猫被りなきみと嘘吐きな僕

古紫汐桜

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初めてのデート

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 朝、目が覚めると、海が僕の顔をジッと見つめていた。
恥ずかしくて布団に隠れると
「何で顔を隠すんですか!」
って言いながら、海に布団を剥がされる。
「だって、寝顔とか……恥ずかしいじゃないか!」
そう叫ぶと
「今まで人の寝顔で散々悪戯してた人が、何を言っているんですか!」
と返された。
僕が何も言い返せないで居ると、海は優しく微笑んで僕を抱き締めると
「可愛い寝顔でしたよ」
そう言って額にキスを落とした。
こういう事を、平気で言ったりやったり出来るのが海なんだよなぁ~と、気恥しくなりながら唇を尖らせていると
「この後、どうしますか?」
とぽつりと訊かれて
「そう言えば……、水族館のチケットってどうした?もう、誰かと行った?」
と、訊ねてみた。
すると海は呆れた顔をして
「ちゃんとありますよ。和哉さんと行く為にもらったんですから、誰かと行く訳ないでしょう」
そう答えた海に抱き着いて
「じゃあ、水族館に行きたい!」
そう言うと、海は嬉しそうに微笑んで僕を抱き締め返した。

 ホテルのラウンジで朝食を取ると、チェックアウトして水族館へと向かった。
電車で移動しながら、水族館へと向かう僕達の姿が車窓に写っている。
気付けば、同じ車両の女子の目が海に集中していて複雑な気持ちになっていると
「困りましたね……。今日の和哉さんは一段と綺麗だから、注目の的になっていますよ」
なんてほざき出した。
「はぁ? それは、僕じゃなくてお前に向けられた視線だろう!」
反論する僕に、海は真顔で
「俺、野郎の視線までは集めませんよ」
と答えた。
その顔が余りにも複雑な表情で、僕は思わず電車の中なのに声を上げて笑ってしまったよ。
 こんな、ごく普通のカップルみたいなデートは初めてで、隣には海が居て、水槽の魚を見たり、途中でお昼を食べてからイルカショーを見てお土産買って帰る。
何も気にせずに、僕と手を繋いで歩く海に、僕は海と出会って好きになって……こうして恋人になれた事に心から感謝した。
ずっと……夢に見ていた『普通の恋人』らしい事を、この日一日で充分に味わえた。
帰り道。離れがたくて、電車を幾つも見送った。次に海と会えるのは、僕が渡米する空港だから……。
 でもね……きっと、昔なら好きな人と離れて暮らすなんて考えられなかったと思う。
でも、海なら大丈夫って思えたんだ。
僕は今、やっと自分の足で歩けているように感じた。
海と二人なら、僕は離れていたって強くなれる……そう思ったんだ。
 もう、海の門限に間に合わなくなるからと、乗り込んだ電車で、ふと見上げた海の横顔は、出会った頃よりもずっと……大人びていた。
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