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まさか……助けに来てくれるなんて

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『ドンドン!ドンドン!』
 その時、物凄い勢いでドアが叩かれた。
『ガチャガチャ』とドアノブが回され、再びドアが叩かれる。
「おい、開けろ!開けないなら、蹴破るぞ!」
聞き覚えのある声に、涙が溢れる。
そして『ガン!ガン!』と音が鳴った後、『ミシミシ』っと鈍い音が鳴ってドアが開いた。
開いて……上半身裸でぐったりした僕を見たらしく、海は慌ててドアを閉めた。
「きみ、誰? 高校生? いけないな~、学校の備品壊しちゃ」
僕に覆いかぶさっていた先輩はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
「……よ。……お前、何してるんだよ!」
海はそう叫んで先輩に殴り掛かった。
しかし先輩は軽く避けると
「野蛮だな~。これだから高校生は」
そう言って笑っている。
海はぐったりしている僕に駆け寄ると、そっと着ていた制服の上着を掛けてくれた。
そして僕の前に立ちはだかり
「この人に、指一本触れさせない!」
そう叫んだ海の後ろ姿に、涙が滲む。
「へぇ~、カッコイイ」
先輩は気怠そうに拍手をしながらそう言うと
「何? スーパーマンにでもなったつもり?」
冷めた目で海を見つめてそう呟いた。
「そんなんじゃ無い!」
海がそう言って先輩を真っ直ぐ見つめていると
「本当……予定外が多過ぎて、腹が立つ」
そう言うと、海の顔に蹴りを入れようと足を振り上げた。
僕が息を呑むと、海は片手でその足を払い落とし、先輩に向かって蹴りを入れようとした。
「海! 駄目だよ、手を出しちゃ!」
僕が叫ぶと、海は蹴り上げようとした足をその場で止めて、ゆっくりと足を下ろすと防御の姿勢を取っている。
「気に入らないな~。何? 格闘技とか習ってる系? ナイト気取ったその面、マジでムカつく」
先輩はそう言うと、胸ポケットからナイフを取り出した。
「ねぇ、これで俺が自分の身体を傷付けて、お前がやった事にしたら……どうなるのかな?」
先輩は楽しそうにクスクスと笑う。
「和哉もその状態だろう?高校生が和哉を狙って強姦していたから、俺が守ろうとしたら切られたって……。きみ、高校生だよね? 人生、終わっちゃうね」
そう言うと
「あぁ……本当に……。和哉、どうしてきみは僕の思う通りにならないんだろうね。悪い噂流しても、いつまでもこの大学に残っているし。まぁ、あのクソ教師が殺されたのは、予想外のラッキーだったけど」
そう呟いたのだ。
「まさか……小関先生を殺させたのは……」
思わず呟いた僕に、先輩は驚いたように僕の顔を見て
「何? 僕がやったって?」
そう言うと大爆笑し始めた。
そして急に真顔になって
「和哉、ドラマの見過ぎ……。俺は何もしていないよ。まぁ、死んでしまえば良いのに……とは思ってたけどね」
そう言って遠くに目線を飛ばすと
「だって、和哉から手を引けって言うんだ。和哉には和哉の人生があるのに、俺がそれを邪魔したら駄目だって言うんだよ。邪魔なんて、していないのにねえ~」
と言うと、再び笑い出した。
「で、お前……和哉を抱いたの?」
先輩は海を見つめると、そう呟いた。
海がその言葉にビクリと身体を震わせると
「ふ~ん、そう。じゃあ、俺と仲間じゃん」
先輩は冷めた視線でそう言うと
「あのクソ教師よりは、まだマシか。和哉、良かっただろう? 男に身体開くようにしつけたの、俺だから分かるよ。初めてのキスも、初めてのセックスも……全部俺がこいつに教えた」
先輩の言葉に、海が拳を握り締める。
(あぁ……もう、本当に終わりだ……)
僕は白くなる程握り締めている海の手を、ぼんやりと見つめていた。
「こいつ、可愛くおねだりするだろう? 男を魅了する術を、徹底して教え込んだんだよ。感謝して欲しいなぁ~」
得意気に話す先輩に、海がゆっくり口を開いた。
「だから?」
そう吐き出した海に、先輩がムッとした顔で海を見た。
「だから何なんですか? 俺が和哉さんに惚れたのは、一見、線が細いのに意思が強くて……。甘え下手で頑固で我儘で……。それなのに、時折寂しそうに笑う顔が堪らなく辛かった……」
後ろ姿だったけど、海が泣いているのがわかる。
「後悔しています。どうであれ、無理矢理関係を持ってしまった事を……」
海の言葉に、僕は茫然としていた。
(後悔? それって……)
ショックを受けたその時
「俺は! 俺は……、別に和哉さんを抱けなくても良かったんです。この人が……和哉さんが本気で笑っていてさえくれていれば、俺はそれだけで良かったんです。でも、近付いたら欲が出て……全てが欲しくなってしまいました。本当に……俺は、最低な人間です」
そう続けたのだ。
「海……」
思わず呟いた僕の声に、海がビクっと身体を震わせる。
「なに美談にしようとしてるの? 馬鹿じゃないの? 結局、お前も和哉とやったんだよね? お前も俺と同類じゃないか」
馬鹿にするように笑う先輩に、海は身体を強張らせて黙ってしまう。
「で、和哉。どうするの? この子を犯罪者にするか? 俺のモノになるか」
先輩に言われて、僕の身体が震える。
先輩は、他人も自分も傷付けるのは平気な人だ。
いくら僕が海を庇っても、周りを使って犯罪者に仕立て上げるのはお手の物だろう。
どうしたら良い?
海をどうしたら助けられるのかを、必死に考えていた。
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