猫被りなきみと嘘吐きな僕

古紫汐桜

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涙が止まらない

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「ひっく…ひっく…」
 大きな海の背中に揺られて、僕は子供みたいに泣いていた。
結局、中々泣き止まない僕に、海は僕の身支度を整えると、背中に背負って歩き出した。
少し会わなかっただけで、身長が伸びたみたいだ。
軽々と僕を背負い、僕を気遣うように歩いている逞しい背中に安心する。
少しして、小関さんの車の前に到着してしまう。
離れるのが嫌で、海の背中にしがみついていると
「坊主、お前も乗れ」
そう言って、僕と海が車に乗り込むと小関さんが車を走らせた。
その間も、僕は海の背中を握り締めてずっと泣いていた。
涙腺が壊れたみたいに涙が止まらない。
しばらく走ると、見知らぬマンションに車が止まり、小関さんが海に鍵を手渡している。
「ここの10階、貸してやるから2人で話し合え」
小関さんの声に顔を上げて
「ま……さ……っき…さ…」
泣いているからうまく言葉が続かないでいると
「気を使うな。いつも通り、小関さんで良いよ。俺とお前は、元担任の兄貴と弟の元生徒。で、弁護されるお客様と弁護士の関係だろう?」
そう言われた。
その瞬間、落ち着き始めた涙が一気に溢れ出す。
「あ~! これだから、ガキの相手は嫌なんだよ!おい、坊主。さっさとこいつを連れて降りろ!」
と言われてしまう。
海は泣いている僕を再び背中に背負うと、ゆっくりと車から離れた。
「坊主の両親には連絡入れておく。……それから和哉、今度は間違えんなよ」
そう言い残して車は走り去ってしまった。
気が付くと、波の音が聞こえて潮の香りがする。
エントランスに入ると
「おかえりなさいませ」
と、落ち着いた女性の声が聞こえた。
オートロックの入り口を3箇所抜けて、エレベーターに乗り込み部屋の中へと入った。
玄関で靴を脱いで中に入ると、中は落ち着いたリゾートマンションだった。
「取り敢えず……、飲み物でも飲みましょうか?」
海が僕をソファに下ろして、ゆっくり立ち上がる。僕は海の背中を握り締めて、エグエグと泣いていた。
「あの……和哉さん?俺、飲み物取りに行きたいんですけど」
困ったように言われても、僕は手を離せなかった。
「じゃあ、一緒に行きます?」
そう聞かれて、泣きながら頷く。
海に着いて歩いて冷蔵庫に行き、中を開けて飲み物を探す。
「俺は水を飲みますけど、和哉さんはどうします?」
海に聞かれて、泣きながら海の持っているお水を指差した。
「同じで良いんですか?」
そう聞かれて僕が頷くと、海はペットボトルのお水を2本持って歩き出した。
僕は黙って着いて歩くと、海がソファに座ったのを見て、海に抱き付くように膝の上に座った。
「えっと……和哉さん?」
困った声を出されて、僕がおずおずと離れようとすると、突然、強く抱き締められた。
「そんな可愛い態度されたら……」
そう呟いて、海はハッとしたように強く抱き締めていた腕の力を抜いた。
疑問に思って海の顔を見上げると、悲しそうに瞳を揺らして僕を見つめている。
(どうして、そんな悲しい目をしているの?)
うまく言葉が紡げなくて、僕は海の頬にそっと触れると、海は僕の手を掴んで手の平にキスを落とす。
「和哉さん……俺……」
そう呟いた海に抱き着き
「海……す……き……。大……す……き……」
泣きながら呟くと、海が一瞬身体を強ばらせた。
(もう、ダメなのかもしれない……)
覚悟はしていた。
でも、もうこの気持ちを誤魔化すのは止める事にしたから……。
そう思ってギュッと抱き付くと
「う……そ……。和哉さんが?」
と呟いた。
そして僕の身体を引き剥がし、両手で顔を挟むと
「もう一回、もう一回言って下さい」
そう言われた。
僕は涙でぐちょぐちょな顔で
「海……愛している……」
そう呟いた。
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