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本当の気持ち

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 煙草の香りに目を開けると、小関さんが隣で煙草を吸っていた。
「悪い、起こしたか?」
小関さんの声に首を横に振る。

 あの後、小関さんがバス停まで迎えに来てくれて、小関さんの家に連れて来てくれたのだ。
小関さんは泣きじゃくる僕を、落ち着くまで何も聞かずに黙って抱き締めてくれていた。
お風呂を貸してくれて、部屋着も寝る部屋も用意してくれたけど……、1人になるのが怖かった。
小関さんが眠る部屋に行き、衣類を脱いでベッドに潜り込む。
「お前、何して……」
慌て驚く小関さんの唇を塞ぎ
「お願い、一人にしないで……」
涙を流しながら呟くと、小関さんは黙って僕を抱き寄せてベッドに押し倒した。

「大丈夫か?」
頭を撫でられて小さく笑い
「小関さんの手、久し振り」
僕がそう呟くと、小関さんは僕の頬に触れて
「何があった?」
と訊いて来た。
僕が口を開き掛けて、涙が出そうになって口を閉じると
「まぁ……言いたくないなら、無理に言わなくて良い」
小関さんはそう言って僕の頭を撫でながら
「なぁ……、和哉。ずっと考えていたんだが、俺と一緒に暮らさないか?」
そう言い出した。
「え?」
驚いて顔を上げると
「俺なら、お前にそんな顔をさせない」
と言われて思わず俯いてしまった。
「でも…」
そう言いかけた僕の言葉を
「晃の身代わりでも構わない」
と小関さんに言われてハッとした。
僕は海に振り回されている間、先生の事をすっかり忘れていたという事に、この時になって初めてきづいたのだ。

これは……罰だ。
僕なんかの事を、命を懸けて守ってくれた先生を、たとえ少しの間でも忘れていた僕への罰なんだ……。

「僕なんかで良いの?」
ぽつりと呟くと、小関さんは驚いた顔をしてから
「バ~カ、お前が良いんだよ」
そう言って頭をくしゃくしゃと撫でた。
「ずっと……連絡しなかったのに……?」
僕がそう言うと、小関さんは優しく微笑んで
「お前が他の奴と幸せになるなら、俺はいつだって身を引くつもりだったから気にするな」
と呟いた。
「え!」
驚いて起き上がると、煙草を揉み消して僕の腕を引き寄せ
「もう、誰にも譲る気はねぇけどな……」
そう言って唇を塞ぐと、ベッドに押し倒された。
身体を這う手も……唇も……、最奥を穿つ灼熱の楔も……何年も馴染んだ肌の筈なのに、違和感を感じてしまう。
『和哉さん』
いつも激しく求めて来るくせに、泣いているように僕を抱いていたアイツ。
ずっと……身体だけが目的なんだと思っていたアイツが、やっと本音を見せてくれたと思ったのに……。
やっぱり、僕の噂を聞いて嫌になったの?
閉じた瞼から、一筋の涙が流れ落ちる。
「和哉」
呼ばれて目を開けた時、汗を滴らせた綺麗なアイツの顔を思い出してしまって、堪えていた涙が溢れ出してしまった。
(いつの間に、こんなに好きになっていたんだろう……)
ぼんやりと考えていると、小関さんが僕の頬に触れて
「和哉、お前を抱いてるのは誰だ?」
そう囁かれて
「小関さん?」
驚いて瞬きをすると
「これからは、小関さん呼び禁止な」
と言われた。
「え?」
「俺の名前は?」
そう言われて視線を逸らすと
「和哉、呼んで……」
甘えるように頬に頬をすり寄せられて言われ、思わず笑ってしまう。
「もう……、仕方無いな~」
クスクス笑っていると
「和哉……愛している」
そう囁かれて、唇にキスを落とされる。
僕は首に手を回し
「僕もだよ……、政義さん」
と答えて微笑んだ。
海への気持ちは、封印しようと決めた。
あの日、自分の気持ちに気付かなければ良かった。
あんな笑顔、見なければ良かった。
抱き締める肌の温もりも、僕に触れる手の感触も……全部、全部忘れよう。
『和哉さん』
切羽詰まったように僕の名前を呼ぶ声。
『和哉さん……和哉さん……、俺を……俺だけを見てください!』
泣きそうな声で最奥を穿ち、果てる声。
全て忘れるんだ
もう、何もかも忘れてしまえば良い…
「和哉!」
激しく揺すられ、強く2、3回腰を打ちつけられて僕の身体も全身が痙攣する。
「まさ…よ…し…さ……っ!」
ガクガクと震え、必死に背中に回した手で爪を立てる。
「くっ……」
と息を飲む声と同時に、最奥で爆ぜる感覚を身体で受け止める。
ドサっと小関さんの身体が覆いかぶさり、僕の身体を抱き締めた。
呼吸を整えながら、僕はそのままゆっくりと目を閉じた。
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