猫被りなきみと嘘吐きな僕

古紫汐桜

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思い出~海の回顧録⑮

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「お前、明日は来なくて良いから」
 いつものように和哉さんの家に行き、身体を重ねた後、脱ぎ捨てた制服を拾いながら着ていると、ポツリと和哉さんに言われた。
「え?」
驚いて和哉さんの顔を見る。
だって、明日は和哉さんの誕生日なのに……。
その言葉を飲み込むと
「学校の奴等と……飯……食うから」
俯いて、和哉さんはそう呟いた。
和哉さんは嘘を吐く時、視線を落とす癖がある。
「そうですか……」
そう答えながら、俺の脳裏にあの男の顔が浮かぶ。

あいつに会うの?
俺に抱かれた翌日に、あの男に抱かれるの?
誕生日にあいつを選ぶのは、本命があいつだからなの?

口から吐き出しそうな言葉を、グっと飲み込む。
胸が、灼熱の鉛を飲み込んだように熱く苦しい。
動きが止まった俺を、不安そうに和哉さんがベッドから見ている。

なんであなたがそんな顔をするの?
俺を捨てるのは……、いつだってあなたなのに……。

残酷な人だと思った。
いつだって俺の手を離すのは和哉さんなのに、こんな時、捨てられた子猫のような目で俺を見つめる。
俺は着ていたシャツを脱ぎ捨てて
「じゃあ……明日の分も今、抱いて良いですか?」
そう言って、ベッドの和哉さんを抱き寄せた。
「お前、門限!」
そう呟いた唇を強引に塞ぐ。
平日は跡を残さないように気を付けて抱いていたけど、俺はわざと跡を残すように激しく抱いた。
「海、ダメ……そんな強く吸わないでえ……」
俺の頭を必死に離そうとするけど、その手には力が入っていない。

誰にも渡さない!
心が手に入らないのなら、せめてこの人の身体は誰にも触れさせない!

白くきめの細かい和哉さんの肌に、俺の所有の証を刻んで行く。
分かっていた。
あなたが俺の名前を呼ぶのは、いつだってベッドの中でだけ。
俺は、あなたに名前さえも呼んでもらえない存在なんだって……。
打ち付ける昂りに、和哉さんの白くて細い首が仰反る。その首に噛み付くようにむしゃぶりつき、何度も何度も灼熱の楔を打ち付けた。
俺の背中に和哉さんの爪が食い込んで、鈍い痛みが走る。
好きなのに……愛しているのに………。
叩き付ける欲望は、あなたの心を閉ざすだけ。

どうすればいい?
どうすれば、俺の想いはあなたに届くのだろうか?

重ねる肌が熱ければ熱い程、心は悲しみに凍り付く。
和哉さん、俺は間違えたのかな?
憎まれても良いなんて……嘘だ。
嫌われても良いなんて……、なんで思ったんだろう。
こんなにもあなたが必要で、こんなにもあなたしか見えないのに……。
激しい動きの中で、和哉さんが息を切らせながら
「も……ダメ………っ!」
と、身体を小刻みに振るわせて、打ち付ける楔を離すまいと締め付けて来る。
「和哉さん……。俺だけ見て……、俺だけを……!」
2、3回、叩き付けるように腰を打ち付けると、俺の頬にまで和哉さんの吐精した滴が飛んで来た。
全身を震わせ
「あっ……、あぁ……」
甘い吐息を吐きながら、俺にしがみついている愛しい人の額に口付ける。
ゆっくりと抱き締めてから、和哉さんから抜こうとすると、和哉さんの足が俺の腰を挟んで引き止めた。
「和哉さん?」
「お前、余韻を残すってのを知らないの?」
荒い呼吸をしたまま、そう言って和哉さんが俺にしがみつく。
「もう少し、中でお前を感じていたいんだよ」
そう言われて、全身の血が沸騰したようになる。
「……ぁっ!」
その瞬間、和哉さんは身体を震わせて喘ぐと
「お前……何、又……硬くしてん……だよ!」
怒ったように睨まれても、頬を上気させて涙目の状態だから、逆に煽っているようにしか見えない。
「煽った和哉さんが悪いんですよ」
再びゆっくりと抽送を始めると
「はぁ? 煽ってな……い……」
そう反論しながら、達したばかりの敏感な身体なので、すぐに和哉さんは喘ぎ声を上げ始める。
 何処まで求めたら、満たされるのだろうか?
いつになったら、この不安から逃れられるのだろうか?
俺は答えの出ない問いを繰り返しながら、3度目の絶頂を和哉さんの中へと叩き付けた。
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