猫被りなきみと嘘吐きな僕

古紫汐桜

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思い出~海の回顧録⑱

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俺はそっと和哉さんを抱き締めて
「すみません。俺、他の人のパジャマの忘れ物だと思っていました」
ぽつりと呟くと
「他の人?」
そう呟くと、和哉さんは「あぁ……」と呟いた後
「小関さんだと思ったんだ」
と続けた。
(あいつ……小関さんって言うのか……)
ぼんやりそう思っていると
「あのさ。僕、前に言ったよね? この家に入れたのは、きみが初めてだって」
そう言うと、ふとカレンダーを見て思い出したのか
「あのカレンダーは、この間、食料品を分けてもらった時にうちに品物を運ぶのに入った時、書いた物だよ」
と言うと
「この部屋にちゃんと招き入れてるのは、きみだけだよ」
そう言い切った。
「確かに、小関さんとは肉体関係があったけど……。きみとこういう風になってから、一切触れられていないよ。それは、分かってもらえてると思ってた」
悲しそうに言われて、自分が恥ずかしくなった。
「すみません! 俺、くだらない嫉妬して」
慌ててそう言うと
「大体、この色が小関さんに似合う訳ないだろ! 考えてもみろよ!」
と、突然、怒り出した。
そして小さく笑うと
「初めて見た時、深い青色が海水の色みたいでさ。すぐにきみの顔が浮かんだんだよ」
そう言われた。
遠いと思っていた距離が、気付けばこんなに近くになっていたんだと思ったら、泣きたくなってしまった。
 俺はそんな気持ちを必死に押さえ、もう一度、和哉さんの身体を強く抱き締めた。

 しかし俺は、この後、大恥をかくこになる。
そう。あの後、俺は和哉さんと朝食を食べてから学校へ向かった。
その間、電車の中でなにやらクスクスと笑われていた。
なんだろう?って疑問に思いながら、クラスに入ると、大崎が俺の姿を見るなり大爆笑して来た。
ムッとして
「なんだよ!」
と言うと、大崎が涙を流しながら
「お前、まさかそれでここまで来たのか?」
と言われたのだ。
俺はまさか……っと思い、慌ててトイレに駆け込んだ。
そして、和哉さんが貼ってくれた絆創膏を見ると……、そこにはファンシーな猫が描かれた絆創膏が貼られていた。
しかも、見事に襟の部分から猫が両手を出して、外を覗いているような貼り方をしていたのだ。
(くっそ~~~!)
思い返せば、やけにご機嫌にお見送りまでしてくれてると思ったんだよ!
剥がそうとして、剥がせば歯型とキスマーク。
そのままなら、猫の可愛い絆創膏。
どっちも罰ゲームじゃねぇか! って、トイレで地団駄を踏んでいた。
するとトイレのドアが開き、大崎が大きめの絆創膏を持って現れたのだ。
「ほら、これと貼り替えろ」
そう言われて、「ありがとう」と受け取ろうとしたら、大崎に肩を組まれて
「海く~ん。それ、まさかキスマークを隠しいてるんじゃ無いよな?」
そう言われて、絆創膏を強引に剥がされた。
大崎は、剥がした絆創膏にある歯型とキスマークを見ると、後ずさって
「うっわ! やっべ! お前、最低! えっち!」
揶揄うように言われて、俺が真っ赤になると
「なんだ、なんだ! 例のお姉様か? ったく。お前、本当に振り回されてんな~」
と言うと
「ほら、貼ってやるよ」
と言われて、今朝のデジャブ感に素直になれない。
「いや、自分で貼るから、それ、よこせ」
そう言うと、大崎はニヤニヤして
「なんだよ、お前。人から物をもらうのに、その態度。可愛くねぇ~!」
と言いながら、絆創膏の紙を剥がして
「ほら、良いから来いよ」
そう言って、大崎が俺の腕を掴んで引き寄せた。
「ちょっと悠斗、まだ?」
ドアが開いて、よろけた俺を大崎が抱き留めた瞬間を、廊下に居た全員に見られた。
「きゃ~~~!」
黄色い声に、耳が割れるかと思った。
関川は慌ててドアを閉めたが、時既に遅し。
「まぁ、これでお前の「にゃんそうこう」事件は消えるべ」
そう呟いて、俺の首のキスマークに絆創膏を貼り付けてトイレを後にした。
出る前に確認すると、きちんと隠れている。
ホッとして廊下に行くと、女子達の奇異の目が……。
 この後、「大崎と一条の隠れた三角関係」という、ふざけた校内新聞が出回ることになる。
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