29 / 96
嘘吐きな僕
しおりを挟む
気が付くと、外は雨が降り出していた。
テレビドラマみたいだって思いながら、駅まで走り続けた。
もう、これで終わる。
これで良いんだ。
そう思った瞬間、肩を掴まれて引き寄せられた。
抱き締められた腕が震えている。
「嫌だ! 誰にも渡さない!」
そう叫ばれて
「先に離れたのは、きみじゃないか……」
僕の口からは、驚くほど冷静な声が出た。
「違う! 違うんだ!」
必死に食い下がる彼に
「もう、良いから。全て忘れてあげる」
小雨だった雨が激しく叩き付けるように降り始めた。
綺麗なアイツの顔が、雨で濡れている。
こんな時でも、なんて綺麗な顔をしているんだろう……ってそう思った。
そっとアイツの頬に触れて
(あぁ……やっぱり好きだ)
と、自分の気持ちを噛み締めて思わず小さく笑ってしまった。
(もう、終わりなのに……。こんなに好きだと、今更気付いてしまうなんて……。僕は本当に馬鹿だな……)
そう考えていると、アイツはホッとしたように僕の手にアイツの手を重ねた。
「聞いて下さい……俺……」
「さよならだ……、一条君」
アイツの言葉を遮るように、僕はそう伝えた。
遠雷が鳴りはじ、昔、流行った若者向けのテレビドラマみたいだと思った。
アイツの頬に流れる雨が、何故か温かいのに気付いた。
涙なのかもしれないと思ったけど、もう、僕にはどうでも良かった。
「それが……あなたの出した答えですか?」
僕を真っ直ぐ見つめる、アイツの綺麗な瞳を見つめ返して
「そうだ」
と答えると、稲光が光って一瞬、世界が白く変わった。
「嫌です……」
雷鳴にかき消されそうな声でアイツは呟いた。
「もう……会えないなんて、嫌です」
駄々っ子のように繰り返すアイツに、僕は最後の止めを刺す覚悟を決めた。
温かい雨が流れる彼の頬から手を離そうとすると、アイツは僕の手に触れている手に力を込めた。
でも、雨で濡れた手はするりと離れ、僕はアイツに背を向けた。
「きみに追い掛けられるのは迷惑だ! 二度と、僕の目の前に現れないでくれ!」
吐き捨てるように言うと、アイツを残して歩き出した。
背後で、崩れ落ちるようにアイツが泣いている声が聞こえた……ような気がした。
でも、雷鳴の音で聞こえないフリをして歩き続けた。
今、足を止めたら、引き返してしまう。
アイツの話を聞いてしまう。
そうしたら、アイツを許してしまうから……。
……もう、小関さんと生きると決めたんだ。
何度も僕の手を引いて、横道に逸れないようにしてくれた人を選ぶと決めたんだ。
(海、ごめん……。傷付けて、ごめん。酷い奴だと呪ってくれて良い。恨んでくれて良い。きみにはもっと、普通の幸せな道を歩いて欲しい。それはきっと、僕とは歩けない道だから……)
僕は漏れる嗚咽を必死に押さえ、流れる涙が止まるまで駅の高架下で泣き続けた。
テレビドラマみたいだって思いながら、駅まで走り続けた。
もう、これで終わる。
これで良いんだ。
そう思った瞬間、肩を掴まれて引き寄せられた。
抱き締められた腕が震えている。
「嫌だ! 誰にも渡さない!」
そう叫ばれて
「先に離れたのは、きみじゃないか……」
僕の口からは、驚くほど冷静な声が出た。
「違う! 違うんだ!」
必死に食い下がる彼に
「もう、良いから。全て忘れてあげる」
小雨だった雨が激しく叩き付けるように降り始めた。
綺麗なアイツの顔が、雨で濡れている。
こんな時でも、なんて綺麗な顔をしているんだろう……ってそう思った。
そっとアイツの頬に触れて
(あぁ……やっぱり好きだ)
と、自分の気持ちを噛み締めて思わず小さく笑ってしまった。
(もう、終わりなのに……。こんなに好きだと、今更気付いてしまうなんて……。僕は本当に馬鹿だな……)
そう考えていると、アイツはホッとしたように僕の手にアイツの手を重ねた。
「聞いて下さい……俺……」
「さよならだ……、一条君」
アイツの言葉を遮るように、僕はそう伝えた。
遠雷が鳴りはじ、昔、流行った若者向けのテレビドラマみたいだと思った。
アイツの頬に流れる雨が、何故か温かいのに気付いた。
涙なのかもしれないと思ったけど、もう、僕にはどうでも良かった。
「それが……あなたの出した答えですか?」
僕を真っ直ぐ見つめる、アイツの綺麗な瞳を見つめ返して
「そうだ」
と答えると、稲光が光って一瞬、世界が白く変わった。
「嫌です……」
雷鳴にかき消されそうな声でアイツは呟いた。
「もう……会えないなんて、嫌です」
駄々っ子のように繰り返すアイツに、僕は最後の止めを刺す覚悟を決めた。
温かい雨が流れる彼の頬から手を離そうとすると、アイツは僕の手に触れている手に力を込めた。
でも、雨で濡れた手はするりと離れ、僕はアイツに背を向けた。
「きみに追い掛けられるのは迷惑だ! 二度と、僕の目の前に現れないでくれ!」
吐き捨てるように言うと、アイツを残して歩き出した。
背後で、崩れ落ちるようにアイツが泣いている声が聞こえた……ような気がした。
でも、雷鳴の音で聞こえないフリをして歩き続けた。
今、足を止めたら、引き返してしまう。
アイツの話を聞いてしまう。
そうしたら、アイツを許してしまうから……。
……もう、小関さんと生きると決めたんだ。
何度も僕の手を引いて、横道に逸れないようにしてくれた人を選ぶと決めたんだ。
(海、ごめん……。傷付けて、ごめん。酷い奴だと呪ってくれて良い。恨んでくれて良い。きみにはもっと、普通の幸せな道を歩いて欲しい。それはきっと、僕とは歩けない道だから……)
僕は漏れる嗚咽を必死に押さえ、流れる涙が止まるまで駅の高架下で泣き続けた。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)
みづき
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。
そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。
けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。
始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――
有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺
高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる