上 下
70 / 96

思い出~海の回顧録㉕

しおりを挟む
「まぁ、どうするのかは、お前が決めろ」
悠斗にそう言われて俺は苦笑いをすると
「その子しか分からないんだろ?」
そう言って、悠斗の肩を軽く叩いて
「ありがとう」
とお礼を言った。
すると
「二度目はねぇからな!」
と言われて
「もう、俺に隠し事すんじゃねぇぞ!」
悠斗は俺の頭にチョップして笑った。
「悠斗、お前……良い奴だな」
俺がそう呟くと、悠斗は俺の首に手を回し
「今更かよ!」
と言うと、俺達は顔を見合わせて笑い合った。

 俺は、悠斗が集めてくれた情報を無駄にしたくなくて、D組の相田に会いに行ってみた。
「相田~、A組の一条が呼んでる~」
D組に行って相田という女子を呼んでもらったら、何と俺が何度か告白されて、断った相手だった。
「え~、何? 一条君」
顔は告白されるんだと思い込んだ、期待に満ちた顔をしている。
(あ~、帰りたい)
うんざりした顔をしたいのをグッと堪え、笑顔で
「呼び出してごめんね。ちょっと、聞きたいことがあるんだけど良い?」
そう訊ねると、彼女は上目遣いで
「聞きたいこと?」
と、オウム返しをして来た。
小首を傾げて、可愛らしさをアピールしている仕草がちょっと鼻に付く。
「此処じゃなんだから、ちょっと良いかな?」
そう言うと、彼女は満面の笑みを浮かべて頷いた。
……で、何故、一緒に帰る事になったのかが良く分からない。
「一条君のお家って何処なの?」
そう訊かれて、家まで来る気か? ってうんざりする。
少しでも気を抜くと、すぐに俺の腕に手を絡めようとしてくるから、その度に手を引き剥がす。
 話題ものらりくらりと交わされ、中々、本題に入れない。
このままでは自宅に着いてしまうと、俺は途中で駅付近の公園へと進路を変えた。
公園に着いて
「あのさ……ちゃんと話を聞く気ないなら、俺、もう此処で帰りたいんだけど」
そう切り出した。
すると相田は俺の顔をジッと見つめて
「そんなに唯ちゃん先輩が持ってるネタを知りたいんだ」
そう呟いたのだ。
「知って……」
そう言い掛けて、罠に嵌められたのに気付く。
「大崎から話は軽く聞いてたよ。唯ちゃん先輩に怒鳴ったんだってね~。そっちの話も聞いた~」
と言うと、俺の首に手を回して
「キスしてくれたら、唯ちゃん先輩の大学の裏アカウントのIDとパスワードを教えて上げても良いよ」
そう言われて絶句した。
「悪いけど……」
過去に付き合った、嫌な女を思い出して身体を引き剥がそうとすると
「そんなに大事なわけ? 弟さんのカテキョだっけ? 本当は、一条君もその人のセフレだったりしてぇ~。その人、男を手玉に取るのが上手いんでしょう?」
と、和哉さんを侮辱する言葉を言われてカチンと来た。
俺は彼女の身体を強引に引き剥がし
「それ以上、あの人を侮辱する言葉を言うなら、お前を一生許さない」
そう答えた。
すると彼女は首を傾げたまま
「なんで弟のカテキョに、そんな入れ込んでるの? 意味わかんない」
と言われて、このままだと和哉さんに余計な噂が広まるのが怖かった。
「あの人は……、前の学校で俺に数学を教えてくれた人なんだよ。今の学校に編入したのも、あの人の言葉がきっかけだった。だから、恩返ししたいだけだ」
そう答えると
「へぇ~。でも、あの噂。その人の元カレからの情報だから、間違いないみたいだよ」
と答えたのだ。
「え?」
驚く俺に、彼女は小さく微笑むと
「もっと詳しい話が聞きたい?」
そう言いながら、俺の背中に手を回して胸に顔を埋めて来た。
「どうする? 私はどっちでも良いけど?」
そう囁きながら、彼女が誘惑する眼差しで俺を見上げた。
(そんな視線を向けられても、俺には何の効果もないんだけどなぁ~)
と思いながら、どうするのか悩んでいると
「ねぇ、ちゃんと抱き締めてくれる? 一条君は、この紙が欲しいんでしょう?」
そう言って、彼女が自分の胸ポケットからメモを取り出した。
俺は、和哉さんの元カレが誰なのか知らない。それを探るには、そのIDとパスワードが必要だった。
一瞬の我慢で手に入るなら、仕方ないのか……と考え、彼女の背中に手を回した瞬間だった。
『バサバサ』
背後で何かが落ちる音がして、慌てて振り返った。
そこには、居る筈の無い和哉さんが真っ青な顔で立っていた。
「和哉さん……なんで?」
驚いた顔をして呟くと、和哉さんは泣き出しそうな笑顔を浮かべると
「バイバイ」
と言い残して、その場から走り去ってしまったのだ。
「悪い! その紙要らない!」
俺はそう叫び、和哉さんを追い掛けた。
走って行った方角を探しても、既に姿が無い。
駅へと向かっても、和哉さんの姿は見当たらなかった。
「嘘だろ……」
呟いた俺の言葉だけが、夜の闇に吸い込まれて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

フェロモンで誘いたいかった

やなぎ怜
BL
学校でしつこい嫌がらせをしてきていたαに追われ、階段から落ちたΩの臣(おみ)。その一件で嫌がらせは明るみに出たし、学校は夏休みに入ったので好奇の目でも見られない。しかし臣の家で昔から同居しているひとつ下のαである大河(たいが)は、気づかなかったことに責任を感じている様子。利き手を骨折してしまった臣の世話を健気に焼く大河を見て、臣はもどかしく思う。互いに親愛以上の感情を抱いている感触はあるが、その関係は停滞している。いっそ発情期がきてしまえば、このもどかしい関係も変わるのだろうか――? そう思う臣だったが……。 ※オメガバース。未成年同士の性的表現あり。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

一度くらい、君に愛されてみたかった

和泉奏
BL
昔ある出来事があって捨てられた自分を拾ってくれた家族で、ずっと優しくしてくれた男に追いつくために頑張った結果、結局愛を感じられなかった男の話

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

処理中です...