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思い出~海の回顧録⑳

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 修学旅行が終わり、約束通りお土産を持って和哉のさんの家に行き、毎週火・金曜日は渚の家庭教師の後に2人で和哉さんの家に行く日々が続いた。
少しずつ……本当に少しずつ、和哉さんの距離が近付いて来たと思った矢先に、事件は起こった。

 あれは大崎達に誘われて、大学のオープンキャンパスを観に行った日だった。
 当時、和哉さんの論文の締め切りが迫り、1ヶ月間会えない状況が続いていた。
そんな中、和哉さんの通う大学に大崎の高校時代の先輩が通っていて、オープンキャンパスの後で、その人を交えて学校見学をする予定になっていたのだ。
俺は渡米する予定だから、大学見学は興味無かったけど、和哉さんが通う大学名だったので、どんな所か知りたくて付き合う事にした。(運が良ければ、和哉さんに会えるかもしれない……なんて、ちょっと邪な考えが無かったとは言えないが……)
実際に行くと、その先輩は良い人ではあったけど、俺にやたらとベタベタして来て迷惑だった。
俺はもしかしたら和哉さんに会えるかも……と思いながら参加したのに、結局は、好きでもない相手に腕を絡まされて胸を押し付けられるという嬉しくない状況に困っていた。
結局、会えなかったな~と諦めかけた時、見覚えのある後ろ姿を見付けて
「すみません。俺、ちょっと外します」
そう言って、一目散に駆け寄った。
1ヶ月ぶりの和哉さんの姿に嬉しくて
「和哉さん!」
と叫ぶと、校内を歩く後ろ姿に思わず抱き付いてしまった。
「会えるかな~って思っていたけど、本当に会えましたね。これって、絶対に運命ですよ」
嬉しくてそう言うと、和哉さんは迷惑そうに俺を見上げると
「なんで居るんだよ」
と呟いた。
「ん? 大学見学」
俺が嬉しくて微笑んで答えると
「一条君、ここに居たの? 勝手に動いたら、迷子になるよ?」
そう言って、俺にベタベタしていた大崎の先輩が走り寄って来た。
正直、貴重な和哉さんとの時間を邪魔しないで欲しくて、ムッとして追い返そうとすると、和哉さんは俺に一礼して足早に歩き出してしまう。
「え? 和哉さん?」
何か怒らせたのかと思って、必死に追い掛けて
「怒ったの? ちゃんと手続きして、大学見学に来たんだけど……」
必死に声を掛けながら隣に並ぼうとすると、和哉さんはピタリと足を止めて
「僕に話しかけない方が良い」
と、和哉さんが俺を真っ直ぐに見つめて呟いたのだ。
「え? それって……どういう……」
和哉さんの言葉の意味が分からなくて、俺が食い下がろうとすると
「一条君、何しているの?」
と言って、彼女が俺の腕に手を絡ませて来た。
そして和哉さんに視線を向けると
「あ……相馬さん」
そう言って、和哉さんを蔑むような視線で見たのだ。
(え……?)
どういう事なのか分からないで居ると
「一条君、そんな人と話しちゃダメですよ」
と言いながら、彼女が俺を大崎達の方へと連れて行こうと、俺の腕を引っ張っている。本来なら、引き剥がして「邪魔だ!」と言いたい所だが、大崎の先輩であり、今回、大学を見て回れたのは少なからずこの人のお陰だ。
俺は最低限のマナーで、作り笑顔を浮かべて
「どういう意味ですか?」
と彼女に訊いた。
すると彼女はしてやったりという顔をして
「彼、男を手玉に取ってこの大学の大学院まで上がったんですよ。しかも、高校時代にはセフレが3人居て、そのうちの2人に別れ話をされたからって、腹が立って殺そうとしたのを、止めようとした担任を惨殺した挙句、その罪を愛人の弁護士を使ってセフレの2人に押し付けたんだから」
そう言い出したのだ。
その瞬間、はらわたが煮え繰り返りそうになった。
俺はこの女を殴りたい気持ちを必死に押さえ
「だから?」
と呟いた。
するとこの女は俺の言葉が意外だったらく、驚いた顔で俺を見た。
「え?」
不思議そうな顔で言われ
「それ、和哉さんから聞いたんですか?」
必死に冷静を装い言葉を吐いた。
すると彼女は顔を青ざめさせて
「そうじゃないけど……、みんな言っているよ」
俺の言ってる言葉に驚いているらしいその女は、慌ててそう付け加えた。
「みんな? みんなって誰? その人達、ちゃんと真実を和哉さんから聞いたの?」
なんで……なんであんた達はそうやって、何にも真実を知りもしないで、さも当たり前のように人の悪口を言えるんだ!
俺の怒りはMAXだった。
そんな俺の顔を見て、彼女は顔色を真っ青にすると
「だって……」
と口を開いた。
もうたくさんだ! そう思った。
俺は彼女に決定打を与える為に、口を開く。
「どうであれ! 和哉さんは俺の弟の大事な家庭教師の先生なんです。この人を侮辱するのは、俺が許さない!」
そう叫ぶと、和哉さんの腕を掴んで
「帰りましょう!」
と言うと、俺はこの胸糞悪い場所から一刻も早く和哉さんを連れ出したくて歩き出した。
腹が立った。
(この人の事を何も知らない癖に、好き勝手に言いやがって!)
無言で歩いていると、腕を掴んでいた和哉さんが
「ちょっと待って……。海、ちょっと待ってってば!」
と叫んだ。
「なに!」
俺は怒りの感情のまま、和哉さんに振り向いた。
すると和哉さんは困った顔をして
「出口……逆……」
そう言って、反対方向を指差して呟いたのだ。
俺は大学の構内を知らなかったので、どうやら怒りに任せて逆走していたらしい。
恥ずかしくなって
「もっと早く言えよ!」
そう言って顔を逸らしすと、和哉さんはきょとんとした顔をした後
「あははははは!」
って、大爆笑し始めたのだ。
涙を流して笑う和哉さんに、少しは気が紛れたのかな? って思いながら
「そんなに笑うなよ」
ってデコピンをすると、和哉さんは唇を尖らせて
「痛いな!」
と言いながら、おでこをさすって僕を見上げた。
その顔は普段の和哉さんで、俺はホッとして微笑んだ。
すると急に真っ赤な顔をした和哉さんが俺の頬を掴んで左右に引っ張ると
「ガキの癖に生意気!」
って叫んだのだ。
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