた。
離れの入り口に着くと
「多分…来週にはお前の実家に帰れると思う。今まで悪かったな」
そう言うと、恭弥は踵を返して歩き出した。
このまま離れたら、もう、2度と本音で話せなくなると思った。
僕は必死に恭弥の背中に抱き着いた。
「待って!終わるにしても、こんな終わり方じゃ納得出来ないよ」
そう叫んだ僕に、恭弥は抱き締めた僕の腕を解いて
「お前は…運命の番と一緒になった方が幸せになれる」
と呟いた。
そして
「お前はいつだったか、自分が呪われた子だと言っていたな。それは俺の方なんだよ。俺は…」
そう言い掛けて、恭弥は唇を噛み締めて押し黙ってしまった。
その姿は、何かを1人で背負っているようだった。
「恭弥、何があったんだよ!お前、急に変だよ!」
必死に食い下がった僕に、恭弥は瞳から涙を一雫流して
「俺は…相楽の汚れた血の結晶なんだよ」
そう言うと
「俺には…お前に触れる資格が無いんだ。だから月夜…お前だけは幸せになれ」
と言うと、さよならを言うようなキスを僕の唇に落とした。
僕はそれ以上、言葉を発する事が出来なかった。
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