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思い出~海の回顧録③
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「おい、そこの生徒。降りてこっちへ来い」
目を据わらせ、その人は俺を呼ぶ。
諦めて降りると
「此処、生徒の立ち入り禁止場所って分かっているよな?」
そう言われて黙っていると、手を出された。
「生徒手帳出して。報告するから」
そう言われて、大人しく胸ポケットから生徒手帳を取り出して手渡すと、その人は手帳に目を落とし
「一条海……?一条って……」
そう言いながら俺の顔を見上げた。
漆黒の、ガラス玉のような瞳が俺を見つめる。
その後、突然、俺の手を掴んでマジマジと見てから、バチンと音が鳴る程の強さで両頬を挟んだ。
そして俺の顔を引き寄せると
「うわ!間近で見ると、お前、本当に嫌味なくらいに綺麗な顔してんな」
と呟き、手を離してうんうんと頷き始めた。
「あの?」
疑問の視線を向けると
「あぁ、悪い悪い。嫌さ、あんなにボロカス言われる奴って、どんな奴か興味あったんだよね」
そう言われて、思わず拍子抜けする。
「はぁ……」
呆れた声を出すと、その人は僕に顔を近付けて
「仕方ないな。お前……、その身長でその顔。で、がっかりするくらいの変な声でもなく、まぁ、普通? それで学年トップ。嫌味だね~」
って言って笑っている。
そして突然、制服の上から身体を触り出し
「しかもお前、身体鍛えているだろう? そりゃ~、女子からキャーキャー言われるわ」
無遠慮に話して来るこの人に
「俺だって、こんな顔で生まれたかった訳じゃ無い!」
思わず叫んでしまっていた。
「何をしたって、みんなこの顔だからえこひいきされてるって……。どんな顔してたって、モテるからスカしてるだとか、良い気になってるとか言いたい放題言われて。だから笑ってるしかなかった。それでも、結局は……」
そう言い掛けて唇を噛んだ。
『俺は一条様だ!って顔して』
あの言葉が脳裏を過ぎる。
すると
「馬鹿じゃないの?」
突然言われて、目が点になる。
「お前さ、そんだけ綺麗な顔で産んでくれた親に感謝だよ。良いか、頭が良くて優しいブサイクと、顔が良くて頭が悪いけど優しいイケメン。どっちが選ばれると思う?」
真剣に聞かれて思考が止まる。
「はぁ?」
思わずそう返すと
「はぁ? じゃないよ!お前な。さっきの奴等の顔見てないだろう? あんだけブサイクじゃさ、そりゃ~女にモテないよ。しかも性格まで最悪。ありゃ~、人生終わってるな」
その人はそう言うと
「お前が努力してるのは、一目で分かるよ。指のペンだこ。引き締まって綺麗に付いてる筋肉。なによりその目だ」
そう言うと、まっすぐ俺を見つめた。
「きみの目は、己を律して真っ直ぐに生きている目をしている。だから、上っ面しか見ない奴等の言葉なんか気にするな」
そう言って、俺の胸ポケットに生徒手帳を戻した。
「え?」
驚いてその人の顔を見ると
「散々、ボロカス言われて、生徒指導に怒られたらお前、泣いちゃうだろう? 僕、ベッドで泣かされるのは好きだけど、泣かせる趣味無いから」
そう言って微笑んだ。
ポカンとしてその人を見た後、言葉の意味を理解して顔が赤くなる。
「な!」
「お! その反応、可愛いね~」
真っ赤になる俺を、楽しそうに見上げると
「一条海。確かに生まれ持って綺麗な顔立ちをしているが、お前はちゃんと生きているよ。自信持て」
そう言うと、生徒手帳が入ってる胸ポケットをノックするように叩く。
その瞬間、ドクリと心臓が高鳴る。
「あれ? なんか今、教師っぽくなかった?」
そう言って笑っている声が、心臓の音で良く聞こえない。
『ドキン』
「そう言えばお前、1年だよな?」
『ドキン』
「C組って書いてあったから、お前のクラスは火曜日だったよな?」
俺を見上げる瞳と目が合う。
その瞬間、顔が熱くなって息苦しい。
心臓の音がずっとうるさくて、声が遠くに聞こえる。
「おい、どうした?」
怪訝な顔をして、その人が俺の顔を両手で挟んで額と額を合わせた。
その人の顔がドアップになり、目線をどこにしたら良いのか分からなくなる。
「なんだ! 真っ赤な顔してるから、熱があるのかと思っただろう!」
そう言って手を離すと、にやりと微笑み
「お前……さっきの事、想像してたんじゃねぇだろうな?」
と言われた。
「さっきの?」
と聞き返しながら
『ベッドで泣かされるのは好きだけど』を思い出す。益々真っ赤になっていると、その人は俺に手招きをした。
なんだろう?って思って近付くと、首に手を回されて
「海のえっちぃ」
そう囁かれ、耳元に息を吹きかけられた。
「!」
驚いて後退りすると、悪戯が成功した子供のような顔で楽しそうにお腹を抱えて笑っているその笑顔が……本当に綺麗だった。
