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思い出~海の回顧録㉕
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「まぁ、どうするのかは、お前が決めろ」
悠斗にそう言われて俺は苦笑いをすると
「その子しか分からないんだろ?」
そう言って、悠斗の肩を軽く叩いて
「ありがとう」
とお礼を言った。
すると
「二度目はねぇからな!」
と言われて
「もう、俺に隠し事すんじゃねぇぞ!」
悠斗は俺の頭にチョップして笑った。
「悠斗、お前……良い奴だな」
俺がそう呟くと、悠斗は俺の首に手を回し
「今更かよ!」
と言うと、俺達は顔を見合わせて笑い合った。
俺は、悠斗が集めてくれた情報を無駄にしたくなくて、D組の相田に会いに行ってみた。
「相田~、A組の一条が呼んでる~」
D組に行って相田という女子を呼んでもらったら、何と俺が何度か告白されて、断った相手だった。
「え~、何? 一条君」
顔は告白されるんだと思い込んだ、期待に満ちた顔をしている。
(あ~、帰りたい)
うんざりした顔をしたいのをグッと堪え、笑顔で
「呼び出してごめんね。ちょっと、聞きたいことがあるんだけど良い?」
そう訊ねると、彼女は上目遣いで
「聞きたいこと?」
と、オウム返しをして来た。
小首を傾げて、可愛らしさをアピールしている仕草がちょっと鼻に付く。
「此処じゃなんだから、ちょっと良いかな?」
そう言うと、彼女は満面の笑みを浮かべて頷いた。
……で、何故、一緒に帰る事になったのかが良く分からない。
「一条君のお家って何処なの?」
そう訊かれて、家まで来る気か? ってうんざりする。
少しでも気を抜くと、すぐに俺の腕に手を絡めようとしてくるから、その度に手を引き剥がす。
話題ものらりくらりと交わされ、中々、本題に入れない。
このままでは自宅に着いてしまうと、俺は途中で駅付近の公園へと進路を変えた。
公園に着いて
「あのさ……ちゃんと話を聞く気ないなら、俺、もう此処で帰りたいんだけど」
そう切り出した。
すると相田は俺の顔をジッと見つめて
「そんなに唯ちゃん先輩が持ってるネタを知りたいんだ」
そう呟いたのだ。
「知って……」
そう言い掛けて、罠に嵌められたのに気付く。
「大崎から話は軽く聞いてたよ。唯ちゃん先輩に怒鳴ったんだってね~。そっちの話も聞いた~」
と言うと、俺の首に手を回して
「キスしてくれたら、唯ちゃん先輩の大学の裏アカウントのIDとパスワードを教えて上げても良いよ」
そう言われて絶句した。
「悪いけど……」
過去に付き合った、嫌な女を思い出して身体を引き剥がそうとすると
「そんなに大事なわけ? 弟さんのカテキョだっけ? 本当は、一条君もその人のセフレだったりしてぇ~。その人、男を手玉に取るのが上手いんでしょう?」
と、和哉さんを侮辱する言葉を言われてカチンと来た。
俺は彼女の身体を強引に引き剥がし
「それ以上、あの人を侮辱する言葉を言うなら、お前を一生許さない」
そう答えた。
すると彼女は首を傾げたまま
「なんで弟のカテキョに、そんな入れ込んでるの? 意味わかんない」
と言われて、このままだと和哉さんに余計な噂が広まるのが怖かった。
「あの人は……、前の学校で俺に数学を教えてくれた人なんだよ。今の学校に編入したのも、あの人の言葉がきっかけだった。だから、恩返ししたいだけだ」
そう答えると
「へぇ~。でも、あの噂。その人の元カレからの情報だから、間違いないみたいだよ」
と答えたのだ。
「え?」
驚く俺に、彼女は小さく微笑むと
「もっと詳しい話が聞きたい?」
そう言いながら、俺の背中に手を回して胸に顔を埋めて来た。
「どうする? 私はどっちでも良いけど?」
そう囁きながら、彼女が誘惑する眼差しで俺を見上げた。
(そんな視線を向けられても、俺には何の効果もないんだけどなぁ~)
と思いながら、どうするのか悩んでいると
「ねぇ、ちゃんと抱き締めてくれる? 一条君は、この紙が欲しいんでしょう?」
そう言って、彼女が自分の胸ポケットからメモを取り出した。
俺は、和哉さんの元カレが誰なのか知らない。それを探るには、そのIDとパスワードが必要だった。
一瞬の我慢で手に入るなら、仕方ないのか……と考え、彼女の背中に手を回した瞬間だった。
『バサバサ』
背後で何かが落ちる音がして、慌てて振り返った。
そこには、居る筈の無い和哉さんが真っ青な顔で立っていた。
「和哉さん……なんで?」
驚いた顔をして呟くと、和哉さんは泣き出しそうな笑顔を浮かべると
「バイバイ」
と言い残して、その場から走り去ってしまったのだ。
「悪い! その紙要らない!」
俺はそう叫び、和哉さんを追い掛けた。
走って行った方角を探しても、既に姿が無い。
駅へと向かっても、和哉さんの姿は見当たらなかった。
