猫被りなきみと嘘吐きな僕

クリスマスより……

飛行機から降りると、空港はクリスマス一色だった。
僕は足早に搭乗口を抜け、到着ロビーの懐かしい景色を見渡す。
あの日、大槻教授からの電話は、クリスマス休暇の連絡だった。
「ただの学者バカだと思っていたけど、やっぱり家庭を持ってる人は違うな～」
尊敬する師に対して、冒涜になるような言葉を吐きながら歩いていると
「よう、和哉」
と、小関さんが現れた。
「ご無沙汰しています」
深々とお辞儀すると、小関さんは驚いた顔をして
「お前、ちゃんと挨拶出来たんだな……」
って、失礼な事を言って来た。
僕が口を尖らせていると
「坊主には、一時帰国の話はしたのか？」
さりげなく僕の荷物を持って小関さんが訊いてきた。
「え？　してないです」
そう答えると、小関さんに呆れた顔されて
「お前、俺に連絡するより先に、そっちに連絡するべきじゃないのか？」
と言われてしまう。
「まぁ……そうですけど……。あなたに連絡しないと、海が坊主頭にされちゃいますからね。僕としては、坊主頭の海も見てみたいですけど……」
ちょっと想像して、クスクスと笑う。
すると小関さんは、ほとほと呆れた顔で
「惚気は他所でやれ！」
そう言って僕の頭を軽く小突いた。
僕は小さく笑いながら
「それに、一条さんにも連絡しましたよ。今日と明日、息子さんを拉致しますって」
「拉致って……」
益々、呆れた顔をする小関さんに、僕は悪い笑顔を浮かべて
「それを本人に伝えているかどうかは、僕にはわかりませんけど」
そう答えた。
「お前……アメリカ行って、逞しくなったな……」
溜息混じりに呟く小関さんに、僕は笑顔を返す。
「まぁ……何にしても、あのクソ可愛いくない坊主が泣いて喜ぶ姿が目に浮かぶよ」
小関さんは駐車場に着くと、車のキーを開けて僕の荷物を後部座席に置いた。
僕は助手席に座り、小関さんが車に乗り込むのを待っていた。
「今回も、色々とすみませんでした」
運転席に乗り込む小関さんに呟くと
「本当だよ。たかが4日間の休みで、帰国するか？普通」
そう言われて
「3日だよ！あと1日は、無理矢理もぎ取ったの！大体、アメリカから日本に帰るのに、機内泊とか本当に信じられない！」
ブツブツ文句を言う僕に
「それでも帰って来ちゃうんだ～」
とニヤニヤしている。
僕は口をへの字にして
「べ……別に、海の誕生日だから帰って来た訳じゃないから！」
思わず言ってしまい、「あ……」と慌てて口を塞ぐと、小関さんは益々ニヤニヤして
「誕生日ねぇ～。お前が誰かの誕生日の為に、休みもぎ取って帰国するとか、絶対に有り得ないと思っていたけど……」
そう言って笑っている。
僕が真っ赤になっていると
「あのクソ可愛いくない坊主が、それ聞いたら号泣しそうだな。あいつ、和哉ロスとか言って、毎日毎日スマホの画面を溜息吐いて見てるくらいだからな」
と呟いた。
僕はその瞬間、「ん？」と疑問に思って
「なんでそんな事知っているの？」
と訊くと、今度は小関さんが「しまった！」という顔をした。
「え？　小関さん、海と会っているの？」
僕が目を据わらせると
「会っている……と言えば、会っている……かな？」
と答えた。
「えぇ！　どういう事！　もしかして……小関さんと海が……？」
動揺する僕に
「止めろ！　気持ち悪い！」
言葉をかき消すように叫ばれて、小さくなる。
「男を抱いたのは、後にも先にもお前だけだよ」
ぽつりとそう言われて
「ごめん……」
と呟くと
「第一、あんなクソ可愛くも無いヤツに勃つか！」
と言われて吹き出す。
「そっち？」
思わずツッコミを入れると
「はぁ？　俺が逆とか有り得るか！　バカ！」
と言われて想像しようとしたら
「お前、想像すんなよ！」
と睨まれた。
「お前、本当に良い性格になったよな」
そう言って、僕の頭を軽く小突く。
車はホテルの駐車場に入り、車を停めると受付を済ませた。
今回、24日の一泊二日だったので、泊まれるホテルが無くて小関さんに相談したのだ。
あの高級なお部屋に泊まるのは気が引けるけど、もし空いているなら～って相談したら、二つ返事で部屋を抑えてくれた。
部屋に荷物を置くと、小関さんは腕時計を見て
「多分、この時間なら、あいつは図書館に居るはずだから」
そう言うと、部屋のカードキーを手渡して再び僕を車に乗せた。
僕が疑問の視線を向けると
「あいつ。将来、法律に関わる仕事がしたいんだそうだ」
小関さんはそう言うと、車を走らせる。
「それで、お前が渡米してから、うちでお手伝いだけどバイトしてるんだよ」
そう説明して、図書館の前で車を止めると
「あいつ、すっかり良い男になっているぞ。ちゃんと捕まえておかないと、お前の方が捨てられるかもしれないな」
そう笑って言われてしまう。