猫被りなきみと嘘吐きな僕

古紫汐桜

文字の大きさ
上 下
64 / 96

思い出~海の回顧録⑲

しおりを挟む
「今週は水曜日から修学旅行なので、来週まで来られません」
 修学旅行前の土曜日、夕飯を食べながら呟くと
「あ~、カレンダーに書いてあったな」
と言いながら、和哉さんリクエストの生姜焼きをご機嫌で食べている。
「どこ行くの? 京都奈良とか?」
そう言うと、俺の顔を見た。
「いえ、東北です」
そう答えると
「東北? 高校生の修学旅行にしては、随分と渋いな」
と言いながら、俺の生姜焼きに箸を伸ばして来たのでお皿を差し出す。
「そっか……。じゃあ、来週の飯は適当に食うわ」
そう言われて、もしかしてあの「小関さん」とやらと食事するつもりじゃないのか?と考えてしまう。
すると俺の考えを読んだのか、ニヤニヤしながら
「別に、お前が作り置きしくれるんだったら、僕は此処で大人しく待っているけど?」
なんて言われてしまう。
和哉さんの家に来るようになって、俺はすっかり料理の腕が上がってしまったのは言うまでも無い。
自宅での日曜日のお手伝いも、手際と味の良さで、今では俺が料理担当になっている。
「適当に、ある物で良いですか?」
溜息混じりに呟くと、「やった~!」と万歳して喜ぶ和哉さんの顔を見てしまうと、まぁ、良いか……って思ってしまう。
翌日、冷蔵庫にある物で何品か作った後、足りない食材を買ってカレーを作っておいた。
 毎週日曜日は、土曜日から泊まっているのもあり、早めに帰宅するようにしている。
時計を見ると3時少し前。
自宅に帰って、冷蔵庫の中を見てなにを作るか考えるかな……って考えていると、突然、背中に和哉さんがのしかかって来た。
「帰るのか?」
ぽつりと聞かれて
「はい。家の夕飯の支度もあるので」
そう答えると、珍しく和哉さんが背中から離れないでいる。
「1週間なんて、あっという間ですよ」
そう呟くと、突然、和哉さんは俺から離れて
「別に! 寂しいとか……そんなんじゃないから」
と、顔を真っ赤にして俯く。
そっと両頬に触れて顔を上げると
「毎日、LINEします」
そう言うと、和哉さんは視線を逸らして
「要らない! うざい!」
なんて答えながら、そっと俺の手に触れた。
「和哉さん」
名前を呼ぶと、おずおずと視線を俺に向けてゆっくりと瞳が閉じられる。
唇が重なり、触れるだけのキスを落として抱き締めると、背中に手が回されて、和哉さんが甘えるように俺の胸に頬を摺り寄せた。
愛しくて頭にキスを落として髪を撫でると、和哉さんは俺の顔を見上げて嬉しそうに微笑む。
こんな素直な和哉さんはレア過ぎて
「あ~! 帰りたくない!」
そう叫んだ俺に、和哉さんは驚いた顔をしてから笑い出し、その後、俺の首に手を回して
「じゃあ、帰さない」
そう囁いて、誘うような瞳で微笑んだのだ。
(どうしよう! 帰りたくない。帰りたくないが、帰らないと怒られる)
頭でグルグル考えていると
「どうしても帰るの?」
瞳をうるうるさせて和哉さんが俺を見る。
もう、どうなっても良いか……って、和哉さんにキスをしようとすると「ぷっ」っと吹き出して
「ば~か! 嘘だよ。お前、チョロ過ぎ!」
そう言って俺の鼻を摘んだ。
「ほら、分かったらさっさと帰れ」
素っ気なく言うと、俺から離れて鞄を押し付けた。
「連絡は、しなくて良いからな。折角の修学旅行なんだから、楽しんで来い。僕の事は気にしなくて良いから」
微笑んで言われて、なんだか急に不安になると
「その代わり、きりたんぽ!お土産で買って来い」
そう言われて頷いた。
「たくさん買って来ます!」
笑顔で答えた俺に
「たくさんは要らん!」
と返すと
「じゃあ、また来週な」
そう言って和哉さんが微笑んだ。
「はい! また来週!」
次がある。
そう思うだけで嬉しくて、思わず元気に答えた俺に
「元気だねぇ~」
と言いながら、和哉さんは笑って俺を見送ってくれた。
 こんな幸せな毎日が、ずっと続くと思っていた。
和哉さんが笑ってくれるから、俺は忘れていたんだ。この関係は、自分が強引に始めた関係だったって事を……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

処理中です...