猫被りなきみと嘘吐きな僕

古紫汐桜

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思い出~海の回顧録⑤

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 先生がいなくなってから、俺は親父にお願いして、地元で一番偏差値の高い学校へ編入試験を受けさせてくれるようにお願いした。
失敗すれば高校中退になってしまうリスクを犯してでも、チャレンジしてみたかった。
「お前はちゃんと生きてるよ。自信持て」
あの時の言葉が、いつでも俺の背中を押してくれた。死に物狂いで勉強して、必死に先生の事も忘れようとしていた。
そんな時、渚から
「そんなに猫被って楽しいか?」
と言われてしまった。
先生への断ち切れない想いと、受験の重責でストレスMAXの時に言われてしまい
「へぇ……渚は俺の本性知ってるんだ」
そうキレ気味に言ってしまった。
それ以来、渚は俺に怯えるようになってしまう。
あの頃の俺は、全然余裕が無かった。
表面は笑顔で取り繕い、必死に勉強して編入試験に合格した。
そんな時、親父から
「来年、本社勤務になるかもしれない」
と言われた。
「一緒に来てくれるよな?」
と言われ、折角、編入したのに仕方ないか~って諦めた俺とは裏腹に、渚が反発したのだ。
「俺は、絶対に行かない!」
そう叫ぶ渚に、親父は山奥にある全寮制の男子校に受かったら日本に残って良いと条件を出した。
渚は受験を受けると言ったものの、その高校は県内の私立高校でもかなりレベルが高い。
あの日以来、俺に警戒してしまった渚は家庭教師を雇ってもらう事にした。
しかし、元々人見知りの渚に家庭教師なんて合う訳が無く、直ぐにクビになってしまう。
「母さん、やっぱり俺が勉強を見ようか?」
そう聞くと
「そうね……。取り敢えず、次の先生がダメだったらお願いするわね」
と言われて、もう、次が決まったのか……くらいに考えていた。
新しい学校は公立高校なだけあって、自由で、基本的に生徒が自立して自分達のやりたい事を責任持ってやらせているような学校だった。
 その日は日直で、早めに学校へ登校しなければならなくて、学校に向かって歩いていた。
近道をしようと裏道に入ると、ラブホ街に出る。
坂道を登っていると、綺麗なラブホから不似合いなエリート風の男が出て来た。
(エリートも、やる事はやっているんだな~)
と思っていたその時だった。
俺の心臓がドクリと高鳴る。
その男の後ろに、見覚えのある人物が現れたのだ。
(まさか……)
思わず凝視してしまう。
俯いていた顔が上げられ、目が合う。
その瞬間、全身の血が沸騰したような感覚になった。
ガラス玉のような漆黒の瞳。
白い肌と、その白さを強調するような漆黒の髪の毛。赤く濡れた唇。
俺はその瞬間、隣に並んで歩くエリート風の男を殴り飛ばして、その人を連れ去りたい気持ちになった。
その感情を必死に押さえていると、俺の隣を2人が通り過ぎる。
ふと見たその人の首筋に紅印が刻まれていて、嫉妬で気が狂いそうになった。
一度だって、忘れた事は無かった。
あの日、涙を流しながら笑っていた笑顔。
空を見上げていた綺麗な姿。
あの日から、俺の好きな色は青になった。
ずっと会いたかった人と、こんな形で会うなんてショックだった。
諦めろという忠告なのかもしれない……、そう思った。
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