猫被りなきみと嘘吐きな僕

古紫汐桜

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真っ赤なブーゲンビリア

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 目を開けると、僕は病院のベッドの中だった。
「あれ?」
思わず呟くと
「和哉、気が付いたのか!」
真っ青な顔をした政義さんが、顔を覗き込んで来た。
「此処……病院?」
 僕は、ぼんやりとさんた頭で、あの日の記憶を辿る。
泣いて泣いて泣いて……落ち着いた時に、政義さんに電話した所までは記憶にある。
どうやら僕は、そのまま倒れてしまったらしい。
長い時間雨に打たれていたので、低体温症から肺炎になっていたらしく、3日間、生死の境を彷徨っていたと後になって話を聞いた。
そりゃ~もう、政義さんには延々説教をされた。
家庭教師のバイトを辞めた事を伝えると、政義さんは何も言わずに「そうか……」とだけ呟いた。
1ヶ月の入院生活を余儀無くされ、うんざりしていたけど……。
渚君のご両親が、僕が意識不明の間に一度だけお見舞いに来たらしい。
(と言うか、一度のみでご遠慮願ったらしい)
そしてお見舞い金と書いた封筒には、渚君の受験まで家庭教師をしていたらもらえるくらいの金額が入っていた。
「途中で辞めたのに、こんなにもらって良いのかな?」
ぽつりと呟いた僕に
「あ? 貰えるモノは貰っとけ」
と政義さんは言ってたけど……。
入院生活はぼんやりする時間が多くて、考えたく無い事も考えてしまう。
大部屋にして欲しかったのに、政義さんが個室になんかするもんだから余計に考え事をしてしまう。
そんな時、看護師さんから
「あの……これ、病院の総合受付に持ち込まれたらしくて……。名前を聞いても名乗らないらしくて、誰が持って来たのかわからないらしいんですけど……」
と、看護師さんが紙袋を持ってきた。
中には好きな作家の小説が数冊入っていて、まさか……と思った。

 海は僕がいない時に家に上がり込むと、勝手に部屋の本棚から小説を読んでいた。
いつだったか
「この作家、好きなの?」
そう聞かれて
「うん。でも、最近は大学の参考書にお金が掛かって新刊買えていないんだよね」
って話していたのを思い出す。
ぼんやりと考えていると
「大丈夫ですか?顔色、真っ青ですよ」
そう言われて、ベッドに押し込まれた。
「じゃあ、此処にお見舞いの品を置いて置きますね。気持ち悪かったら捨てますので、言って下さいね」
そう言われて、椅子に置かれた紙袋に視線を送る。
誰からなのかわからないなら、捨てた方が良いよな。とか。
海からとも分からないし……って考えながらも、僕はそのままにして数日が過ぎてしまっていた。
するとある日、検温に来た看護師さんのカートが椅子に当たってしまい、紙袋が椅子から落ちて床に本が散乱してしまった。
「すみません!」
「あ、大丈夫です。僕こそ、放置していたので、すみません」
慌てて本を拾っていると、看護師さんがしおり持ってくすくすと笑い出した。
「あの…?」
驚いて見ていると
「この本を持って来た人って、相馬さんの恋人ですか?」
そう言ってしおりを手渡した。
「?」
疑問の視線を投げると
「このしおり、花の絵が書いてあるでしょう?これ、ブーゲンビリアって花なんですって」
そう言って微笑んだ。
「はぁ……?」
意味が分からなくてきょとんっとしていると
「そっか……。男の人は、花言葉がわからないんですね。真っ赤なブーゲンビリアの花言葉は、「あなたしか見えない」なんですよ」
そう言って微笑んだ。
「もう! どんだけ愛されてるんですか! 相馬さん!」
そう言うと、看護師さんがニヤニヤした顔で僕を見ていた。
「あ……いや、そんなんじゃないんです」
しおりを見つめて呟くと
「でも、そのしおり。本屋のおまけじゃないんですし、多分、意味が分かってて選んだんだと思いますよ」
そう言うと、しおりを裏返した。
そこには「花の名前 ブーゲンビリア。花言葉 あなたしか見えない」と書かれていた。
「相馬さん、綺麗ですもんね~。モテると思いますよ」
うんうんと頷きながら、看護師さんが呟く。
「えぇっ! 僕なんか、全然……」
戸惑って答えると
「何言ってるんですか! その醸し出すフェロモン。憂いを含んだ瞳。そして中性的な美貌。私達ナースの間で、男女問わず魅了する美貌の相馬さんと呼ばれています!」
鼻息荒く言われて、思わず苦笑いする。
「アニメに出てくる王子様って、きっと相馬さんみたいな人だって話しているんですよ」
検温している間に、脈を測りながらそう言われて恐縮してしまう。
「早く良くなって、そのブーゲンビリアの彼女とラブラブになって下さいね」
ガッツポーズをすると、看護師さんは出て行ってしまった。
僕はしおりを見つめて、ポタポタと涙が落ちて来た。海じゃないのかもしれない。
でも、海だったとしたら……。
そう考えて、首を横に振る。
忘れると決めたんだ。
だから、忘れなくちゃ……。
僕は何度も自分にそう言い聞かせて、誰が送って来たのかも分からないしおりを握り締めていた。
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