上 下
76 / 96

思い出~海の回顧録㉛

しおりを挟む
 次の日、関川と永澤が女子の情報網を使って、和哉さんの噂を流しているのが、和哉さんを地獄に突き落とした張本人。
須永正樹だと、突き止めて来た。
そして、どうやら和哉さんとの復縁を狙っているらしいという情報まで、掴んで来た。女子の情報網って、どっから集めてくるんだろう? って程に早くて、情報量が多かった。
 俺は急いで小関さんに知らせたくて、メールで連絡したけれど、返信は一切無い。
仕方ないので。俺は和哉さんが入院している病院に行って、小関弁護士が来るのを待ち続けた。
 初日は、会った早々に小関弁護士に殴り飛ばされて
「二度と和哉に近付くな!」
と怒鳴られ、話も聞いてもらえなかった。
それでも、俺は逃げるわけにはいかない。
もし、関川達が集めた情報が確かなら、須永は絶対に和哉さんに接触して来る。
あいつが今でも「和哉は俺の玩具」だと言っているのだとしたら、絶対に又、和哉さんを地獄へと突き落とす筈だ。
和哉さんが入院して4日目。
父さんから、和哉さんが目を覚ましたと聞いた。
俺は病院の建物を見上げ、和哉さんの回復を祈る事しかできなかった。
外から総合受付に来る小関弁護士を待ち、話を聞いてもらうまで何度も何度も病院に足を運ぶ。
そんな時、悠斗達も小関弁護士と話がしたいと言い出し、一緒に病院へ向かう事になった。
俺は悠斗達に和哉さんへのお見舞いの品を頼もうと思い、本屋へ行って和哉さんの部屋にあった推理小説の続編を購入した。
学校でその話を3人にすると
「直接渡せば?」
って関川に言われる。
すると悠斗が
「バカ!そのなんちゃら弁護士に捨てられるのがオチだろうが!」
と言って関川の頭を軽く小突く。
「そっかぁ……。うん、分かった。でも、本って栞があった方が良いよね。私、凄く良い栞を持ってるんだ。一緒に入れても良い?」
って訊かれた。
「良いけど……」
怪しんでいる俺に、関川が微笑んで
「大丈夫。変な栞じゃないから」
と言うと、文庫本の一つに栞を挟んで何かを祈っているみたいだった。
「私の念、入れといた」
そう言われて
「邪念じゃねぇの?」
って悠斗が呟くと
「2人が上手く行きますようにって、念込めておいた」
と言って微笑んだ。
「関川……」
思わず呟くと
「海、言っとくけど、美穂は俺の彼女だからな。惚れんなよ!」
って冗談っぽく言ってから
「じゃあ、俺も念込めとくよ」
そう言って、何故か文庫本に柏手を打って祈ってる。
呆れて笑うと、永澤も手を合わせて
「2人が上手く行って、一条の恋人に会えますように……」
と言い出した。
「はぁ?」
驚いて叫ぶと
「あんたね! 今回、どれだけ私が活躍してると思っているの? あんた達の話だけじゃ割に合わないわよ。実物に合わせなさいよね!」
そう言うと、俺の背中を強く叩く。
「お前ら、本当に頼りになるよ」
俺はそう言って微笑んだ。

 その日の放課後。
4人で病院へ向かい、俺は入り口の外で待っていた。悠斗と関川、永澤が総合受付でお見舞いを手渡し、4人で小関弁護士の到着を待った。
俺はその間も、ずっと和哉さんの回復を祈る事しか出来なかった。
今の俺は、存在自体が和哉さんを傷付ける事しか出来ない。
だったら、姿を見せずに病院を見上げて祈る事しか出来なかった。
そして小関弁護士は悠斗達の話を聞いて、少し時間が欲しいと答えたらしい。
これは後から聞いた話だけど、悠斗達は俺の知らない所でずっと小関弁護士に俺の誤解を解こうとしてくれていたらしい。
そして和哉さんが退院した翌日、小関弁護士から連絡が来て、あの事件が起こったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

上司と俺のSM関係

雫@3日更新予定あり
BL
タイトルの通りです。

【BL】僕(18歳)、イケメン吸血鬼に飼い慣らされる。

猫足02
BL
地下室に閉じ込められていた吸血鬼の封印が解け、王族は絶体絶命。このままでは国も危ないため、王は交換条件を持ちかけた。 「願いをひとつなんでも聞こう。それでこの城と国を見逃してはくれないか」 「よかろう。では王よ、お前の子供をひとり、私の嫁に寄越せ」 「……!」 姉が吸血鬼のもとにやられてしまう、と絶望したのも束の間。  指名されたのは、なんと弟の僕で……!?

処理中です...