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最後の時
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「和哉、起きろ!」
ベッドで眠っていると、小関さん……もとい、政義さんに叩き起こされる。
眠い目を擦っていると
「昨夜は、何時まで論文をまとめていたんだ?」
と、呆れた顔をされてしまう。
あの日の翌日、大学までの送迎を政義さんがしてくれて、帰宅すると僕の荷物は既に此処に引っ越しされていた。
「家庭教師のアルバイト、どうするんだ?」
そう聞かれて僕は俯く。
「行くよ。中途半端にはしたくないから」
そう答えると
「そうか……。じゃあ、送迎するから」
と言われて
「ダメだよ! 政義さんだって、仕事忙しいのに」
と答えると
「俺がやりたいんだよ」
そう言って、額にキスを落とされた。
あの日以来、政義さんは僕に触れては来ない。
僕が求めれば答えてくれるけど、決して政義さんからは求めて来ない。
まるで、「いつでも逃げられるように」されているみたいだった。
だから僕も求めるのを止めて、今は別々に寝ている。
論文を書いていれば、全てを忘れられた。
だから、アイツを忘れる為にガムシャラに論文を書きまくっていた。
そしてとうとう、今日はあの日以来の家庭教師のアルバイトの日。
いつも通りに一条のお宅へ行くと、2階の踊り場に海が立っていた。
僕は顔を見るのが辛くて、視線を落としたまま無視して渚君の部屋のドアノブに手を掛けた。
「和哉さん、いつ引っ越したんですか? あの後、追いかけたのに見つけられなくて……。次の日、学校終わりにアパートに行ったのに……もう、何も無くて……」
アイツの言葉に目を伏せた。
(もう……良い。何も聞きたくない)
そう思って、渚君の部屋に入ろうとした腕に手を伸ばされた。
「触るな!」
思わず叫んでいた。
アイツがビクっと身体を震わせて、伸ばした手を止めたので
「僕に、二度と話し掛けないで下さい。次に声を掛けて来たら、このバイトを辞めます」
ドアノブを見つめて呟くと、彼の手がゆっくりと下されるのが視界の隅に見えた。
「それは……もう、終わりって事ですか?」
悲しそうな彼の声が聞こえる。
(なんでお前が、そんな悲しそうな声を出すんだよ)
「終わりもなにも、最初から始まってないだろう? 僕は君にとって、ただの性欲の吐け口だったんだから」
小さく呟くと、アイツは弾かれたように僕の肩を掴んだ。
「違う! 俺は……俺は、和哉さんが……」
驚いて見上げた彼の顔が悲しそうに歪んでいる。
「どうして君がそんな顔をするの?」
僕の言葉にアイツが口を開き掛けた瞬間、渚君の部屋のドアが開いた。
「兄貴! 何やっているんだよ!」
怒った顔で彼の腕を僕から引き剥がすと
「兄貴、この間からおかしいよ! 先生に迷惑掛けるなよ!」
そう叫んだ。
「渚! 後で説明するから、お前は黙っていてくれ!」
「説明って何? 先生に迷惑掛けて、何の説明だよ!」
言い争う2人の声に驚いたように、一条さんご夫婦が階段を駆け上って来た。
「何しているんだ! 海、渚!」
一条さんが2人を引き剥がすと、海が僕に視線を向けて近付こうと手を伸ばした。
僕はその手から視線を外し
「すみません。兄弟喧嘩の原因は……僕です。今日限りで、辞めさせて下さい」
そう言い残し走り去った。
「和哉さん!」
背後で、海の悲鳴のような叫び声が聞こえた。
ベッドで眠っていると、小関さん……もとい、政義さんに叩き起こされる。
眠い目を擦っていると
「昨夜は、何時まで論文をまとめていたんだ?」
と、呆れた顔をされてしまう。
あの日の翌日、大学までの送迎を政義さんがしてくれて、帰宅すると僕の荷物は既に此処に引っ越しされていた。
「家庭教師のアルバイト、どうするんだ?」
そう聞かれて僕は俯く。
「行くよ。中途半端にはしたくないから」
そう答えると
「そうか……。じゃあ、送迎するから」
と言われて
「ダメだよ! 政義さんだって、仕事忙しいのに」
と答えると
「俺がやりたいんだよ」
そう言って、額にキスを落とされた。
あの日以来、政義さんは僕に触れては来ない。
僕が求めれば答えてくれるけど、決して政義さんからは求めて来ない。
まるで、「いつでも逃げられるように」されているみたいだった。
だから僕も求めるのを止めて、今は別々に寝ている。
論文を書いていれば、全てを忘れられた。
だから、アイツを忘れる為にガムシャラに論文を書きまくっていた。
そしてとうとう、今日はあの日以来の家庭教師のアルバイトの日。
いつも通りに一条のお宅へ行くと、2階の踊り場に海が立っていた。
僕は顔を見るのが辛くて、視線を落としたまま無視して渚君の部屋のドアノブに手を掛けた。
「和哉さん、いつ引っ越したんですか? あの後、追いかけたのに見つけられなくて……。次の日、学校終わりにアパートに行ったのに……もう、何も無くて……」
アイツの言葉に目を伏せた。
(もう……良い。何も聞きたくない)
そう思って、渚君の部屋に入ろうとした腕に手を伸ばされた。
「触るな!」
思わず叫んでいた。
アイツがビクっと身体を震わせて、伸ばした手を止めたので
「僕に、二度と話し掛けないで下さい。次に声を掛けて来たら、このバイトを辞めます」
ドアノブを見つめて呟くと、彼の手がゆっくりと下されるのが視界の隅に見えた。
「それは……もう、終わりって事ですか?」
悲しそうな彼の声が聞こえる。
(なんでお前が、そんな悲しそうな声を出すんだよ)
「終わりもなにも、最初から始まってないだろう? 僕は君にとって、ただの性欲の吐け口だったんだから」
小さく呟くと、アイツは弾かれたように僕の肩を掴んだ。
「違う! 俺は……俺は、和哉さんが……」
驚いて見上げた彼の顔が悲しそうに歪んでいる。
「どうして君がそんな顔をするの?」
僕の言葉にアイツが口を開き掛けた瞬間、渚君の部屋のドアが開いた。
「兄貴! 何やっているんだよ!」
怒った顔で彼の腕を僕から引き剥がすと
「兄貴、この間からおかしいよ! 先生に迷惑掛けるなよ!」
そう叫んだ。
「渚! 後で説明するから、お前は黙っていてくれ!」
「説明って何? 先生に迷惑掛けて、何の説明だよ!」
言い争う2人の声に驚いたように、一条さんご夫婦が階段を駆け上って来た。
「何しているんだ! 海、渚!」
一条さんが2人を引き剥がすと、海が僕に視線を向けて近付こうと手を伸ばした。
僕はその手から視線を外し
「すみません。兄弟喧嘩の原因は……僕です。今日限りで、辞めさせて下さい」
そう言い残し走り去った。
「和哉さん!」
背後で、海の悲鳴のような叫び声が聞こえた。
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