猫被りなきみと嘘吐きな僕

古紫汐桜

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「…………やさん。……ず……や……ん、和哉さん」
 昨夜の激しい情事に疲れ切った僕の身体を、海が揺すって起こしている。
「……るさい! もう少し寝かせろ!」
怒って叫ぶと
「寝かせてあげたいのは山々なのですが、チェックアウトの時間もあるので……」
海が困ったようにそう呟いた。
海の顔を見上げると、肌艶がツヤっツヤ!!
さぞかし、ご満足頂けたのだろうよ!
恨みの視線を向けていると、海は叱られた子犬のようにしょんぼりとした顔をしている。
「お前……!」
そう叫んだ声が、別人のようにガッサガサな自分にも腹が立つが、僕がこんなに疲弊しきっているのに、生き生きしているこいつは化け物か?
平然としているこいつに、腹が立って仕方が無い。
恨みの視線を向けていると
「すみません。自制が出来ませんでした」
小さくなって謝る海に、仕方ないなぁ~と思ってしまう僕は、すっかりこいつに絆されてしまっているんだろうな。
「海……、少しは加減というものを覚えろ」
そう呟いてゆっくりと身体を起こす僕を、健気にも海が補佐してくれる。
それだけで胸がキュンとしてしまうあたり、僕も重症だな。
苦笑いした僕に、海が
「何処か痛みますか?」
と聞いて来たので、思わず睨み付けて
「あぁ? 全身痛いわ! 特に下半身の感覚が無いわ! このアホ!」
そう叫んで海の頭にチョップした。
すると大きな身体を小さく縮こませて
「本当に……すみません」
そう呟くと、落ち込んでる。
そんな海の姿が、怒られてしょぼくれているレトリバーに見えてしまい、笑いを堪えるのが大変だった。
僕は大きな溜息を吐いてから
「誕生日の主役が、そんな顔すんなよ。まぁ、煽った僕も悪かったし」
そう言って、ベッドに座って僕を見つめる海の首に手を回してキスを求めた。
すると海の垂れ下がっていた耳が立ち上がり、ブンブンと尻尾を振りながら抱き締められて、そっと唇が触れる。
(普段のカッコイイ姿とのギャップが、堪らない!)
そんな事を考えながら、僕は海のキスを受け止めていた。
 好きな人とのキスは、それだけでとっても気持ちが良い。
溶けてしまいそうな気持ちでキスを交わしていると、部屋のドアがノックされた。
「おい、そろそろ支度しろ! 下で待ってるから早く来い」
そう告げる小関さんの声に、現実に引き戻されてしまう。
「タイムアップだな」
そう呟くと、海がギュッと僕を抱き締めて
「会えるのは嬉しいですけど……、又、離れるのが辛いですね」
切なそうに言われて、そっと頬に触れる。
「後、3ヶ月だ。そんなのすぐだよ」
僕の言葉に、海が唇を塞ぐ。
「和哉さんを、この腕に閉じ込めてしまいたい。でも……それはあなたと、あなたを命懸けで守った人を裏切る事になる。だから、我慢します」
唇が離れ、強く抱き締めると海がそう呟いた。
「海。僕は昨日、海に全てを捧げたんだ。何処に居ても、何をしていても……僕は海のモノだよ」
「和哉さん……」
お互いの額をコツンと当てて、僕達は微笑み合う。
分かれが近く中、このまま時が止まれば良いと、願わずにはいられなかった……。
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