何も映さない瞳より、何も興味無さそうに遠くを見つめている顔より、お腹を抱えて笑っているその人が、誰よりも愛おしいと思った。
目を据わらせ、その人は俺を呼ぶ。
諦めて降りると
「此処、生徒の立ち入り禁止場所って分かっているよな?」
そう言われて黙っていると、手を出された。
「生徒手帳出して。報告するから」
そう言われて、大人しく胸ポケットから生徒手帳を取り出して手渡すと、その人は手帳に目を落とし
「一条海……?一条って……」
そう言いながら俺の顔を見上げた。
漆黒の、ガラス玉のような瞳が俺を見つめる。
その後、突然、俺の手を掴んでマジマジと見てから、バチンと音が鳴る程の強さで両頬を挟んだ。
そして俺の顔を引き寄せると
「うわ!間近で見ると、お前、本当に嫌味なくらいに綺麗な顔してんな」
と呟き、手を離してうんうんと頷き始めた。
「あの?」
疑問の視線を向けると
「あぁ、悪い悪い。嫌さ、あんなにボロカス言われる奴って、どんな奴か興味あったんだよね」
そう言われて、思わず拍子抜けする。
「はぁ……」
呆れた声を出すと、その人は僕に顔を近付けて
「仕方ないな。お前……、その身長でその顔。で、がっかりするくらいの変な声でもなく、まぁ、普通? それで学年トップ。嫌味だね~」
って言って笑っている。
そして突然、制服の上から身体を触り出し
「しかもお前、身体鍛えているだろう? そりゃ~、女子からキャーキャー言われるわ」
無遠慮に話して来るこの人に
「俺だって、こんな顔で生まれたかった訳じゃ無い!」
思わず叫んでしまっていた。
「何をしたって、みんなこの顔だからえこひいきされてるって……。どんな顔してたって、モテるからスカしてるだとか、良い気になってるとか言いたい放題言われて。だから笑ってるしかなかった。それでも、結局は……」
そう言い掛けて唇を噛んだ。
『俺は一条様だ!って顔して』
あの言葉が脳裏を過ぎる。
すると
「馬鹿じゃないの?」
突然言われて、目が点になる。
「お前さ、そんだけ綺麗な顔で産んでくれた親に感謝だよ。良いか、頭が良くて優しいブサイクと、顔が良くて頭が悪いけど優しいイケメン。どっちが選ばれると思う?」
真剣に聞かれて思考が止まる。
「はぁ?」
思わずそう返すと
「はぁ? じゃないよ!お前な。さっきの奴等の顔見てないだろう? あんだけブサイクじゃさ、そりゃ~女にモテないよ。しかも性格まで最悪。ありゃ~、人生終わってるな」
その人はそう言うと
「お前が努力してるのは、一目で分かるよ。指のペンだこ。引き締まって綺麗に付いてる筋肉。なによりその目だ」
そう言うと、まっすぐ俺を見つめた。
「きみの目は、己を律して真っ直ぐに生きている目をしている。だから、上っ面しか見ない奴等の言葉なんか気にするな」
そう言って、俺の胸ポケットに生徒手帳を戻した。
「え?」
驚いてその人の顔を見ると
「散々、ボロカス言われて、生徒指導に怒られたらお前、泣いちゃうだろう? 僕、ベッドで泣かされるのは好きだけど、泣かせる趣味無いから」
そう言って微笑んだ。
ポカンとしてその人を見た後、言葉の意味を理解して顔が赤くなる。
「な!」
「お! その反応、可愛いね~」
真っ赤になる俺を、楽しそうに見上げると
「一条海。確かに生まれ持って綺麗な顔立ちをしているが、お前はちゃんと生きているよ。自信持て」
そう言うと、生徒手帳が入ってる胸ポケットをノックするように叩く。
その瞬間、ドクリと心臓が高鳴る。
「あれ? なんか今、教師っぽくなかった?」
そう言って笑っている声が、心臓の音で良く聞こえない。
『ドキン』
「そう言えばお前、1年だよな?」
『ドキン』
「C組って書いてあったから、お前のクラスは火曜日だったよな?」
俺を見上げる瞳と目が合う。
その瞬間、顔が熱くなって息苦しい。
心臓の音がずっとうるさくて、声が遠くに聞こえる。
「おい、どうした?」
怪訝な顔をして、その人が俺の顔を両手で挟んで額と額を合わせた。
その人の顔がドアップになり、目線をどこにしたら良いのか分からなくなる。
「なんだ! 真っ赤な顔してるから、熱があるのかと思っただろう!」
そう言って手を離すと、にやりと微笑み
「お前……さっきの事、想像してたんじゃねぇだろうな?」
と言われた。
「さっきの?」
と聞き返しながら
『ベッドで泣かされるのは好きだけど』を思い出す。益々真っ赤になっていると、その人は俺に手招きをした。
なんだろう?って思って近付くと、首に手を回されて
「海のえっちぃ」
そう囁かれ、耳元に息を吹きかけられた。
「!」
驚いて後退りすると、悪戯が成功した子供のような顔で楽しそうにお腹を抱えて笑っているその笑顔が……本当に綺麗だった。
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