猫被りなきみと嘘吐きな僕

古紫汐桜

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生意気なクソガキ

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「はい、宿題は?」
 家庭教師を始めて、遂に2ヶ月目に突入した。
僕はあの日、渚君にゲイである事を告白した。そして、セフレとラブホから出て来た所をお兄さんに見られた事も……。
すると、渚君からは
「へぇ……」
の一言だった。
渚君の反応に拍子抜けしていると
「それで?先生がゲイだと、俺のカテキョである事に何か問題があるの?」
と逆に聞かれてしまう。
「え?だって、気持ち悪いよね?」
思わず驚いて訊くと
「別に?先生の恋愛対象が男だと、なんで気持ち悪いの?何で俺のカテキョを辞めなくちゃならないの?」
意味が分からないという顔をされてしまい、僕の方が困惑してしまった。
すると渚君は、僕の顔を真っ直ぐに見つめて
「俺さ、今までの家庭教師が大嫌いだったんだ。自分の有能さをアピールする為に俺の成績を上げる事ばっかり考えて、ちっとも俺の気持ちを考えてくれなかった。でも、先生は俺の勉強の理解力やペースを考えて授業をしてくれて、嬉しかったんだ。だからね、今は勉強が楽しくなったんだ。だから、先生には本当に感謝しいるんだ。俺は、相馬先生だから学びたいって思ったんだ」
真っ直ぐ僕を見つめて答えた渚君に、嬉しくて涙が出そうになった。
かつて、僕が小関先生に数学の楽しさを教えてもらった日々を思い出す。
『学ぶ事はね本来、楽しいことなんだよ。
分からないから、つまらなくなるんだ。
分かることが楽しくて、ワクワクする事だってたくさんの生徒に知って欲しくて教師になったんだ』
目を輝かせ、僕に学ぶ楽しさ。
難解な問題を解く楽しさを教えてくれた人。
僕も少しだけ、小関先生に近付けたみたいで嬉しかった。
「そうか……ありがとう。そう言ってもらえて、凄く嬉しいよ。でも、きみのお兄さんはもしかしたら、ゲイが嫌な人かもしれない。だから、もしクビになったらごめんね」
そう言って、渚君の少し癖のある柔らかい髪の毛を撫でると、嬉しそうな恥ずかしそうな笑顔を浮かべた後
「先生が兄貴の家庭教師なら仕方ないけど、俺のカテキョなんで問題ないです」
そう言って『文句は言わせません!』って鼻息荒く言ってくれたけど……。
 お陰様で、何故かあの日以降もこうして家庭教師のバイトが続いている。
ただ、渚君のお兄さんと初めて会った日の顔を思い出すと、あのお兄様がそれを許すとはどうしても考え辛かった。
何か起こらなければ良いと思っていた矢先に、事件は起こった。
 その日はいつも通りに授業を終えて、僕はいつも通り帰宅の途に着いた。
駅の改札を抜けて自宅アパートに着く頃、ずっと着けられている気配を感じて、曲がり角手前の所で走って曲がり角を曲がり、物陰に隠れて追跡者の姿を確認した。
確認して……深い溜め息を吐く。
僕を追跡していたのは、渚君のお兄さんだった。
キョロキョロを辺りを見回して、見失った事に落胆して引き返そうとした彼の背中に
「さっきから付け回してるの、きみだったの?」
呆れた声で声を掛けると、彼は驚いた顔で振り向いて僕を見た。
少しの沈黙の後、彼は重い口を開いて
「あんたと……相馬先生と、二人で話したい事がある」
そう呟いた。
彼の顔付きから見て、『家庭教師を辞めろ』とでも言うつもりなんだろう。
僕は深い溜め息を吐いて
「じゃあ、うちそこだから入れば?」
そう言って、近くの二階建てアパートを指さした。
彼はバツの悪い顔をしながら、首に手を当てて頷くと、僕の後ろを着いて来た。
二階建てアパート一階、一番奥の部屋に彼を案内して鍵を開けながら、ふと
(そう言えば……、この部屋に客として人を招き入れるのは初めてだな……)
なんて、ぼんやり考えていた。
小関さんと会うのはいつもラブホだし、小関さん自身が僕の部屋に入るのは恋人になってからと決めているようだった。
多分、この部屋は小関先生と探した部屋だからなのかもしれない。
差し入れやら、大きな荷物を持ち込む時に少し上がるだけで、この部屋に上がってお茶を飲んだ事すら無いのだ。
律儀なんだか、頭が固いのか?
なんにせよ、そんな感じで四年の月日が流れてしまい、本日の招かれざる客が僕の部屋のお客様第一号になった。
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