猫被りなきみと嘘吐きな僕

古紫汐桜

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恋人では無くセフレが良い

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「ねぇ…」
「ん?」
何回かの行為の後、僕の身体を綺麗にしてくれている小関さんに声を掛ける。
「お願いがあるんだけど」
僕の言葉に『又、変な事を言い出すんじゃねぇだろうな?』って顔をした小関さんに
「セフレになってくれない?」
と提案してみた。
すると小関さんは、『やっぱり』って顔をして大きな溜め息を吐くと
「断ったら、他の人を探すとか言い出すつもりじゃねぇよな?」
そう言って困った顔をした小関さんに、わざとおちゃらけて
「当たり!」
と叫んで笑ってみせた。
憐れまれたくは無かった。
例え同情で抱いてくれたとしても、今後も関係を続けるなら憐れみなんか欲しくない。
哀れんで付き合う位なら、放っておいて欲しかった。
だから、精一杯の笑顔を浮かべて虚勢を張った。
すると小関さんは僕の頭をくしゃくしゃと撫でて
「で、何で恋人じゃなくてセフレなんだ?」
そう訊かれて、笑顔が強ばるのが分かる。
僕がギュッとシーツを掴み、溢れそうな涙を堪えて
「恋人は……要らない……」
とだけ答えると、小関さんはしばらく黙って考え込んだ後
「じゃあ、約束してくれないか?」
そう言うと
「お前が望むなら、いくらでも相手をしてやる。その代わり、遊びで他の男と関係を持つのだけは止めろ。ただし、お前が好きになった相手なら話は別だ。俺に構わず、そいつと付き合ってくれ。俺は、お前が他の男に惚れても何も言わないし邪魔もしない。約束出来るか?」
と続けた。
小関さんの提案は、僕にとって都合が良過ぎる程良かったから、大きく頷いて
「分かった。その代わり、小関さんは小関さんで、僕に関係無く恋人を作ったり結婚して良いからね。小関さんが結婚したら、きちんと離れてあげるから」
そう約束した。
 あれから4年の月日が流れた。
僕達の関係は、未だに続いている。
 現在の僕は、大学を卒業しても大学院生として大学に残って研究漬けの毎日を送っている。

「あっ……もぅ……いくぅ……!」
 慣れ親しんだ肌に爪を立て、激しく突き上げられて全身を震わせて果てた。
『ドサリ』と身体が重なり、荒い呼吸を吐き出す唇が重なる。
「んっ…」
絡まる舌が、イッたばかりの敏感な身体に再び火を灯す。
潤んだ瞳で見上げると、果てた筈の僕の中にまだ入っているモノがググッと硬さを取り戻す。
「やぁ…...ん...…」
思わず出た甘い声に
「お前、そんな風にあちこちで色気振り撒いているんじゃねぇ~だろうな?」
苦笑いする小関さんの額に貼り付いた髪の毛に触れると、その手を取られて手の平にキスを落とされる。
 いつからだろう。
僕を抱く小関さんの腕が、同情から愛情に変化していた。
僕を見つめる瞳が、傷を舐め合う悲しい瞳から、熱っぽい瞳に変わっていた。
でも僕は......わざと気付かないフリをしている。
小関さんに『情』はあるけど……、『愛』では無い。
僕の中には、まだ小関先生への想いが燻っている。
だから……本当はもう、この人の手を離さなくちゃいけないと分かっている。
僕のしている事は、小関さんに対して不誠実だって事も……。
でも、一人の夜を過ごすのが怖かった。
一人の夜は、未だにあの悲しい夜の夢を見せる。

美味しいご馳走が並ぶ食卓。
『卒業おめでとう』のプレートが乗った、美味しそうなデコレーションケーキ。
空のグラスがテーブルに並び、最後の人物の帰りをワクワクしながらみんなで待っていた。
予定していた帰宅時間が過ぎ、30分、1時間と時間が過ぎる。
『あら?晃君、どうしたのかしら?』
首を傾げる先生のお母さん。
『おそらく、保護者に捕まっているんだろう。もう少し待っていよう』
新聞を読んでいた先生のお父さんが答えると
『晃に電話してみます』
今よりまだ少しだけ若い小関さんが、自分のスマホから電話を掛ける。
『出ないなぁ……』
ポツリと呟いた小関さんの声に、不安の色が交じる。
みんな無言になり、時計を見上げた。
忘れもしない、午後7時30分
電話の音が、けたたましく鳴り響く。
『はい、小関です。え?警察?』
ドクドクと、心臓が嫌な音を立てて鳴り響く。
その瞬間、小関先生のお母さんが膝から崩れ落ちた。
『晃が……晃が……』
パニックを起こす先生のお母さんから、小関さんが受話器を奪う。
『もしもし。私は晃の兄で、弁護士をしております小関───』

 声が遠くに聞こえて、世界がモノクロに変わる。
あれ?これは夢?
泣き崩れる小関先生のお母さんを抱き留める小関先生のお父さんの顔が……、悲しみに歪む。
僕だけが、外の世界にいるみたいだった。
『相馬』
 薄いピンクの花びらが舞う青空の下で優しく笑う小関先生の世界が、一瞬にしてモノクロに変わると、次に真っ赤な血の色に染まる。
『先生! 小関先生!』
どんなに叫んでも、手を伸ばしても……もう届かない大好きな人。
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