宵の月

古紫汐桜

文字の大きさ
上 下
1 / 33

呪われた血

しおりを挟む
人の人生は、生まれた場所で全てが決まる。 

 僕は地方の二代名家の一つ、鵜森家の長男として生まれた。
僕の生家である鵜森家と二代名家のもう一つ、相楽家とは代々深い縁故関係を続けている。
なんでも遥か昔、鵜森家があらぬ疑いを掛けられ、その時の当主に一族郎党抹殺命令が出されそうな所を助けてくれたのが相楽家だったらしい。
その時、鵜森家の長男を相楽家に陰間として差し出す約束を交わした。
鵜森家の男は代々、それは見目麗しい男の子が生まれており
「男ならば孕まぬからな……、遊び相手によかろう」
そう言われて、代々鵜森家の長男は相楽家当主の慰みものとして引き渡されて来た。

   時は流れ……この世に新たなバース性と言う性別が現れた。
全てを兼ね備え、美貌、叡智と、将来を約束されたα。
人数も多く、一般的なβ
そして第3の性独特の性……Ωだ。
相楽家は代々、当主になるのは優秀なαと任められた者だった。
そんな時、相楽家には恭弥が。
鵜森家には僕が生まれた。
今は医学が進歩して、生まれた時点で50%のバース性が分かってしまう。
恭弥はα、そして僕は……呪われたΩとして生まれてしまった。
それでも隠れαや隠れΩがあることから、バース性がほぼ確定される高校入学までは何度も検査を受けた。
でも僕は、何度検査しても結果はΩ
Ωはαの子を身篭ると、高い確率でαの中でも優れたαを産み落とすと言われている。
バース性が現れた頃、Ωはそれはそれは酷い扱いを受けていたそうだ。
そのせいで数が激減し、今や都市伝説並になっていた。
そんな中で僕が生まれ、バース性がΩの確率が高いと言われて相楽家は狂喜乱舞だったらしい。
5歳の時に相楽家に引き取られ、僕は恭弥の番になるべく教育を受けさせられ続けた。
ただ、ずっと相楽家に良いようにされて来た鵜森家だって黙ってはいない。
相楽家に引き渡されるその日。
祖母は僕の首に貞操帯を着けて、恭弥に噛まれないようにしたのだ。
鍵の在処は祖母と僕しか知らない。
その貞操帯は不思議な素材で出来ていて、皮膚のようにフィットして、成長と共に伸びているようだった。
僕はこの貞操帯に守られ、今日まで恭弥に何度も項を噛まれても無事に過ごせている。

  恭弥は頭脳明晰、容姿端麗、スポーツ万能のスーパーマン。そんな相手が番なら、申し分無いだろうと誰もが口を揃えて言う。
でも、愛の無い欲望を吐き出す為にしか僕を抱かない恭弥に、僕の心は冷え切っていた。
初めて抱かれたのは小学校5年生の時。
現当主の相手……、つまり僕の父親に男の抱き方をレクチャーを受けた最終試験で無理矢理抱かれたのだ。
僕の父親は鵜森家の長男として生まれ、中学からこの相楽家に引き渡されて暮らしている。
本来、鵜森家の男は女を抱けないのだが、親父は相楽家の使用人の女性を妊娠させてしまったらしい。
それ以来、相楽家の当主しか入れない離れに幽閉されていると聞いている。

「おい、セックスの最中に考え事とは余裕だな……」
  毎日、恭弥の好きな時に好きな場所で身体を開かなくてはならない。
僕は今、部活後の更衣室で後ろから恭弥に貫かれていた。
「そんなに余裕なら、もっと激しくしてやらないとな!」
そう言うと、僕の両手を掴んで激しく腰を振り始めた。
「やぁ!」
仰け反り悲鳴を上げる僕に、無遠慮に打ち付けてくる恭弥を憎いとさえ思う。
顎を捕まれ、無理な体勢からキスをされる。
この愛の無い関係に、僕は意味を見出せないでいた。
「月夜、お前は誰のモノだ?」
後ろから抱き締められ囁かれる。
(ダレノモノ?……ボクハ、ボクダ……)
心の中で呟く。
「答えろ!」
最奥を深く突かれ、グリグリと腰を回しながら叫ばれて
「き……恭弥の……で……す……」
必死に言葉を紡ぐ。
恭弥のモノだと誓わされる度、僕の中で何かが剥がれて落ちて行く……。
僕はこのまま、恭弥の所有物になるしかないのだろうか?
子供だけは出来ないように、はっきりとΩと診断されて以来、ヒートの抑制剤と一緒にこっそり避妊薬を飲み続けている。
ただ、僕は未だにヒートは来ていない。
僕にとって、身体を繋げる行為は苦痛以外の何ものでもなかった。
だからなのだろうか?
僕のような呪われた鵜森の人間には、愛する人と触れ合い結ばれるのは物語の中だけの話のように思っていた。
そう……彼に出会い、全てを知るまでは……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

