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思い出~海の回顧録㉑
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「痛えな! ガキって、そんなに変わらないだろうが!」
俺が事あるごとに言われる「ガキ」にムッとして反論すると
「はぁ? 23歳と16歳はかなり違います!」
と言いながら、和哉さんがあかんべしている。
(……たく、ガキはどっちだよ)
そう思いながら、俺は和哉さんを自宅まで送り届けた。
「じゃあ、俺は此処で……」
俺が和哉さんを送り届けて帰ろうとすると
「え? 帰るの?」
珍しく和哉さんが寂しそうな顔で俺を見上げた。
……ヤバい。今の俺、さっきの怒りのせいと、久しぶりの和哉さんに理性保てる自信無いわ。
深呼吸してから
「俺、今は飢えた狼なの。だから、そのまま振り返らずに玄関入ったら鍵を掛けて下さい」
そう言って、和哉さんの背中を押した。
今、またあの可愛い顔されたら間違いなく押し倒してしまう。
そう考えて帰ろうとすると
「フフフ」って笑い声が聞こえて振り返る。
「親切な狼さん、ありがとう」
その笑顔は、今まで見たことの無い笑顔だった。
無邪気な笑顔でも、ふざけた笑顔でも無い。
愛しい人を見る、愛情が込められた笑顔に感じた。
その瞬間、俺の理性の糸は音を立てて切れた。
和哉さんの部屋のドアを掴み、強引に中へと入り込んで、細い身体を抱き締めた。
「振り返るなって言ったのに……」
やっと吐き出した言葉に、和哉さんが怯えた目で俺を見上げた。
(あぁ……又、やってしまった)
心の中で後悔が渦巻く。
やっと愛情を込めた笑顔をくれたのに、又、こんなに怯えた目をさせてしまった。
俺は壊れ物に触れるように、そっと和哉さんの身体を抱き締めていた腕を緩め、怯えて硬直している頬に触れた。
「ごめん。なにもしないから……、なにもしないから怯えないで……」
そう、必死に声を絞り出した。
和哉さんは俺の言葉に驚いたようで、目を見開いて俺を見上げている。
論文が相当大変だったのか、少しやつれた頬に心配になる。
美味しいものを作って上げたい気持ちをへし折るように、和哉さんが怯える瞳で俺の行動を見ているのが辛かった。
俺が頬に触れていた手をゆっくりと下ろすと
「海? どうした?」
俺の行動が不思議だったのか、戸惑う視線で訊いて来た和哉さんに
「ごめん、疲れているよね。もう、休んで……」
そう言って、身体をゆっくりと離した。
俺も……、あの人達を悪く言えないんだ。
俺だって、和哉さんを傷付ける言葉を吐いて、売り言葉に買い言葉を利用して強引に関係を持った。
その上、無理矢理恋人にまでさせて……。
一番最低なのは……俺の方だ。
「帰ります。驚かせてしまって、すみませんでした」
そう言って、俺は和哉さんに背を向けた。
この時、俺は決意した。
あの噂の出所を調べて、大学での和哉さんの誤解を解いてから、もう一度、最初からやり直したいと和哉さんに伝えようと。
それまでは、和哉さんに会うのは控えようと心に決めた。
きっと会ってしまえば、このままでも良いのでは無いか?と、そんな誘惑に負けてしまいそうだったから。
和哉さんと、一度全部clearにしてから関係を築いて行くんだと決意をして、俺は部屋を後にした。
まさか、それがあんな誤解に発展してしまうとは、思いもせずに……。
俺が事あるごとに言われる「ガキ」にムッとして反論すると
「はぁ? 23歳と16歳はかなり違います!」
と言いながら、和哉さんがあかんべしている。
(……たく、ガキはどっちだよ)
そう思いながら、俺は和哉さんを自宅まで送り届けた。
「じゃあ、俺は此処で……」
俺が和哉さんを送り届けて帰ろうとすると
「え? 帰るの?」
珍しく和哉さんが寂しそうな顔で俺を見上げた。
……ヤバい。今の俺、さっきの怒りのせいと、久しぶりの和哉さんに理性保てる自信無いわ。
深呼吸してから
「俺、今は飢えた狼なの。だから、そのまま振り返らずに玄関入ったら鍵を掛けて下さい」
そう言って、和哉さんの背中を押した。
今、またあの可愛い顔されたら間違いなく押し倒してしまう。
そう考えて帰ろうとすると
「フフフ」って笑い声が聞こえて振り返る。
「親切な狼さん、ありがとう」
その笑顔は、今まで見たことの無い笑顔だった。
無邪気な笑顔でも、ふざけた笑顔でも無い。
愛しい人を見る、愛情が込められた笑顔に感じた。
その瞬間、俺の理性の糸は音を立てて切れた。
和哉さんの部屋のドアを掴み、強引に中へと入り込んで、細い身体を抱き締めた。
「振り返るなって言ったのに……」
やっと吐き出した言葉に、和哉さんが怯えた目で俺を見上げた。
(あぁ……又、やってしまった)
心の中で後悔が渦巻く。
やっと愛情を込めた笑顔をくれたのに、又、こんなに怯えた目をさせてしまった。
俺は壊れ物に触れるように、そっと和哉さんの身体を抱き締めていた腕を緩め、怯えて硬直している頬に触れた。
「ごめん。なにもしないから……、なにもしないから怯えないで……」
そう、必死に声を絞り出した。
和哉さんは俺の言葉に驚いたようで、目を見開いて俺を見上げている。
論文が相当大変だったのか、少しやつれた頬に心配になる。
美味しいものを作って上げたい気持ちをへし折るように、和哉さんが怯える瞳で俺の行動を見ているのが辛かった。
俺が頬に触れていた手をゆっくりと下ろすと
「海? どうした?」
俺の行動が不思議だったのか、戸惑う視線で訊いて来た和哉さんに
「ごめん、疲れているよね。もう、休んで……」
そう言って、身体をゆっくりと離した。
俺も……、あの人達を悪く言えないんだ。
俺だって、和哉さんを傷付ける言葉を吐いて、売り言葉に買い言葉を利用して強引に関係を持った。
その上、無理矢理恋人にまでさせて……。
一番最低なのは……俺の方だ。
「帰ります。驚かせてしまって、すみませんでした」
そう言って、俺は和哉さんに背を向けた。
この時、俺は決意した。
あの噂の出所を調べて、大学での和哉さんの誤解を解いてから、もう一度、最初からやり直したいと和哉さんに伝えようと。
それまでは、和哉さんに会うのは控えようと心に決めた。
きっと会ってしまえば、このままでも良いのでは無いか?と、そんな誘惑に負けてしまいそうだったから。
和哉さんと、一度全部clearにしてから関係を築いて行くんだと決意をして、俺は部屋を後にした。
まさか、それがあんな誤解に発展してしまうとは、思いもせずに……。
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