「嘘だろ……」
呟いた俺の言葉だけが、夜の闇に吸い込まれて行った。
悠斗にそう言われて俺は苦笑いをすると
「その子しか分からないんだろ?」
そう言って、悠斗の肩を軽く叩いて
「ありがとう」
とお礼を言った。
すると
「二度目はねぇからな!」
と言われて
「もう、俺に隠し事すんじゃねぇぞ!」
悠斗は俺の頭にチョップして笑った。
「悠斗、お前……良い奴だな」
俺がそう呟くと、悠斗は俺の首に手を回し
「今更かよ!」
と言うと、俺達は顔を見合わせて笑い合った。
俺は、悠斗が集めてくれた情報を無駄にしたくなくて、D組の相田に会いに行ってみた。
「相田~、A組の一条が呼んでる~」
D組に行って相田という女子を呼んでもらったら、何と俺が何度か告白されて、断った相手だった。
「え~、何? 一条君」
顔は告白されるんだと思い込んだ、期待に満ちた顔をしている。
(あ~、帰りたい)
うんざりした顔をしたいのをグッと堪え、笑顔で
「呼び出してごめんね。ちょっと、聞きたいことがあるんだけど良い?」
そう訊ねると、彼女は上目遣いで
「聞きたいこと?」
と、オウム返しをして来た。
小首を傾げて、可愛らしさをアピールしている仕草がちょっと鼻に付く。
「此処じゃなんだから、ちょっと良いかな?」
そう言うと、彼女は満面の笑みを浮かべて頷いた。
……で、何故、一緒に帰る事になったのかが良く分からない。
「一条君のお家って何処なの?」
そう訊かれて、家まで来る気か? ってうんざりする。
少しでも気を抜くと、すぐに俺の腕に手を絡めようとしてくるから、その度に手を引き剥がす。
話題ものらりくらりと交わされ、中々、本題に入れない。
このままでは自宅に着いてしまうと、俺は途中で駅付近の公園へと進路を変えた。
公園に着いて
「あのさ……ちゃんと話を聞く気ないなら、俺、もう此処で帰りたいんだけど」
そう切り出した。
すると相田は俺の顔をジッと見つめて
「そんなに唯ちゃん先輩が持ってるネタを知りたいんだ」
そう呟いたのだ。
「知って……」
そう言い掛けて、罠に嵌められたのに気付く。
「大崎から話は軽く聞いてたよ。唯ちゃん先輩に怒鳴ったんだってね~。そっちの話も聞いた~」
と言うと、俺の首に手を回して
「キスしてくれたら、唯ちゃん先輩の大学の裏アカウントのIDとパスワードを教えて上げても良いよ」
そう言われて絶句した。
「悪いけど……」
過去に付き合った、嫌な女を思い出して身体を引き剥がそうとすると
「そんなに大事なわけ? 弟さんのカテキョだっけ? 本当は、一条君もその人のセフレだったりしてぇ~。その人、男を手玉に取るのが上手いんでしょう?」
と、和哉さんを侮辱する言葉を言われてカチンと来た。
俺は彼女の身体を強引に引き剥がし
「それ以上、あの人を侮辱する言葉を言うなら、お前を一生許さない」
そう答えた。
すると彼女は首を傾げたまま
「なんで弟のカテキョに、そんな入れ込んでるの? 意味わかんない」
と言われて、このままだと和哉さんに余計な噂が広まるのが怖かった。
「あの人は……、前の学校で俺に数学を教えてくれた人なんだよ。今の学校に編入したのも、あの人の言葉がきっかけだった。だから、恩返ししたいだけだ」
そう答えると
「へぇ~。でも、あの噂。その人の元カレからの情報だから、間違いないみたいだよ」
と答えたのだ。
「え?」
驚く俺に、彼女は小さく微笑むと
「もっと詳しい話が聞きたい?」
そう言いながら、俺の背中に手を回して胸に顔を埋めて来た。
「どうする? 私はどっちでも良いけど?」
そう囁きながら、彼女が誘惑する眼差しで俺を見上げた。
(そんな視線を向けられても、俺には何の効果もないんだけどなぁ~)
と思いながら、どうするのか悩んでいると
「ねぇ、ちゃんと抱き締めてくれる? 一条君は、この紙が欲しいんでしょう?」
そう言って、彼女が自分の胸ポケットからメモを取り出した。
俺は、和哉さんの元カレが誰なのか知らない。それを探るには、そのIDとパスワードが必要だった。
一瞬の我慢で手に入るなら、仕方ないのか……と考え、彼女の背中に手を回した瞬間だった。
『バサバサ』
背後で何かが落ちる音がして、慌てて振り返った。
そこには、居る筈の無い和哉さんが真っ青な顔で立っていた。
「和哉さん……なんで?」
驚いた顔をして呟くと、和哉さんは泣き出しそうな笑顔を浮かべると
「バイバイ」
と言い残して、その場から走り去ってしまったのだ。
「悪い! その紙要らない!」
俺はそう叫び、和哉さんを追い掛けた。
走って行った方角を探しても、既に姿が無い。
駅へと向かっても、和哉さんの姿は見当たらなかった。
「嘘だろ……」
呟いた俺の言葉だけが、夜の闇に吸い込まれて行った。
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