これがおれの運命なら

やなぎ怜
BL
才能と美貌を兼ね備えたあからさまなαであるクラスメイトの高宮祐一(たかみや・ゆういち)は、実は立花透(たちばな・とおる)の遠い親戚に当たる。ただし、透の父親は本家とは絶縁されている。巻き返しを図る透の父親はわざわざ息子を祐一と同じ高校へと進学させた。その真意はΩの息子に本家の後継ぎたる祐一の子を孕ませるため。透は父親の希望通りに進学しながらも、「急いては怪しまれる」と誤魔化しながら、その実、祐一には最低限の接触しかせず高校生活を送っていた。けれども祐一に興味を持たれてしまい……。 ※オメガバース。Ωに厳しめの世界。 ※性的表現あり。

ベータの兄と運命を信じたくないアルファの弟

須宮りんこ
BL
 男女の他にアルファ、ベータ、オメガの性別が存在する日本で生きる平沢優鶴(ひらさわゆづる)は、二十五歳のベータで平凡な会社員。両親と妹を事故で亡くしてから、血の繋がらない四つ下の弟でアルファの平沢煌(ひらさわこう)と二人きりで暮らしている。  家族が亡くなってから引きこもり状態だった煌が、通信大学のスクーリングで久しぶりに外へと出たある雨の日。理性を失くした煌が発情したオメガ男性を襲いかけているところに、優鶴は遭遇する。必死に煌を止めるものの、オメガのフェロモンにあてられた煌によって優鶴は無理やり抱かれそうになる――。 ※この作品はエブリスタとムーンライトノベルズにも掲載しています。 ※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。普段から作中に登場する事柄に関しまして、現実に起きた事件や事故を連想されやすい方はご注意ください。

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

あの日の僕らの声がする

琴葉
BL
;※オメガバース設定。「本能と理性の狭間で」の番外編。流血、弱暴力シーン有。また妊娠出産に関してメンタル弱い方注意※いつも飄々としているオメガの菅野。番のアルファ葉山もいて、幸せそうに見えていたが、実は…。衝撃の事実。

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

偽物の運命〜αの幼馴染はβの俺を愛しすぎている〜

白兪
BL
楠涼夜はカッコよくて、優しくて、明るくて、みんなの人気者だ。 しかし、1つだけ欠点がある。 彼は何故か俺、中町幹斗のことを運命の番だと思い込んでいる。 俺は平々凡々なベータであり、決して運命なんて言葉は似合わない存在であるのに。 彼に何度言い聞かせても全く信じてもらえず、ずっと俺を運命の番のように扱ってくる。 どうしたら誤解は解けるんだ…? シリアス回も終盤はありそうですが、基本的にいちゃついてるだけのハッピーな作品になりそうです。 書き慣れてはいませんが、ヤンデレ要素を頑張って取り入れたいと思っているので、温かい目で見守ってくださると嬉しいです。

僕を愛して

冰彗
BL
 一児の母親として、オメガとして小説家を生業に暮らしている五月七日心広。我が子である斐都には父親がいない。いわゆるシングルマザーだ。  ある日の折角の休日、生憎の雨に見舞われ住んでいるマンションの下の階にある共有コインランドリーに行くと三日月悠音というアルファの青年に突然「お願いです、僕と番になって下さい」と言われる。しかしアルファが苦手な心広は「無理です」と即答してしまう。 その後も何度か悠音と会う機会があったがその度に「番になりましょう」「番になって下さい」と言ってきた。

conceive love

ゆきまる。
BL
運命の番を失い、政略結婚で結ばれた二人。 不満なんて一つもないしお互いに愛し合っている。 けど……………。 ※オメガバース設定作品となります。

処理中です...