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最終話
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結婚式は、一条ご夫妻がこちらに到着した頃と合わせる事になっていた。
式には、一条ご夫妻と大槻教授。
そして何故か、小関さんが日本から駆け付けて来た。
お世話になったので、結婚する旨だけを伝えるつもりが、絶対に式に出ると言って飛んで来た。
場所は区役所の7階へ行って、結婚ライセンスを提出。
その後、お偉い方の部屋に呼ばれて式が始まる。
服装は何でも良かったのに、普段着で区役所に行った僕達を、一条さんの奥さんが大激怒した。
「一生に一度の事なんだから」
と、何も用意していないと思っていたらしく、僕と海に白いタキシードを手渡すと、半ば強制的に着替えさせられた。
(僕の服のサイズは、どうやら小関さんに聞いたらしい)
そして僕の手にミニブーケを手渡すと
「お兄ちゃんの事、よろしくお願いしますね」
と、涙ぐんで言われてしまう。
花嫁じゃないんだけどなぁ~と思いながら、僕と海の結婚式は厳かに執り行われた。
住所、氏名、年齢を聞かれ、海のお母さんが書いた親の承諾書も確認すると、誓いの言葉と指輪の交換をして10分位で式は終わった。
その後、今後の事について話しながらお食事会のようなものを一条さんが開いてくれたんだけど……一条さんは複雑そうな顔をしていたなぁ~。
でも僕は、日本であれば非常識と言われるこの関係を認めてくれているだけで有り難かった。
小関さんはホッとしたような顔をすると
「これでやっと、俺はお役目御免だな」
って微笑んで、僕達を心から祝福してくれた。
(ご祝儀袋が立つ位に厚くて、受け取り拒否した僕達に「良いから受け取れ!」と無理矢理押し付けて帰る辺りが小関さんらしい……)
僕達は、海の通学やバイト先。大槻教授の研究室がある大学の場所を考慮して、新居を探した。
そこは少し外れた郊外にある小さな一軒家。
安い貸家を小関さんの紹介で借りて、僕と海の新しい生活が始まる。
日本だったら絶対に叶わない生活。
僕と海は伴侶として、この場所で生きて行く。それはきっと、楽しい事だけじゃない筈。でも、僕は海が居てくれれば、未来は明るいと信じている。
大学からの帰り道。
海に頼まれた食材を手に、僕は家のインターホンを鳴らすと
「お帰りなさい」
海が笑顔でドアを開けて出迎えてくれる。
「ただいま」
中に入り、海の首に手を回してキスを交わし
「アメリカ風に、『愛してるよ、ダーリン』って言うべき?」
ふざけた口調の海に
「じゃあ……『ただいま、マイハニー』って答えようか?」
と笑って答えた。
部屋の中には、暖かなスープの香りが漂う。
僕は頼まれたフランスパンをテーブルに置いて、荷物を置きに部屋へと向かう。
食卓に食事を並べる海の横顔を見ながら、幸せを噛みしめる。
(小関先生……僕は今、幸せです。先生もきっと、笑ってくれていますよね)
そう心の中で呟いた。
幸せは特別なものでは無くて、こうした日常にあるんだと……僕はそう実感した。
「海」
僕の声に微笑むきみの笑顔が、きっと未来永劫、僕を幸せへと導いてくれると……そう信て。 ~完~
式には、一条ご夫妻と大槻教授。
そして何故か、小関さんが日本から駆け付けて来た。
お世話になったので、結婚する旨だけを伝えるつもりが、絶対に式に出ると言って飛んで来た。
場所は区役所の7階へ行って、結婚ライセンスを提出。
その後、お偉い方の部屋に呼ばれて式が始まる。
服装は何でも良かったのに、普段着で区役所に行った僕達を、一条さんの奥さんが大激怒した。
「一生に一度の事なんだから」
と、何も用意していないと思っていたらしく、僕と海に白いタキシードを手渡すと、半ば強制的に着替えさせられた。
(僕の服のサイズは、どうやら小関さんに聞いたらしい)
そして僕の手にミニブーケを手渡すと
「お兄ちゃんの事、よろしくお願いしますね」
と、涙ぐんで言われてしまう。
花嫁じゃないんだけどなぁ~と思いながら、僕と海の結婚式は厳かに執り行われた。
住所、氏名、年齢を聞かれ、海のお母さんが書いた親の承諾書も確認すると、誓いの言葉と指輪の交換をして10分位で式は終わった。
その後、今後の事について話しながらお食事会のようなものを一条さんが開いてくれたんだけど……一条さんは複雑そうな顔をしていたなぁ~。
でも僕は、日本であれば非常識と言われるこの関係を認めてくれているだけで有り難かった。
小関さんはホッとしたような顔をすると
「これでやっと、俺はお役目御免だな」
って微笑んで、僕達を心から祝福してくれた。
(ご祝儀袋が立つ位に厚くて、受け取り拒否した僕達に「良いから受け取れ!」と無理矢理押し付けて帰る辺りが小関さんらしい……)
僕達は、海の通学やバイト先。大槻教授の研究室がある大学の場所を考慮して、新居を探した。
そこは少し外れた郊外にある小さな一軒家。
安い貸家を小関さんの紹介で借りて、僕と海の新しい生活が始まる。
日本だったら絶対に叶わない生活。
僕と海は伴侶として、この場所で生きて行く。それはきっと、楽しい事だけじゃない筈。でも、僕は海が居てくれれば、未来は明るいと信じている。
大学からの帰り道。
海に頼まれた食材を手に、僕は家のインターホンを鳴らすと
「お帰りなさい」
海が笑顔でドアを開けて出迎えてくれる。
「ただいま」
中に入り、海の首に手を回してキスを交わし
「アメリカ風に、『愛してるよ、ダーリン』って言うべき?」
ふざけた口調の海に
「じゃあ……『ただいま、マイハニー』って答えようか?」
と笑って答えた。
部屋の中には、暖かなスープの香りが漂う。
僕は頼まれたフランスパンをテーブルに置いて、荷物を置きに部屋へと向かう。
食卓に食事を並べる海の横顔を見ながら、幸せを噛みしめる。
(小関先生……僕は今、幸せです。先生もきっと、笑ってくれていますよね)
そう心の中で呟いた。
幸せは特別なものでは無くて、こうした日常にあるんだと……僕はそう実感した。
「海」
僕の声に微笑むきみの笑顔が、きっと未来永劫、僕を幸せへと導いてくれると……そう信て。 ~完~
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