猫被りなきみと嘘吐きな僕

古紫汐桜

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悲しそうな笑顔

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「先生、いらっしゃい」
 毎週火曜日と金曜日。
可愛い可愛い渚君の家庭教師の日は、気が重い。
インターフォンを鳴らし、渚君のお母さんが僕を招き入れる……筈が、いつしか玄関でお出迎えするのは、爽やかなイケメンの笑顔になった。
「どうも」
僕は顔色を変えず、玄関に入り靴を脱ぐ。
「あら、先生。今日もよろしくお願い致しますね」
パタパタと小走りで渚君のお母さんが現れて、僕に笑顔を向ける。
「こんばんは。こちらこそ、よろしくお願い致します」
にっこり微笑んで一礼すると、階段を上る。
すると僕の後ろを、爽やかな笑顔を貼り付けたアイツが着いて来る。
2階に上がり、向かい合わせの渚君の部屋のドアノブに手を掛けようとすると、腰を引き寄せられて前の部屋へと強引に押し込められた。
ベッドに投げ込まれ、『ギシッ』とベッドが軋む音を立てて僕の上に覆い被さると
「何度言ったら覚えるんです? 渚の部屋に行く前に、俺の部屋に来て下さいよ」
ギラリと鋭い光を宿し、彼が顎を掴む。
「ふざけるな! 僕の生徒は渚君なんだから、きみの部屋に寄る必要は無い!」
僕の反論に
「必要は無い? 無くは無いでしょう? 恋人なんですから」
そう囁き、強引に唇を奪う。
「んぅ…!」
彼の背中を叩き必死に抵抗すると、服の上から胸の突起をつまみ上げられる。
「んぅ!……んっ!」
くぐもった声が上がり、身体がびくんっと跳ね上がる。
舌を絡め取られ、全てを奪い尽くすような激しいキス。
上顎を舐められて、思わず縋り付くように彼の背中を握り締めた。
舌を彼の前歯で甘噛みされて、『ジュっ』と吸い上げられながら舌先を彼の舌で舐められ、散々口内を侵されて唇が離れた。
荒い呼吸で睨み上げると
「あなたが素直に従えば、軽いキスだけで解放しますよ」
にっこり微笑んでそう言うと、僕の両手を掴んでベッドから起こすとぎゅっと抱き締めた。
肩に額を当てて、首筋に鼻先を当てられて
「くすぐったい!」
と顔を引き剥がすと、彼は悲しそうな笑顔を一瞬浮かべて僕の頬に触れた。
そして、軽く触れるだけのキスを落とすと
「お時間を取らせてすみませんでした」
そう言うと、部屋のドアを開けて僕を解放したのだ。
(何なんだ?)
小関さんもそうだ。
みんな、僕を悲しそうな笑顔で見つめる。
首を傾げながら、渚君の部屋のドアをノックしてから開ける。
「先生、遅かったね。大丈夫? 兄貴に絡まれていない?」
心配そうな顔で渚君が聞いてきた。
「大丈夫だよ。分からない問題があるからって、少しだけ捕まっちゃったんだ」
苦笑いを浮かべて答えた僕に
「えぇ! 先生、断って良いんだよ! 兄貴の奴!」
渚君はプリプリ怒り出して
「母さんに、兄さんが先生に絡まないように注意してもらうね!」
と言い出した。
それはそれでめんどくさい事になりそうなので、僕はにっこり微笑むと
「大丈夫だよ。心配してくれて、ありがとう。それより、そろそろ授業を始めようか」
そう言って、教材を鞄から取り出して授業を始めた。
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