猫被りなきみと嘘吐きな僕

古紫汐桜

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思い出~海の回顧録⑲

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「今週は水曜日から修学旅行なので、来週まで来られません」
 修学旅行前の土曜日、夕飯を食べながら呟くと
「あ~、カレンダーに書いてあったな」
と言いながら、和哉さんリクエストの生姜焼きをご機嫌で食べている。
「どこ行くの? 京都奈良とか?」
そう言うと、俺の顔を見た。
「いえ、東北です」
そう答えると
「東北? 高校生の修学旅行にしては、随分と渋いな」
と言いながら、俺の生姜焼きに箸を伸ばして来たのでお皿を差し出す。
「そっか……。じゃあ、来週の飯は適当に食うわ」
そう言われて、もしかしてあの「小関さん」とやらと食事するつもりじゃないのか?と考えてしまう。
すると俺の考えを読んだのか、ニヤニヤしながら
「別に、お前が作り置きしくれるんだったら、僕は此処で大人しく待っているけど?」
なんて言われてしまう。
和哉さんの家に来るようになって、俺はすっかり料理の腕が上がってしまったのは言うまでも無い。
自宅での日曜日のお手伝いも、手際と味の良さで、今では俺が料理担当になっている。
「適当に、ある物で良いですか?」
溜息混じりに呟くと、「やった~!」と万歳して喜ぶ和哉さんの顔を見てしまうと、まぁ、良いか……って思ってしまう。
翌日、冷蔵庫にある物で何品か作った後、足りない食材を買ってカレーを作っておいた。
 毎週日曜日は、土曜日から泊まっているのもあり、早めに帰宅するようにしている。
時計を見ると3時少し前。
自宅に帰って、冷蔵庫の中を見てなにを作るか考えるかな……って考えていると、突然、背中に和哉さんがのしかかって来た。
「帰るのか?」
ぽつりと聞かれて
「はい。家の夕飯の支度もあるので」
そう答えると、珍しく和哉さんが背中から離れないでいる。
「1週間なんて、あっという間ですよ」
そう呟くと、突然、和哉さんは俺から離れて
「別に! 寂しいとか……そんなんじゃないから」
と、顔を真っ赤にして俯く。
そっと両頬に触れて顔を上げると
「毎日、LINEします」
そう言うと、和哉さんは視線を逸らして
「要らない! うざい!」
なんて答えながら、そっと俺の手に触れた。
「和哉さん」
名前を呼ぶと、おずおずと視線を俺に向けてゆっくりと瞳が閉じられる。
唇が重なり、触れるだけのキスを落として抱き締めると、背中に手が回されて、和哉さんが甘えるように俺の胸に頬を摺り寄せた。
愛しくて頭にキスを落として髪を撫でると、和哉さんは俺の顔を見上げて嬉しそうに微笑む。
こんな素直な和哉さんはレア過ぎて
「あ~! 帰りたくない!」
そう叫んだ俺に、和哉さんは驚いた顔をしてから笑い出し、その後、俺の首に手を回して
「じゃあ、帰さない」
そう囁いて、誘うような瞳で微笑んだのだ。
(どうしよう! 帰りたくない。帰りたくないが、帰らないと怒られる)
頭でグルグル考えていると
「どうしても帰るの?」
瞳をうるうるさせて和哉さんが俺を見る。
もう、どうなっても良いか……って、和哉さんにキスをしようとすると「ぷっ」っと吹き出して
「ば~か! 嘘だよ。お前、チョロ過ぎ!」
そう言って俺の鼻を摘んだ。
「ほら、分かったらさっさと帰れ」
素っ気なく言うと、俺から離れて鞄を押し付けた。
「連絡は、しなくて良いからな。折角の修学旅行なんだから、楽しんで来い。僕の事は気にしなくて良いから」
微笑んで言われて、なんだか急に不安になると
「その代わり、きりたんぽ!お土産で買って来い」
そう言われて頷いた。
「たくさん買って来ます!」
笑顔で答えた俺に
「たくさんは要らん!」
と返すと
「じゃあ、また来週な」
そう言って和哉さんが微笑んだ。
「はい! また来週!」
次がある。
そう思うだけで嬉しくて、思わず元気に答えた俺に
「元気だねぇ~」
と言いながら、和哉さんは笑って俺を見送ってくれた。
 こんな幸せな毎日が、ずっと続くと思っていた。
和哉さんが笑ってくれるから、俺は忘れていたんだ。この関係は、自分が強引に始めた関係だったって事を……。
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